30.関興、晩餐会で殺人事件に出くわす
おことわり
三世紀にそんな物が存在するか!という料理やお酒が出て来ます。この世界はあくまでも、バーチャルリアリティ・歴史シミュレーションゲーム三国志の世界であり、またご都合主義のなんちゃって小説なので、お許しください。m(_ _)m
なお、漢字で書くと面倒くさいし読みにくいので、カタカナのまま残している言葉があります。気になる方は、適宜読み替え変換を行ってください。
パーティー→宴席 ローストビーフ→炙牛肉
ビール→麦酒 ウイスキー→威士酒
また、登場人物がカタカナ語を使っているからと言って、現代知識を知っている転生者だ!というわけではありません。ご了承ください。
次の日。
地方から計吏報告に都に集まった県令たちの歓迎パーティーとして、漢の侍中・郗慮主催の晩餐会がビュッフェ形式で催された。
魚の刺身やローストビーフの洋食メニューの他に、ふかひれ姿煮や海老のチリソース、麻婆豆腐に酢豚などの中華料理の定番も出されていた。
オレはお腹がすいていたので、早速ローストビーフを小皿に取り分け、鄧艾と一緒に食べた。
「うっめぇ~!こんなに豪勢な飯って食ったことがない!」
思わず大声で叫ぶと、周りの大人たちがクスクス笑いながら、
「乾杯もまだなのに、先に箸をつけちゃうなんて……はしたない」
「これだから田舎のガキは……」
と蔑む声が聞こえた。
あ、フライングしちゃった?すまん。
でもしかたないじゃん。どうせ五歳のオレは酒が飲めないし、腐れ儒者のせいで昨日からまともな飯を食ってないんで、お腹がペコペコなんだ。
郗慮の講話に続いて乾杯が終わり、ようやく楽しいお食事タイム!
……と思ったら、田豫が近づいて来て、
「興ちゃん、昨日は大変だったみたいだね」
と心配そうに声を掛けてくれた。
「そうなんですよ。ひどい目に遭っちゃいました」
そんなことより、今は飯が食いたい!
が、田豫はオレのソワソワ感に気づかない様子で話を続ける。その間、鄧艾は嬉しそうに食材を小皿に取り捲くり、大きな口を開けて平らげる様子を目で追うオレ。
くそっ、羨ましい。
「……ねえ、聞いてる?興ちゃん」
と田豫が言った時、ガチャーンと皿が割れる音とともに一人の男が苦しみ出す。
「うっ…うう、毒を盛られた……」
それを聞いた別の県令たちも、
「ど、毒だって?!ウプッ」
「そう言われれば、なんか吐き気が……グエー」
「キャーッ」
パーティー会場は大騒ぎになり、とても歓迎会どころじゃなくなった。
最初に苦しみ出した男――朝廷の重臣である趙忠は、口にした物を吐き出した後、
「おのれ、郗慮めっ!このわしに毒を盛るとは!」
と息も絶え絶えに罵り続ける。一方、犯人と名指しされた主催の郗慮は趙忠に詫びるとともに、「毒を盛るなんて絶対にない」と弁解する。
そうこうしているうちに医者がやって来て治療が行われ、症状の現れた県令ら五人は病院に運ばれたが、嘔吐と下痢程度の比較的軽い症状だったらしく、大事には至らなかったようだ。不幸中の幸いだ。
趙忠はその場で医者の手当てを受けた後、専属の医師に診てもらうと言って、従者に付き添われて自宅に帰って行った。
結局オレは、最初のローストビーフひと切れしか食えなかったじゃん!!
◇◆◇◆◇
ところがその翌朝、事態は一変する。
趙忠が、自宅で口から血を流して死んでいるのが見つかったのだ!
医者の見立てでは、死因は毒物死。
家族の話では、昨日従者に付き添われて帰宅した趙忠は、「しばらく寝るから、誰も部屋に入れるな」と言って、自室に引き籠ったらしい。
主人の命令に従い、誰も部屋に近づくことなく時間が過ぎ、今朝になってベッドの上で口から血を流して死んでいる趙忠をメイドが発見した、というわけだ。
当然、警察では昨日の歓迎会の最中に起こった毒物騒ぎとの関連を疑った。
漢の侍中・郗慮の周辺捜査が行われ、その結果、被害者である趙忠と郗慮とは犬猿の仲であり、曹操が丞相に昇進した暁に空席となる、次期司空のポストを巡って二人が争っていたことが分かった。
ここにおいて警察は、趙忠を殺害する動機が十分で、毒を入れたであろうパーティーの主催者であった郗慮を犯人と断定し、彼の雇う料理人と給仕らを厳しく取り調べた。
追及に耐えられなくなった料理人が、ローストビーフに毒を混入したと自白したため、警察は郗慮を殺人教唆の罪で逮捕、事件は速やかに解決した……かに見えた。
「でも、おかしくないか?」
宿舎のレストランで朝食を食べながら、オレは鄧艾に言った。
「だってさ、オレとおまえは真っ先にローストビーフをつまみ食いしたんだぜ!
でも毒にあたったわけでもないし、吐き気すらもよおしていない。キッチンにいた料理人が、その後で毒を混入するチャンスなんてあるわけがないじゃん」
コクリと頷く鄧艾。
「それなのに、どうして料理人はローストビーフに毒を混入したなんて言ったんだろうなあ?」
「それは被害者の趙忠が口にした料理が、ローストビーフだけだったからですよ」
背後から荀彧が現れて、警察に聞いた情報を教えてくれる。
「なので警察は、被害者が毒を口にした経路を、今のところローストビーフに絞って考えています。一方、君はそれはおかしいと言う。理由を詳しく聞かせてくれませんか?関興君。私は友人の郗慮殿を助けたいんです」
うへぇ、面倒くさい人にからまれた!
「はあ、べつにいいですけど。
オレと鄧艾は、出来立てホヤホヤで並べられていたローストビーフを、実はフライングでつまみ食いしてしまったんですけど、毒にはあたらなかったんです。
そして乾杯の後、お食事タイムになりましたが、その時ローストビーフを口にした被害者の趙忠は毒にあたった。その間ずっとキッチンにいた料理人が、わざわざパーティー会場に足を運んでローストビーフに毒を混入したとは考えられません」
「なるほど。つまり、料理人の自白は嘘ということですね。でも何故?料理人が犯人に買収されて、郗慮殿を罪に陥れようとしたとでも?」
「いえ、そうではありません。拷問とまでは言いませんが、警察の厳しい取り調べから免れて楽になりたかったためでしょう」
「では、郗慮殿は無実ということになりますね!」
と荀彧は嬉しそうに言ったが、オレは首を振って、
「今の段階ではそうとは言い切れません。料理人には毒を混入するチャンスはありませんでしたが、郗慮殿が雇った給仕には、ローストビーフに毒を混入するチャンスがあったのですから」
「若、たぶんそれ違う」
と鄧艾が口を挟む。
「俺、被害者の趙忠が苦しんでる時、知らずにローストビーフを取って食べた。でも俺は平気だった。だからローストビーフ自体に毒は混入していない」
「あっ、おまえローストビーフ二切れも食ったん?ずるいぞ!」
オレは美味い物をたらふく食いやがった鄧艾を妬む。
「関興君、話が脱線してますよ。
でも、今の鄧艾君の話で確定しました。趙忠はローストビーフだけしか口にしませんでしたが、そのローストビーフ自体には毒は混入されていない。ということは、被害者の趙忠が毒を盛られた経路は、別にあったということになる。
警察の見立ては誤りです」
やっぱりね。ということは。
「荀彧様。あのパーティー会場で毒を盛られ、軽傷だった被害者A,B,C,D,Eの方々が口にされた料理は分かりますか?」
「ああ、なるほど。早速、警察に当たってみましょう」
さすが官僚トップの荀彧。ひと声掛ければ、あっという間に情報が得られた。
被害者Aは、ローストビーフと海老チリと点心。
被害者Bは、魚の刺身とフカヒレ姿煮。
被害者Cは、ローストビーフと麻婆豆腐と酢豚と点心。
被害者Dは、海老チリとフカヒレ姿煮と点心。
被害者Eは、ローストビーフと魚の刺身と海老チリと麻婆豆腐。
趙忠は、ローストビーフのみ。
つまり食べた料理は全然バラバラ。共通する項目はない。
「そういえば鄧艾はさ、いろいろ食ってたよね?」
鄧艾は頷いて、
「全種類制覇した」
「うっわ。おまえ食い意地が張ってるなあ」
「……育ち盛りだからしかたない」
べつにいいけどね、タダだし。それに鄧艾のおかげで、パーティー会場のすべての料理には毒物は混入されていなかったことが証明されたのだ。
「じゃあ、飲み物はどうだろう?」
被害者Aは、ビールと葡萄酒。
被害者Bは、ビール2杯。
被害者Cは、紹興酒。
被害者Dは、ビールとウイスキーの水割り。
被害者Eは、紹興酒と葡萄酒。
趙忠は、ウイスキーのロック。
飲み物もバラバラで、共通する項目はない。
しかも捜査の過程で、被害者A~Eと死んだ趙忠の間には、何の接点も繋がりもないことが判明した。たまたまこのパーティー会場に一緒にいただけ。
要するにパーティー会場での毒物騒ぎは、無差別に5人の被害者を襲った犯行なのだ。
「つまり、被害者の趙忠が死因となった毒を盛られた経路は、パーティー会場ではないと考えた方がつじつまが合う」
とオレは断定した。
次回。趙忠殺人事件の謎解きのターン。関興の冴えわたる推理!明日の朝、真犯人が明らかになる!お楽しみに!




