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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第二部・許都青雲編
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28.関興、腐れ儒者どもと舌戦を繰り広げる

ついに許昌の都に到着した。

漢の天子様をお迎えするためだけに造られた政治上の都で、だだっ広い平野の中にポツンと巨大な城壁で囲まれた都市が在る。


城の住民には、いわゆる庶民はいない。貴族か官僚か近衛兵か、あるいはその家族とそれに仕える召使いが主だった。その他には、地方から陳情・報告等に参上した名士たちの宿舎、それに彼らが飲食するためのレストラン等や商店があるだけの、よく言えば機能的、悪く言えば無機質で殺風景な街だ。


城門は厳重に管理されていた。

一度城内に入った者は、都の警護を担当する光禄勲の許可がなければ外に出ることが許されない。たとえれば、箱根の関所の「入鉄砲に出女」みたいな感じだ。


入城手続きが済んで、オレたちは、計吏報告のために登城した県令らが泊まる宿舎に入った。

曹操の指令を受けて配慮してくれたのか、田豫とオレたちの部屋は隣同士だ。


「やれやれ。疲れたな」


オレはベッドの上に寝転ぶ。鄧艾が、


「今日の晩御飯は、田豫様が美味しいものをおごってくれるそうですよ」


「マジか?!ラッキー」


「若、お風呂入ります?」


「そうだな、さっと浴びるか。おまえも一緒に入ろうぜ」


風呂から上がってきれいな服に着替えていると、トントンとドアをノックする音が聞こえた。田豫のお迎えかな?


「はーい。いま行きまーす!」


と言ってドアを開けると、見知らぬ官吏が立っていて、


「関興殿ですな?今から宮殿に参られるよう、呼び出しが掛かっておる」


「はあ、そうなんですか?分かりました」


なんだろう?べつにオレ悪いことしてないけど。

オレは官吏に連れられ、部屋を出て行った。


◇◆◇◆◇


「荊州より、関興殿のお越しです」


と告げられ宮殿の広間のドアが開く。一歩入ると、両側に五名ずつ座った儒学者がオレを待ちかまえていたかのように、ギロリとオレを睨みながら敵意に満ちた顔で居並んでいた。

やだ、なにこれ?怖いんだけど。オレは緊張した面持ちで、


「荊州は唐県より参りました関興です」


と挨拶をした。まずは儒学者の一人・董昭が先制口撃とばかりに口火を切る。


「曹操閣下に反旗を翻して出奔した関羽の息子が、どの面下げて再び曹操閣下のもとに参上した?!」


知るかよ!オレは曹操に来いって言われたから、しぶしぶ都にやって来ただけだ。


「はあ。あなたの仰るとおり、オレは裏切者の息子です。曹操閣下がこんなオレのどこを気に入られたのかオレにも分かりませんが、でも曹操閣下は、

――漢の謀臣・陳平のように兄嫁と密通したり賄賂を取った品行の悪い者でも、優れた才能があれば登用する

と求賢令を出されました。きっとあなたのような凡人には、オレの良い所を見抜くことができないのでしょう」


ぐぬぬ、と顔をしかめる董昭。続いて華歆が、


「いや、わしには君の才能が分かるぞ。荊州で余った米を我が曹操軍に高値で密売して大金を稼ぐ、卑しい金儲けの才というものをな!わっはっは」


さげすんで大笑いする。


「ええ。確かにオレは、四万石の米を準備して隣接する曹操軍の県令・田豫殿に密売しました。おかげで二百万銭もの大金を稼がせてもらいましたよ。

だけどオレが四万石の米を売ったおかげで、曹操軍の兵糧をまかなうことができたのは紛れもない事実。袁軍閥との戦いを有利に進めることに多少なりとも役に立ったでしょう。

それに比べて華歆殿、あなたはいったいどれほどの兵糧を供出しましたか?

オレが密売した米を卑しむのであれば、周のぞくむことを恥とした伯夷・叔斉のように、あなたが毎日の食事で米を食べることをやめて、少しでも軍の兵糧の足しにしようとなさいましたか?」


俺がそう反論すると、華歆はウッと声を詰まらせる。

すると陰険そうな目つきをした桓楷が、


「黙らっしゃい、小童っ!

おぬしは閣下より招聘された“五歳の天才児”ともてはやされて、いい気になっとりゃせんか?

先の西平の戦いで、寡兵をもって閣下の率いる大軍を撃退したと吹聴しておるが、あれはもともと曹操閣下が練った、神のごとき優れた計略。

我が軍が荊州に攻め込む姿勢を示して、袁譚・袁尚軍に隙を見せただけや。

おぬしは閣下が描いたシナリオの上で無邪気に踊らされていただけなんや。

マスコミに注目されたのは、おぬしがまだ子供で、小が大を破ったストーリーが面白いからにすぎん。調子に乗ったらあかんで!」


オレはニッコリ微笑んで、


「ご忠告ありがとうございます。ですがオレに舐められまいと一発()ますために、大の大人が寄ってたかって小童一人に舌戦を仕掛けるとは大人げない。

なるほど。曹操軍は大で小を攻撃し、返り討ちにあうまでがテンプレなのですね」


(あお)った。桓楷は唾を飛ばして、


「ぶ、無礼なっ!天子の勅命を奉じる我が軍を(そし)るとは、不届き千万!やはり賊軍の子は賊軍にすぎぬわ。

こやつの傲慢で恥知らずな本性が明らかになった今、我が曹操軍にふさわしい人材として推挙に値するとは思えませぬ!」


オレはこれ幸いと、


「でしたら、これにて退出しても宜しいでしょうか?

もともとオレは仕官を求めて都にやって来たわけではなく、唐県県令の代理として漢の天子様への計吏報告に参上したまでのこと。曹操閣下の臣下にすぎぬ皆さん方のために、このような余興に出席させられるとは聞いておりませぬ」


「な、なにぃ?!いまの発言は我々直参(じきさん)の家臣を侮辱した罪にあたりますぞ!即刻牢にぶち込むべきです!小童、覚悟はあるか?」


と脅し文句を並べる。オレは呆れて、


「あのさあ、オレが荊州牧の劉表に仕える臣下って、皆さんご存じなんでしょ?

もしもオレが主君の劉表をそしり荊州はしょぼいとけなし、逆に敵対する曹操閣下の臣下にすらおもねるような不忠者だったら、閣下がそんなオレを気に入って都に招くと思いますか?

牢に入れられると聞いて、屈服するような臆病者だと見損なわないで下さい」


と述べた。

もう我慢ならんと桓楷が右手を挙げると、ドアが開いて衛兵がワラワラと現れ、「こやつを牢にぶち込め!」の命令とともに、オレは衛兵に腕をがっしりと掴まれ牢屋に引っ立てられた。ウソだろ?!


次回。牢に入れられた関興を助けてくれたのは、鄧艾とあの偉いイヤミな儒者だった!満を持して荀彧が登場!お楽しみに!

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