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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第二部・許都青雲編
30/271

27.関興、田豫とともに都に向かう

約束どおり、州境の峠で朗陵県令の田豫は待っていてくれた。

オレは待たせたお詫びと一緒に都に同行してくれる感謝の念を述べると、田豫は「曹操閣下のご命令だからね。気にしなくてもいいよ」と言った。


「ところで、そちらの少年は?」


「オレの従者の鄧艾です。都に行きたいと望んでいるので、連れて行くことにしました。ほら、おまえも挨拶して」


「鄧艾です。……」


それだけかよ!


「すみません、不愛想でしつけがなってないもので」


「いや、落ち着き払った豪胆な子じゃないか。興ちゃんの世話係は長いの?」


「実はさっき出会ったばかりでして」


「?」


オレはいぶかしむ田豫を脇に引っ張ってこっそり打ち明けた。


「こいつ、地形と瓦版の情報を分析して、西平の戦いが曹操閣下と父上が仕組んだヤラセって気づいたんですよ!次は騎兵を使って鄴を急襲するってことも予測しやがって。

そのまま放置しておくと閣下の計略が外に漏れる恐れがあるので、これはまずいと思いオレが監視下に置こうかと……」


「なるほど。それなら連れて行くのはやむを得ないと思うよ」


田豫は納得した。


◇◆◇◆◇


許昌までは一週間の行程だ。

田豫が用意してくれた馬車の中で、最初は人見知りしていた鄧艾もようやく慣れてきたのか、ポツポツと身の上を語り始めた。


「鄧艾君は都に行って、何をやりたいのかい?」


と田豫が尋ねる。鄧艾がじっとオレの顔を見るので、


「オレに遠慮せず、正直に言っていいぞ。従者の仕事がない時は、おまえのやりたいことを自由にやればいいんだから」


と言ってやると、


「お、俺は……兵法を学びたい」


「へえ。将来は軍隊に入って将軍になるつもりなのかい?」


さすが蜀を滅ぼす名将だな。少年の頃からその片鱗を見せてるんだ、と感心していたら、意外なことに鄧艾はううんと首を振って、


「俺は人に好かれない。だから兵を統率する将軍には向いていない」


と卑下する。こいつ自己評価が低いな。ちょっと励ましてやろう。


「そうかあ?オレは好きだぞ。おまえの話面白いし」


「……」


何か言えよ!オレがおまえに告ったみたいじゃん。

と思ってたら、鄧艾は顔を真っ赤にして照れてやがる。


「あの、ご、ご主人…様。ありがとう……ございます」


やめれ!ご主人様とかこそばゆい。


「オレは関興だ。そうだな、今後は「若」と呼んでくれ。父上のことは「殿」、兄上は「御曹司」、蘭玉は「姫様」。いいな?」


鄧艾はコクリとうなずく。

田豫は俺に向かって、


「興ちゃんはいろいろ事業を起こして、莫大なお金を稼いでいるよね。孔子様の弟子だった大富豪の子貢を目指しているのかい?」


と尋ねた。オレは心底イヤそうな顔をして、


「すげえ心外です。どの辺がですか?」


オレ、儒者が嫌いなんだ。行いが清らかで私欲がなく、そのために貧しいという「清貧」こそが良しとされる風潮。後漢末の党錮の禁で排斥された清流派の名士たちって、そんな人ばっかりだろ。

君子は富貴に近づいてはならぬ。金銭は穢らわしい、汚いもの。ゆえに金儲けをしたら、貧者に施しをしなければならない。みたいな、富を蔑視する思想には納得がいかない。


「それは興ちゃんの誤解だよ。そんな考えを孔子様が持っていたら、そもそも大富豪の子貢が弟子になれるわけないじゃないか」


あ、そっか。なんで気づかなかったんだろう?


子貢は孔子の弟子として学び衛国で仕官したが、曹と魯の間で商売に成功し巨万の富を得た。彼の富と名声は天下を覆い、馬車に乗りお供を従え春秋時代の諸侯と交際し、賓客の礼で迎えられた。

魯国の相になると、弁舌に優れていることから敵対する斉や呉に外交官として遣わされ、たびたび魯国の危難を救ったとされている。


「まあ、僕には興ちゃんの思惑は分からないけどね。端から見てると、君がただの金銭に汚い貪欲な人には思えないんだ。

それで子貢のように、築いた財産を背景に群雄たちの間を調停し、一時的にでも戦乱のない世の中を作りたいのかなって邪推してるんだよ」


うーん。当たらずといえども遠からず。

オレは、関羽のおっさんが将来ひどい目に遭わないように、今のうちから打てる手を打っておこうと考えているんだ。そのためには、やっぱり先立つ物=お金が必要だろ!?


「田豫様は何になりたかったんですか?」


「僕の場合は、鄧艾君の歳くらいの時に、黄巾の乱が起こって世の中がひっくり返っちゃったからね。それまでの夢とそれ以降では全然変わっちゃったよ」


「父上や劉備将軍と一緒に義勇軍を結成したと聞きましたが」


「うん。当初の創立メンバーは劉備・張飛・簡雍、それに僕。

関羽殿は、汜水関の戦いの後に入ったんだよ。すごかったんだぞ、華雄相手に一騎討ち。馬を駆けて相手の戟ごと斬っちゃうんだもん」


へえーさすが関羽のおっさん。

でもその話、正史じゃなくて三国志演義が出典だったような?

ま、いっか。ご都合主義で。


「その後、徐州に腰を下ろす他のメンバーたちとは離れたんですよね?」


田豫は驚いて、


「よく知ってるねえ。お父上から聞いたのかい?

そう。僕は幽州を拠点に賊と戦うくらいが安全だと思ったんだ。中原に出れば、いやでも群雄たちの勢力争いに巻き込まれる。袁紹・袁術・呂布・曹操閣下。

はっきり言って、義勇軍の首領だった劉備の才能は、彼らと対等に戦えるレベルにない。あっという間に踏み潰されるのがオチだ。

いまは司徒掾になっている陳羣ちんぐんも同じ意見だったよ。それで劉備らメンバーと意見が異なる僕は、ひとり故郷に戻ったってわけさ」


「その後は、どうされてたんですか?」


「幽州刺史だった(りゅう)()様の復讐。公孫瓚を潰すために戦っていた。

フフッ、こう見えても僕は熱い男だったんだよ」


へー信じられない。どう見ても、温和で優しげな県令って感じだもんな。


(りゅう)()様は、僕たちの義勇軍結成を後押ししてくれた大恩ある御方。一時は皇帝陛下に推されたほど人徳がある刺史様でね。それを妬んだ公孫瓚に殺されてしまったんだ。

だから僕は同志を募り、袁紹から軍資金や兵糧を援助してもらってね。五年かかって復讐を果たしたわけ」


「劉備将軍は(りゅう)()様の復讐には参加しなかったの?」


「するわけないじゃん!劉備と公孫瓚は友人だし。

あの人、義に篤いフリをしてるけど、自分に有利かどうか損得勘定で動く人だからね。だまされないように興ちゃんも気をつけた方がいいよ」


うん。知ってる。

それなのに、関羽のおっさんは劉備を心からしたってるんだよなあ。うーん、謎だ。(←いやいや、おまえの勘違いだぞ!byブラック関羽)


まあ、今は曹操閣下に秘かに帰順し、「乗っ取り癖のある劉備のそばに付いておれ」と劉備軍の埋伏の毒を命じられているのだが。


「あのー若。聞いてもいいですか?」


突然鄧艾が口を挟む。


「若は劉荊州の配下。田豫様は曹司空の配下。劉荊州と曹司空は敵対してるのに、若と田豫様は仲良しなんですか?」


「そうだけど、何か問題が?」


「えっ、あっさり肯定!?じゃあ、若はその、裏切者……」


「べつに裏切っているわけではない。いま曹操軍が荊州に攻め込んできたら、オレは曹操軍を撃退するために戦う」


「はあ、そうなんですか」


「父上もオレも曹操閣下に秘密の任務を与えられて、不承不承、劉備将軍の下に付き従っている。いわゆる埋伏の毒ってやつ。

だいたい、西平の戦いが曹操閣下と父上が仕組んだヤラセっておまえが気づいたから、ここまで打ち明けたんだ。絶対口外するなよ!

漏らしたら、オレの父上か曹操閣下がおまえを首チョンパの刑にするからな!」


青ざめてコクコクとうなずく鄧艾。

まあ、これだけ脅しておけばしゃべらないだろう。こいつ友達いなさそうだし。


次回。都に到着した儒者嫌いの関興は、早速腐れ儒者どもにからまれます。関興の反論が曹操直参の家臣を怒らせてしまい、哀れ関興は牢に!お楽しみに!

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