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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第七部・勧君更尽編
270/271

250.関興、忍耐の限界を迎える

前回のおさらい

① 関興・花関索を転生させた女神様(諸葛孔明)と、董桃(と鴻杏ちゃん)を転生させた男神は異なる。

② 男神の名前はユーキシツ(漢字でどう書くのか不明)というそうだ。

③ ユーキシツ神は董桃に、曹丕を誘惑して魏の皇太子の座を引きずり下ろそうと画策した。

④ これは魏の乗っ取りをたくらむ司馬懿の陰謀と同じだが、董桃曰く“偶然の一致”だとか。すなわち、董桃は司馬懿の操り人形なんかではなく、ユーキシツ神の依頼に沿ってハニートラップを仕掛けているらしい。


(董桃の告白)


気づいた時、あたしは背景が何もない真っ白な場所にいた。その場にはユーキシツと名乗る男神が一人たたずんでいる。


《ねえ。やっぱりあたしは死んじゃったの?》


《残念だけどね。

 でもラッキーなことに、君の魂はあの世に送られる前に神様である僕に拾われたのさ。桃ちゃんには今から異世界に転生してもらおうと思う。乙女ゲーム『恋の三国志~@乙女の野望』の世界なんだけど》


あたしは大喜びして、


《本当に?あたしが生前大好きだったゲーム!もちろんヒロイン転生なのよね?》


《ん?まあ…そうだね。ただし僕は神として、君に課さなければならない大事な使命がある。

 本来、『恋@三』のシナリオは、プリンス曹沖をはじめ五人の攻略対象とイチャラブするストーリーなのはご存じのとおり、でも僕の依頼はそうじゃない。

 桃ちゃんには【魅了】のスキルを授けるから、是非とも曹丕を陥として欲しいんだ》


《曹丕?誰?》


《曹沖のお兄さん。帝立九品中正学園に通う生徒会長。二人は曹魏の皇太子の座を争っているんだ》


《えー無理ですぅ。あたし、プリンスの曹沖様が最推しだったんだもん☆ あ、もちろん全クリア特典でルートが開通される隠しキャラの花関索様は別格よ♡あれこそ神キャラねっ!

 でもでもォ、せっかくヒロインちゃんになれたのにィ、リアルで曹沖様以外の人とお付き合いするなんて心外っていうかァ……》


と拒否したのに、男神ユーキシツはあたしが報酬を釣り上げようとしていると勘違いしたのか、悪い笑みを浮かべて、


《よかった♪やっぱり君は僕の見込んだとおりだ。

 実は僕も曹沖が最推しでね☆僕と一緒に曹沖を応援してくれないかな?

 桃ちゃんにはこう考えて欲しいんだ。

 最推しの曹沖がみごと皇太子の座を射止めて将来の皇帝に即位するのを、影ながら支え続けて健気に尽くした女の子って素敵な響きじゃない?

 対抗馬の曹丕が失脚すれば、必然的に曹沖が立太子されるのは確実だもの。

 つまり桃ちゃんには、曹丕を骨抜きにして婚約破棄を仕掛けちゃったけど、曹丕もろとも悪役令嬢にざまぁ返しされる、脳みそお花畑のヒドインちゃんになってもらいたいんだ》


《そんなァ…嫌ですぅ!》


《そうかい?ざまぁ返しされるまで、結構いい夢見れると思うんだけどなぁ。

 だってヒロインは、実は漢献帝の皇女(隠し子)という高貴な身分だよ。相手の曹丕は身分の高い富豪だし。彼の寵姫ともなれば、美しいドレスに高級な宝石においしいグルメに、贅沢三昧な生活は約束されたようなもの》


前世ではあまり裕福でない暮らしを送っていたあたしは、お姫様みたいな生活を想像して(……悪くないかも。)と乗り気になった。男神ユーキシツはすかさず、


《もちろん成功報酬ははずむよ!

 頑張ってみごと曹丕を追い落としたら、その後に桃ちゃん最最推しの花関索に会わせてあげる。【魅了】のスキルだって使えるよ。僕はね、桃ちゃんには花関索と本当のハッピーエンドを迎えて欲しいんだ》


なんて言うのよ☆ キャーッ♡



 ◇◆◇◆◇◆



……という董桃のくだらん独白に1時間も付き合ったオレの忍耐力もさすがに限界だ。


まあね、最近テンプレの、王子がヒドインに誑かされて婚約破棄をしたあげく、ざまぁ返しを食らって王子の座を剥奪される乙女ゲームの“悪役令嬢”逆転劇ってさ、実は中国の歴史で昔から語り継がれる「傾国の美女」説話と同じ構図なんだよな。


殷の紂王の寵姫である妲己や春秋・呉王夫差の寵姫である西施ら、色仕掛けで君主を誘惑し、女色に溺れて政治を顧みず遂には国を傾けさせてしまう、ハニートラップ。

そして、その裏には寵姫を背後で操る本物の悪党――周の文王の軍師・太公望や越王勾践に仕えた謀臣・范蠡――が存在する。


董桃の場合も同様だろう。

オレはそれが司馬懿だと睨んでいたのだが、董桃の話によれば、実際はどうやらユーキシツと名乗る男神が仕掛けたらしい。


だが、何のために?

女神様が諸葛孔明に扮してこの世界に降臨したように、董桃を転生させた男神ユーキシツが司馬懿に憑依したと考えれば、すべてのつじつまが合うのだが。


ところが董桃は絶対に違うと断言する。


司馬懿の容貌が、自分を転生させた男神ユーキシツのようなイケメンではなく、KOEIのゲーム『三國志』の顔グラそっくりの陰険な爺ぃだからだそうだ。そんなチンケな理由でオレの名推理――司馬懿=男神ユーキシツ同一人物説 が否定されるのは納得いかないんだけど……。


「じゃあ聞くけど、あんたのモブ顔ってKOEIのゲーム『三國志』の顔グラ似なの?それとも前世の秦朗(はたあきら)の顔を受け継いでるの?」


「……前世オレが中坊だった頃の顔そのまんまデス」


「ほ~ら見なさい☆ あたしのこの可愛い顔だって、髪の毛がピンク色以外なのは前世似だし、ビッチな性格も受け継いで…って何言わせるのよッ!」


知らねーよ!あんたが独りノリツッコミかまして墓穴を掘っただけじゃないか!


「えーコホン。とにかく、あたしの言ってる方が正しいに決まってるの!」


と勝ち誇る董桃。

だとすれば尚更、男神ユーキシツとやらの魂胆が分からない。


「関係あるかどうか分からないけど、男神ユーキシツは《正攻法では僕が不利だ》とか《ジョーカーやケイオーには負けられない》とか深刻そうにつぶやいてたわ」


なるほど。男神ユーキシツは正攻法では勝てぬと見て、搦め手の乙女ゲーム風ハニートラップを仕掛けたわけか。が、競争相手らしきジョーカー?ケイオー?ユーキシツも含めて、聞いたこともない神の名前なんだよな。余計に謎が増えたわ。


ポク ポク ポク …

う~ん、駄目だ。一向に見当もつかない。やむを得ん、天上界のことは終南山で仙道修行をしている荀彧に調査を依頼しよう。オレは気を取り直し、


「なあ董桃。最後にもう一つ、“封神”ってどういう意味か知ってるか?」


「ほうしん?」


コテンと首を傾げる董桃。あざとい仕草にイラッと来る。


「もしかして封神演義のことかしら?哪吒(なたく)楊戩(ようぜん)ら崑崙の道士が活躍する仙界大戦」


「封神演義?」


記憶にないな。仙界大戦と聞いたオレが、エヴァとかガンダムみたいなロボット風アニメを想像していると、董桃は疑わしそうに目を細めて、


「あんた本当に転生者ぁ?ジャンプの中では珍しくきれいに完結した稀有な漫画よ。90年代末にけっこう売れたんだから!」


なんだ、オレが生まれた頃の漫画じゃん。そりゃ覚えてるわけないだろ。っていうか、24年前の漫画を鮮明に記憶してる董桃の実年齢って……


「し、失礼ねッ!女性の年齢を詮索するなんて、関興ってば最っ低~。だいたい、封神演義は十年以上経っても、ソッチの界隈では人気を博してたんだからね!楊戩×太公望とか姫発×黄天化とか」


うげっ、なんだよ。そのホモホモしい掛け算。


「ちなみに“封神”とは、神を昇天させることね」


昇天って……


楊戩 (私の太い打神棒で師叔(スース)を一突き…)

太公望 (アッ♡駄目だよ楊戩んんッ)

黄天化 (やだやだ。俺っちは“封神”なんかされたくない)

姫発 (かわいいなぁ天化。そんなおまえには“封神”の刑だぞ♡)

黄天化・太公望 ((アッー!))


やっぱりそういう展開になるのか。まあ下品な下ネタ大好き作者だからな。

あれ?でも、あの時葭萌(かぼう)で封神したのは女神様(♀)で、封神されたのが花関索(♂)なんだよなぁ。と・いうことは……


女神様 (ヌポッヌポッ。ふふっ、エッチなおつゆが先端からあふれて来ちゃった♡)

花関索 (クッ、やべえって。も、もう“封神”してくれっ!)

女神様 (だ~め。男の子でしょ☆もう少し我慢なさい)

花関索 (このクソがああぁーっ!もう駄目だ、イクッ!ドピュッ)


「うっわ、キモッ!さすが童貞、発想が鳥肌ものだわ」

ど、どどど…童貞ちゃうわ!

あっそう言えば、オレは挙動不審にならなくてもこの世界では筆下ろししたんだった。前世の慣れって怖いわぁ。

董桃は眉をひそめて、


「あんたの下半身情報なんてどーだっていいわよ。

 マジメな話、太公望や姫発が登場するんだから、周の武王(=姫発)が殷の紂王を討った英雄譚をモチーフにした物語ってことは理解できるでしょ。

 その殷周革命の裏で、天上の神仙界でも秘かにクーデターが企てられていたの。殷が奉じる通天教主に反旗を翻した崑崙山の元始天尊が、地上界の周と手を組んで通天教主を滅ぼし、道教の最高神に祀り上げられる成功神話ね。その過程で滅ぼした敵神や戦死した武将を神として祀る行為が“封神”。神様は天上界にいるのよね、だから昇天させるわけ」


な~んだ。

だったら、女神様に“封神”された花関索は天上界に昇天して、オレや関羽のおっさんを再び襲撃する恐れはなくなったってこと?朗報じゃないか!


あ、でも董桃には黙っておかないと面倒だ。


「もう気が済んだだろ。花関索はここにいないし、これ以上有力な目撃情報もないんだ。さっさと帰れ!」


「フン、分かったわよ。お邪魔しましたっ!」


と捨てゼリフを残して出て行こうとした董桃は、ドアの所で振り返り、


「ありがと。あんた、本当にいいひとね。顔は全然タイプじゃないけど。クスッ。じゃあまたね、関興☆」


とウインクして帰って行った。




何がありがとうなんだ?さっぱり分からん。


つ、次はちゃんと真面目に頑張るからッ!

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