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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第七部・勧君更尽編
265/271

245.曹操と曹麗、人質交換される

曹操と曹麗の“人質交換”は、荊州と曹魏の中間地点に当たる「博望坡」で行なわれた。

場所の指定は曹魏側の要請である。

司隷軍の勢力圏に近い博望坡でなぜ?と疑問に思ってはいけない。曹丕や程昱ははじめから、曹操に強い恨みを抱く献帝あるいは馬超に曹操を暗殺させる狙いなのだ。

荀攸に代わり、曹丕に対して忠誠度の高い華(きん)を曹魏側の代表に送り込んで来たのが、その証左だろう。


華美ではないがシックでエレガントな装飾の馬車から、護衛に促されるように曹麗が降り立った。


「ずいぶん遠い郊外まで走ったようだけど、どういうこと?」


曹麗の問いかけに、腐れ儒者の華(きん)はあいかわらず不気味な半笑いで、


「曹魏が建国されたからには、廃帝劉協(=漢の献帝)に嫁いだ麗様の御身など、もはや価値なし。最後は用済みらしく、司隷軍と荊州軍の争いの火種となる囮として、曹魏の役に立って下さいませ」


「失敬な!華(きん)、あんたは伏皇后だけでなく(わらわ)をも(ないがし)ろに扱おうというわけね?皇室を尊ぶ高名な儒者の肩書きが泣くわ」


「何とでもおっしゃるがよい。ほら、荊州側からは逆賊の曹操が連れて来られましたぞ。今から、麗様と曹操の身柄の交換が厳粛に執り行なわれます」


「何ですって?!」


「おっと、私を睨まないで下さい。こたびの身柄交換は、麗様が信頼なさる秦朗が提案した取引だと聞いております。さすが荊州の安寧のために、恋人だった鴻杏嬢すら人質に差し出す卑劣漢。まして荊州乗っ取りを図った大罪人の曹操をこちらに引渡すくらい、わけないのでしょう」


したり顔で言い放つ華(きん)


(秦朗、本当なの?あなたまでまさか……)

曹麗はぎゅっと唇を噛みしめる。


こうして[外交]使節のオレと華歆、人質の曹操と曹麗が顔を合わせた。


「麗皇后陛下、ご無沙汰致しております。息災でしたか?」


と挨拶したオレに、曹麗はキッと顔をこわ張らせて、


「秦朗!あなたには陳倉に籠城するお父さまの救出をお願いしたはず。ここでお父さまを曹丕に引渡せばどういう結末を迎えるか、あなたなら容易に想像できるでしょう?あなたまでお父さまを見捨てる気?」


(なじ)った。オレは肩をすくめて、


「見捨てるもなにも、麗様のおっしゃるとおり、オレはわざわざ陳倉へ遠征して曹操の救出に成功し、麗様と曹操を再会させるという誓いをこの場で叶えました。オレと麗様が交わした約束は、これにて果たされたと認識しておりますが」


「何を馬鹿なことを!お父さま、こいつら卑劣漢どもから何としても私がお父さまをお助けします!」


だが、老け込んで白髪頭となった曹操は、この期に及んで目を瞑ったまま一心不乱に何事かをつぶやいている。「お、お父さま…」と焦る曹麗の再度の呼び掛けにも応じようとしない。オレは首を振って、


「無駄ですよ。ずっとこんな調子なんです。

 せっかく救出してやったのに荊州乗っ取りを謀らむなど、恩を仇で返した曹操の罪を見逃すわけには参りません。一戦も交えぬうちに関羽と龐統に捕らえられ、曹操は天下統一の野望を砕かれました。牢屋に幽閉された屈辱から、もはや生きる気力を失くして世を(はかな)んでおるのかもしれません。

 好意的に解釈すれば、不肖の子である曹丕が献帝を放逐し漢を滅ぼした大逆を懺悔している可能性も無くはありません。

 いや、単に死罪を恐れて狂人を装っておるのか?

 いずれにしても、我らにとってお荷物と化した曹操ですが、幸いなことに曹丕が相互不可侵の約定を結ぶための証としたいと望んでおります。

 なれば曹操の身柄を、曹丕に引渡すのは道理ではありませんか!

 さあ麗様。ご納得いただけましたら、どうぞこちらへ」


と荊州側の馬車に乗り移るよう曹麗を促す。


「見損なったわ、秦朗!触らないで、穢らわしい!あんた最低よ!」


罵声を浴びせる曹麗を無理やり馬車に押し込めたオレは、再び華歆と会談する。


「これにて滞りなく“人質交換”を終えたな。秦朗よ、反曹魏連合軍が解散するまで相互不可侵の約定を破るでないぞ!」


「承知しました。これで曹魏は心置きなく司馬懿の司隷軍と戦えますな。ご武運をお祈りします。

あっそうだ、武器・兵糧をご用命の際は、ぜひオレを頼ってくださいませ。市場に見合った適正価格でお取引致しますゆえ」


「フン、白々しい。どうせ法外な値段を吹っ掛けるつもりだろうが!」


華歆は苦々しげに吐き捨てた。


「では我々は先に出発します。道中ご無事で」


と述べたオレは、曹麗を乗せた馬車を駈って博望坡をあとにした。



 -◇-



一方、曹操の身柄を乗せた華歆の馬車は、博望坡から十里ばかり離れた街道を北へ向かっている。華歆は、あい変わらず目を閉じたままブツブツと呟く曹操を見下し、


「かつて天下八州を掌中に収め覇王と恐れられた曹操が、いまや逆賊の狂人になり果てたとは哀れを通り越して滑稽だ!こんな輩にヘイコラと頭を下げていた過去の自分が恥ずかしいわっ」


と侮蔑する。

ふと、遠くから駆け寄る馬蹄の音。緑色の軍旗に“馬”の文字が刺繍された騎兵隊が百騎ばかり近づいて来る。


(来たか。予定より幾分早いように感じられるが)


華歆は馬車を停め、騎将が到着するのを待つ。


「涼州軍…いや、今は司隷軍に属する馬孟起である。早速だが、親の仇の曹操を渡してもらおうか」


説明しよう。

なぜ華歆が敵であるはずの馬超と待ち合わせるのか?

皇帝の曹丕が親殺しの汚名を被らないように、軍師の程昱が秘かに敵軍の馬超と示し合わせて曹操の身柄を引渡し、彼の手で暗殺させる手筈を整えたのである。


そのため、いまだ曹操に恩義を感じ正義感の強い荀攸を“人質交換”の使者に立てることができず、任務遂行のためには血も涙もない華歆が選ばれたのであった。


「よかろう。ここで血祭りに上げるのか?」


と華歆は問う。


「…そなたは儒者のくせに斬首の瞬間を見たいのか?なんとも悪趣味なことよ」


「いや。曹操の死を確認する使命を帯びた以上、役目を忠実に果たさねばならぬゆえ」


ふむ、と悩んだ馬超は、


「お望みとあれば、ここで一刺しに殺してもよいが、我らの曹操に対する憎しみは簡単には収まらぬ。父・馬騰の無念を晴らすべく、残された馬一族みなで一寸ずつじわじわと斬り刻んで(なぶ)り殺しにしてやりたい。やはり華歆殿の要望には応えられぬ」


凌遅刑とかいうやつだな。悲惨な末路だ。

代わりにとばかり、曹操が首から下げる紫色の(ひも)をブチッと引きちぎると、華歆に投げつけて、

「ほれ、華歆殿には曹操が帯びておった魏公の金印をくれてやる。これで文句はあるまい。馬孟起、確かに曹操の身柄を預かった。礼を言う。これにて御免!」


と言うが早いか、馬超は曹操をひょいと片手に担いでたちまち去って行った。


(猪武者め!私に謝礼の金も渡さぬとは礼儀知らずの田舎者。

 まあよい。この金印を持ち帰れば、曹操を馬超に売った証拠となろう)

華歆はすっかり役目を終えた気になっていた。




ところが。

再び十里ばかり馬車を走らせた頃、御者が、


「華歆様、前方にまた百騎ほどの騎兵隊が整列しておりまする。いかが致しましょうか?」


「なんだと?」


窓を開けて様子を窺うと、確かに“馬”や“鎮西”と刺繍した軍旗をなびかせる騎兵隊が、華歆の到着を待ち構えている。眼光鋭く先頭に立つ、一際大きな武者が大槍を手にして近づいて来た。


「華歆殿とお見受け致す。俺は涼州軍…いや、今は司隷軍にて鎮西将軍を賜る馬孟起と申す者。密約どおり、曹操の身柄を預かりに来た。奴はどこにおる?」


――どういうことだ?曹操の身柄なら先ほど馬超に引渡したではないか。だが再び馬超が現れるとは妙だ。しかも鎮西将軍の旗を有しておるぞ。見るからに本物っぽい。いや待て。まさか、先ほどの馬超は贋物…?


華歆は血の気が引いた。


「ち、違いますっ!(それがし)は荊州で小間物屋を営むしがない商人でして…」


「ほう、そうなのか?その割には積み荷が軽そうであるが?」


「こ、これから許昌へ商品を仕入れに参るところなのです」


「ふぅん、まあよい。ならばこちらへ来る途中、華歆と名乗るいけ好かない儒者を見なかったか?大罪人を収監しておるはずなのだが」


「そ、そそ…そう言えば、博望坡の辺りで大きな馬車が二台、積み荷を入れ替えておったような…。

(それがし)は気にもとめず、ちらっと見ただけで先行して参ったので、詳しいことは分かりませんが」


と苦しい言い訳を試みる。馬超は小間物屋と称した華歆の目をじっと見つめた。目をそらせば嘘がばれてジ・エンドだ。重苦しい時間が流れる。馬超はフッと笑みを漏らすと、


「そうか、華歆は間もなくこちらへやって来そうだ。すまぬ、時間を取らせたな」


と言い、ようやく訊問から解放した。


華歆は命からがら大急ぎでその場を離れた。

もちろん曹丕には、贋物の馬超から渡された魏公の金印を差し出し、


「曹操は間違いなく司隷軍の馬超に引渡しました。洛陽に帰り次第、奴を嬲り殺しにすると申しておりましたゆえ、曹操はもはや生きてはおりますまい」


と華歆が報告したのは言うまでもない。


馬超に華歆を斬らせてもよかったけど、曹丕に嘘がバレてざまぁされる華歆も捨てがたい。で、後者を選んだと。(どうせナレ死させるくせに。)

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[一言] ばかもーんそいつが…だれだろう? 徐晃さんかな?
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