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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第七部・勧君更尽編
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243.曹丕、荀攸を外交の使者に立てる

遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。

漢の献帝を放逐し魏の皇帝に即位した曹丕は、諸軍閥が結託し百万と号する反曹丕連合を組んだと知って恐れ(おのの)いた。


「程昱よ、百万もの敵に四方を囲まてしまったではないか!ど、どうすればよかろう?」


「落ち着かれませ。陛下が漢を滅ぼした時点で、こうなる展開は必然。

 されど我らは四州にまたがる最強軍閥です。まずは擒賊擒王(きんぞくきんのう)、敵の主力を討ち倒せば、残りのザコどもは身の程を知って陛下の実力を恐れ、自然解散の流れとなり果てましょう」



あご髭をしごきながら程昱がもっともらしく答える。

「それに敵は百万と号するも、実態は三分の一の三十万ほどにすぎず、我ら曹魏軍五十万に比べれば半分程度、案ずるまでもありません。

 まして我らには人材も豊富なのです。Bランク以上の将軍は、軽く見積もっただけで、曹仁・曹洪・曹休・曹真・于禁・楽進・李典・史渙・夏侯尚・張燕・胡遵と、両手に余りあります。彼らに兵二万ずつ与え、まずは主力となるであろう荊州軍十万を一気に屠れば、自然と勝ちは見えてまいりましょう」


悠長に構える程昱に対し、陳羣は「恐れながら」と割り込んだ。


「関羽の荊州軍閥は、こたびの連合に加わっておりません。程昱軍師の唱える机上の戦略には見直しが必要かと」


「なに?ならば反乱軍の盟主となったのは誰じゃ?」


「斥候の知らせでは、司隷軍閥を率いる司馬懿にございます」


曹丕は顔をしかめて、


「ふん、あの裏切者か。まあ関羽に比べれば組みしやすかろう。ならば程昱の作戦の一部を組み替え、将軍らに兵二万ずつ与えて、盟主の司隷軍を一撃させれば事足りよう」


「それだけでは足りません。まずは敵の数を少しでも減らすこと、すなわち荊州軍閥とは同盟、いえ最低でも中立の立場を崩さぬよう、関羽に礼を尽くすべきです。今こそ、亡き劉馥(りゅうふく)殿の戒め――関羽や秦朗が驕慢にならなければ、このまま曹魏の下で飼い馴らすべきで、我らの方から決して敵対関係に追いやってはならない――を実行に移してはいかがでしょうか?」


曹丕と程昱は秦朗の名を聞くと眉をひそめ、


「朕は秦朗が信用できん。あいつには幾度も煮え湯を飲まされておる」


「同感ですな。卑劣な手段で我が曹魏から荊州を奪った奴らに辞を低くするなど、陛下の沽券にかかわります」


「まったくだ。それにあいつは父上――いや、朕に歯向かった曹操を(かくま)っておる謀反人じゃ!」


「いいえ!」


陳羣は声を荒げ、


「何をのんきなことを仰せですか!荊州には一騎当千の関羽・甘寧をはじめ、先日まで曹操の配下武将であった張遼と徐晃が加わったのですぞ。おまけに参謀には龐統・魯粛・賈詡・秦朗と、一筋縄ではいかぬ戦巧者が揃っておるのです。敵に回せば恐ろしいとは思いませぬか?」


「……」


「関羽の荊州軍は反曹丕連合軍に加わっておらぬだけで、決して我が曹魏に攻め込まぬとは限らぬのですぞ!まして陛下や軍師がおっしゃるように、秦朗が信用できぬ相手ならば、単独で我が曹魏を襲撃するかもしれません。

 なればこそ、関羽とは同盟あるいは中立不可侵の約定を結べるよう、誠意ある[外交]が必要だと具申致します」


陳羣の諫言にうんざりした曹丕は手をヒラヒラさせて、


「分かった、分かった。荊州に[外交]の使者を送ればよいのだろう?気乗りはせんがな」


「陛下、お待ちを。たしかに陳羣の諫めは理に適っておりますぞ。

 かつて豫州・弋陽郡の田豫と唐県の関羽の間に、相互不可侵の約定を結んだことがありましたな。

 こたびは我々の方から関羽に相互不可侵の約定を持ち掛けましょう」


「何故だ?それではいつまで経っても天下統一を果たせないではないか!」


程昱はニヤリと笑い、


「私に良き計略がひらめきましたのでお耳を拝借。

 相互不可侵の効力は反曹操連合が解散するまでと、期限を区切ってはいかがですか?連合が崩壊した後、我らがいつでも荊州を攻撃できる余地を残すのです」


「なるほど。しかし、強欲な秦朗のことだ。手土産の一つでもくれてやらねば、奴らは不可侵の約定を承知するまい」


「御意。我が曹魏は、淮南の荒地を荊州に割譲するという条件はどうでしょう?どうせ今夏の洪水で荒れ果てた上に河賊がはびこる難治の地、復旧には多額の費用を要します。失っても惜しくはありません。

 代わりに我々は荊州に(かくま)われる曹操閣下――いえ、()()の曹操の身柄引渡しを要求するのです。

 成功すれば、荊州と相互不可侵を結ぶ上に、負債となる淮南の復旧を押しつけ、曹操の身柄まで手に入る。口うるさい陳羣の顔を立てることにもなりましょう。これぞ一石四鳥の策」


「うーむ。しかし、関羽が断れば?」


「関羽は断れますまい。

 なんとなれば、荊州乗っ取りをたくらんだ謀反人の曹操を差し出すだけで、曹魏との戦争が回避でき、かつ淮南に領地を広げることができる、明らかに荊州にとって有利な取引なのですから。

 仮に関羽が相互不可侵の締結を断れば、平穏な暮らしを願う荊州領内だけでなく、将兵からも不満の声が上がるに違いありません。

 一方で、我らは(逆賊の曹操としてではなく)()()()()()()()()()()()()()の身柄引渡しを荊州に求めたが、不成功に終わったと表明するだけ。父親思いの陛下の仁孝を天下に知らしめる一方、それを拒絶した関羽の狭量さを喧伝することになりましょう。

 いずれにしても、我らに損はございませぬ」


曹丕は膝を打って喜び、


「さすがは程昱の鬼謀。して、[外交]の使者には誰を立てる?」


「言い出しっぺの陳羣でもよいかと思いますが、彼は関羽や秦朗とは面識がありません。ここは、切り札を用意しましょう」


「切り札?」


「ええ。以前尚書令の職を辞し、病気と称して自宅に引き籠っておる荀攸を召し出すのです。彼はたしか赤壁の戦いでもBチームに属し、関羽や秦朗との関係も良好のはず。

 外交に使った後は、荀攸を褒め称え、以後改めて軍参謀として活用するのも悪くありません」


「よし。早速荀攸を呼べ」


近衛兵に連れられ鄴に登城した荀攸は、


「承知しました。[外交]の使者として荊州へ参りましょう。

 されど、私は陛下が建国した曹魏の臣と称するつもりはありません」


と口にした。曹丕は不満げに、


「なんじゃと?」


「私はすでに政界を引退した身。その私が[外交]の使者の任を承諾したのは、ひとえに中華が戦乱の世に逆戻りするのを避けるため。最強の曹魏とそれに次ぐ荊州が戦火を交えてしまっては、いよいよ収拾がつかなくなることを恐れるからです。

 残念ながら陛下が茶坊主どもの讒言に耳を傾け秦朗を遠ざけたために、曹魏の政界を見渡しても、荊州との[外交]に役立つ者が一人もおらぬのが現状。私にお役目が回って来たのは、そういった事情かと推察します」


「フン。物言いは気に入らぬが、そなたの邪推どおりじゃ」


せっかく推挙してやったのに、かえって自分や董昭・華(きん)・桓楷ら秦朗を毛嫌いする派閥を遠回しに批判された程昱は気色ばむ。荀攸は平然と曹丕の方に向き直り、


「陛下に、こたびの[外交]の優先順位をお伺いしたい。荊州との不可侵の約定締結が大事なのか、それとも曹操閣下の身柄引き渡しを求めるのが優先なのか?」


「それは……うーむ…甲乙付けがたいわ」


「なるほど、二兎を追えということですな。

 ならば、荊州との[外交]交渉では、私に全権を与えていただけるのでしょうね?」


荀攸の要望に程昱が慌てて口を挟み、


「荀攸殿、それはちと欲が過ぎましょう」


「おや。こたびの約定締結の裏で一石四鳥を狙う軍師殿に、欲が過ぎるとたしなめられるとは業腹ですな」


荀攸と程昱は互いに一歩も引かず睨み合う。曹丕は二人の重臣を宥め、


「まあまあ。ここは朕の顔に免じて二人とも矛を収めよ。

 荀攸よ、まずは荊州に使いし、相互不可侵の提案に対し奴らがどう出るか慎重に見極めるのが先じゃ。先走って勝手に判断するでないぞ」


「畏まりました。ついでに申せば、私は軍師殿の戦術にも大いに不満があります」


「参考までに聞いてやろう。申してみよ」


「されば、もしも曹魏と荊州の間に不可侵の約定が結ばれたならば、曹魏の兵五十万に対して連合軍の兵は二十万。鄴を中心として四州の要衝に大将と副将を配置し、五万の兵で坐して守りに徹するべきです。北は中山、東は泰山、西は井陘(せいけい)成皋(せいこう)関、南は許昌と合肥の防備を固めれば、敵は局所戦には勝利しても、そう易々と曹魏領内に侵攻できますまい。

 反曹魏の連合軍は義ではなく利によって集った烏合の衆、思うように戦局が進まねば、いずれ内紛が生じ連合が瓦解するのは、証左として山東の反董卓連合軍の末路を挙げるまでもなく歴史の必然。その後に反転攻勢を掛ければ、我が軍の大勝利は間違いありません。

 これぞ孫子の『善く戦う者は先ず勝つべからざるを為して、以て敵に勝つべきを待つ』(まず敵軍が自軍を攻撃しても勝つことのできぬよう防備を固めた上で、敵軍が崩れて自軍が攻撃すれば勝てる機会を待つ)、必勝の策にございます」


曹丕は深く感じ入り、


「……分かった。その儀はそなたが荊州の使いから帰って吟味することにしよう」


と述べて荀攸を送り出した。


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