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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第七部・勧君更尽編
262/271

242.死闘

混乱に乗じて逃げ出したオレと女神孔明が城門までやって来ると、逃走に気づいた花関索が「待てっ!」と叫びながら追いかけて来た。オレは女神孔明を城外に逃がし、


「花関索の狙いはあんただ。女神様はさっさと逃げろ!」


「関興はどうする気?」


「オレはここで花関索を食い止める。その間にあんたは遠くへ逃げるんだ」


「駄目よ、そんなの!関索の暴走が始まったのは私の責任。後始末はちゃんと自分で着けなきゃ」


「いいからさっさと行け。あんたは足手まといなんだよ、じゃあな!」


と言って強引に女神孔明を押し出すと、急いで葭萌(かぼう)の関門を閉めた。オレはそのまま楼閣の上に登り、スキル【一箭双雕】がいつでも発動できるように弓を構えて、追って来た花関索を威嚇する。


「しつこいぞ!オレの役割は果たしたはずだ。約束どおり、女神様を返してもらった。花関索、あんたはこの城門から通さない。諦めろ」


「ふん、女神なんかに用はねえ。俺が用があるのは関興、おまえだ」


オレ?!どういうことだ?


「大したもんだぜ。劉備軍だけじゃなく、楊懐・高沛までもこうも鮮やかに始末するとは。なあ()、おまえマジで天下を狙えるんじゃないか?

 正直俺は、おまえが三國志ゲームの[混乱]・[罠]コマンドで楊懐・高沛の動きを封じて捕らえるのかと思っていた。まさかリアルに謀略を駆使して敵の油断を誘い、二人の捕縛に成功するとはな」


仕方あるまい。三國志ゲームにおける関興は、計略のスキル[混乱]・[罠]を持っていないのだ。なので関興に転生したオレも、[混乱]・[罠]コマンドが使えない。


「それだけじゃない。劉備軍と劉璋軍とが乱戦になるように争いの種を仕込み、予想どおり乱戦になったらどさくさに紛れて行方を(くら)まそうとは驚きだ。まるでスパイ映画で活躍するエージェントじゃないか!」


「……お褒めにあずかり、どうも。前にも言ったとおり、オレは天下統一なんて興味がない。関興なんて地味な武将に転生した、ただのモブ。それだけだ」


花関索は獲物を狙う獰猛な獣のような眼でオレを威圧する。


「誰がそんな謙遜を額面どおり信じられるか!?

 俺はな、女神が扮するこの世界の諸葛孔明ごとき、なんら怖くない。いくら知力100のチートだろうと、剣などの物理攻撃に対して脆弱なことは実証済だ。仮に孔明が三國志ゲームに装備された[混乱]・[罠]コマンドで操ろうとするなら、こっちも[罠破]・[教唆]のスキルを持つ武将(例えば馬良や伊籍)を配置すれば、簡単に無効化できるしな。

 武力チートにしたってそうだ。

 漢中で捕虜にされた張飛からアイテム[蛇矛]を“没収”した今、俺の武力は99+4。関羽を抜いてこの世界で最強に至った。それに、さっき楊懐・高沛を斬ったことで破格の経験値も得た。知ってるか?俺は転生特典で経験値10倍取得の恩恵を授かってるんだぜ♪呂布並みの武力ステータス100に到達するのも目前だ。SS級の関羽・甘寧・張遼……誰を相手に一騎討ちを挑んでも、今の俺は勝てる自信がある。

 そうなると、俺を倒せる可能性があるライバルは関興、おまえのみ。

 おまえを排除すれば、俺は無敵になれる」


「!」


排除、つまり殺すという意味か。オレはゴクリと唾を呑みこむ。


「だがよォ、俺は気が変わった。ここまでおまえの有能さを見せつけられては、関興、おまえを殺るのは惜しい。どうだ?俺と手を組んで本気で天下を目指さないか?」


「断る。あんたとは絶対に組まない!」


「ふん、俺はこんなにも()のおまえを買ってるのにつれねぇなぁ。

 どうあっても、おまえと関羽ペア単独で天下統一を果たす気か?

 おまえはいいよな。女神の祝福のおかげでチート能力を持つうえに、曹操から天下の三分の二を譲られる。今、天下獲りに最も近い存在だもんな」


だからオレは天下統一なんか興味ないって!話の通じない奴だな。

花関索は邪悪な笑みを浮かべて、


「だったら後から参戦した俺も、おまえの()に生まれた特権を行使したって文句はねぇだろ?

 俺はどっちだっていいんだぜ?

 おまえが俺の天下獲りに協力するか。

 それとも、おまえと関羽が天下統一を果たした後、おまえら一族がみな()()()()()で死に絶えるか。

 麦城で関羽と関平が孫権に殺され、蜀が魏に滅ぼされる際におまえの子孫は龐徳の子の龐会に昔の仇討ちで皆殺しにされた史実があるもんな!

 そうすりゃ、()の俺がすべて譲り受けることができるわけだ」


「!!」


オレだけじゃなく、関羽のおっさんと関平兄ちゃん・蘭玉まで殺める気か?!こいつ、絶対に許せん!


「花関索、おまえを生かしておくわけにはいかん。ここで絶対に潰す!」


「ふ~ん。やれるもんならやってみな♪」


その余裕が命取りだぜ。オレだって弩弓術にはちょっと自信のある武力87+4のAランク、奥の手だって隠し持ってるんだ。【連射】と固有スキル【一箭双雕】のコンボ。


まずは狼煙をありったけ焚いて、煙幕を張る。楼下にいる花関索の周りに煙が立ち込め、花関索は視界を奪われる。そうしてオレは弓を構え、スキル【一箭双雕】で一気に畳みかける。楼門の高みからの射撃で勢いが増す上に、一射で二矢が放てるんだ。これに【連射】が加われば、いくらSS級の花関索だろうと防御できまい。


百を超える矢を乱射した後、


「殺ったか?」


そうつぶやいた刹那、煙の中から(むち)が延びて来てオレの足に(から)みつき、引っ張られたオレは楼門の上から宙空に投げ出される。


「うわっ!」


咄嗟にオレはナイフで鞭を切断すると、そのまま宙返りして着地し、なんとか事なきを得た。幼い頃身につけた軽わざのおかげだ。


煙が晴れてオレの目前に現れたのは、左腕に矢が刺さった花関索。


「よォ、()。なかなか見事な攻撃だったぜ。天下無双の俺様に傷を負わせるとはな。ますますおまえが気に入ったよ」


奥の手の【連射】と【一箭双雕】を使ってあれほどの攻撃を仕掛けたのに、花関索に命中したのは一矢だけ。あとはすべて黄龍槍で完璧に防御されてしまったようだ。これがSS級チートの実力。Aランクのオレでは到底太刀打ちできない、立ちはだかる壁。


「ハハ…文字どおり、一矢を報いただけ、か……」


オレはがっくりと膝をつく。単独で奴に対抗するすべはもう持ち合わせていない。


(待てよ?さっきの狼煙で異変を察知した城外の張遼が駆けつけて、2対1になれば、あるいは…)


ならば時間稼ぎが必要だ。協力か否かの二択から選択肢を増やしてやる。


「……殺せ。おまえの手先になるくらいなら、オレは死を選ぶ」


案の定、オレの決死の覚悟に花関索は戸惑って、


「あ~あ~せっかく俺様が気に入ったと言ってるのに。はは~ん、さては自分の命を盾にして俺を手詰まりにさせるつもりか?そうは行くか!」


とはいえ、オレを生かすか殺すかで迷った花関索は、すぐに結論が出せぬまま時間が過ぎていく。

その時、静かに門が開いて人影が現れた。待ちわびた張遼の登場か?


「あなたは死んじゃダメ、関興!」


――遠くへ逃げたはずの女神孔明だった。


!!

なんで女神様が?

オレが呆気にとられた瞬間、花関索が女神孔明に向かって跳躍する。その意図を悟ったオレは、


「駄目だ、女神様!早く【ワープ】でここから脱出するんだ!」


「えっ?」


オレの叫びもむなしく、女神孔明は花関索の太い腕にがっちりと(から)め獲られ、再び捕らわれの身となった。喉元に匕首を向けられた女神孔明は、


「あ…た、助けて。関興……」


「ふはは。駄女神のおかげで膠着が解けたな。関興、コイツを殺されたくなければ、おとなしく俺様の手先となって働け!」


花関索は勝ち誇ったように要求を突きつける。


「くっ…」


何やってくれてんの、女神様!?オレの捨て身の作戦を台無しにしやがって!

この状態で女神様が【ワープ】を発動させても、死神の花関索とともに別の場所に転送されるだけだ。事態はなんら改善しない。


「さあ、どうなんだ?」


花関索がグイと匕首を女神様の首に押しつけ、オレに決断を迫る。

その時。


「ふふん、掛かったわね関索!私と一緒にこのゲームから退場よ!【封神】!」


花関索の腕を掴んだ女神孔明が叫ぶ。


「な、なんだと?…てめぇ、このクソがああぁーっ!」


女神孔明と花関索が(まばゆ)いばかりの光に包まれたかと思うと、花関索の咆哮とともにその場から二人の姿は消えた。



 -◇-



呆然とたたずむオレのそばに、張遼が駆け寄って来た。


「おーい、興!何だったんだ、あの光?大丈夫だったか?」


「…ああ、オレはなんとかな。正直、危なかった。来てくれて助かったよ」


と感謝の意を告げる。張遼はキョロキョロと辺りを見回すと、


「花関索の野郎は?」


「女神様…いや、諸葛孔明が必殺技で遠くに飛ばしてくれた。いずれ再戦するだろう。次こそオレが勝つ!」


その時、葭萌(かぼう)の本陣で勝ち鬨が上がった。劉備軍が制圧したのだろう。

史実では、これから足かけ三年もの長きにわたる、劉備の益州平定戦が始まる。だがこの世界では、戦闘で活躍するはずの黄忠も法正も(そして関羽軍に在籍するため軍師の龐統も)存在しないのである。成都陥落までいったい何年かかるのやら?


ま、オレの知ったこっちゃない。

いずれにしろ、オレの役目は終わったのだ。

けれど。


(【ワープ】で転送されただけ、だよな?)


――あの時、光の中で女神様はオレに微笑んだ。そして確かに呟いたんだ、「さよなら」って。


年内の更新はこれでおしまいです。今年一年お読みいただき、ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。

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