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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第七部・勧君更尽編
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241.葭萌関

花関索は、捕まえて連行して来た女神孔明を白洲に引きずり出した。


「ちょっと関索、どういうつもり?帰宅途中の私を麻酔薬(クロロホルム)で眠らせて拉致するなんて…放しなさいよっ!」


「女神様!」


一瞬焦ったけど、よく考えたら女神様は必殺技持ってるじゃん。


「おい、さっさと【ワープ】使って逃げ出せよ。。。」


オレが呆れてそう言うと、女神孔明は必死の形相で、


「できる物ならとっくにしてるわよ!このターンではすでに別のコマンドを使っちゃったから、【ワープ】が使えないのっ」


「!」


「ハハッ。本当に使えねぇ女神だよな」


花関索は憎しみのこもった目で女神孔明を睨みつけ、刺殺しようと黄龍槍を振り上げる。


「やだ、本気なの?いやぁーっ!助けて、関興!」


「ま、待てっ!」


オレは慌てて花関索を止める。


「取引しようじゃないか。あんたは史実改変を認めないんだろ。なら、ここで諸葛孔明()の女神様を殺してしまうのはマズいんじゃないか?劉備はあんたに引き渡す。だから、女神様の身柄をこっちに寄越せ」


花関索はニヤリと笑い、


「へ~え、そういうことかぁ。フッ。後漢も劉備も忌むべき存在で滅ぼそうとしている頭の堅い関興を、こうもあっさり懐柔できるなんて、俺にとっては無価値の女神にも立派な使い道があったんだな。

 だがなぁ()、それが人に物を頼む態度なのか?」


「くっ…」


オレは床に這いつくばり花関索に向かって、


「どうか女神様の身柄と劉備との交換に応じていただけないでしょうか?」


と土下座した。女神孔明は「関興……」とつぶやいて絶句する。


「くっはははっ!傑作だぜ、本当に土下座しやがった。

 だがよォ、劉備は只のお飾り。おまえが女神に焦がれるほど、俺は劉備を必要とはしない。1対1の交換じゃ釣り合いが取れん。そうだな、劉備の返還に加えて、俺たちの益州平定に手を貸してもらおうか」


「! オレに友軍の劉璋を裏切れと言うのか?」


法外な要求に反発したオレの剣幕に、花関索は肩をすくめて、


「まさか。そこまで要求したら、おまえが断ることくらい百も承知だっつーの。

 なぁに、簡単な仕事だ。益州への関門にあたる葭萌(かぼう)関の守将・楊懐と高沛が邪魔なのさ。こいつらは劉備軍を警戒しているから、俺たちが兵を率いて漢中からノコノコ戻っても不審に思われるだけだ。

 そこで、劉璋とは関係の悪くない荊州軍のおまえに頼みがある。

 史実に基づき、楊懐と高沛を騙し討ちにしてくれ」


「なんだと?!」


花関索の言う史実を概観しておこう。


劉備は漢中の張魯を牽制すべく、益州牧の劉璋に招聘されて葭萌(かぼう)関に駐屯した。ところが劉備は張魯の討伐に着手しようとはせず、周辺住民たちの人心収攬に努め、秘かに益州乗っ取りを図っていた。楊懐と高沛はそんな劉備に不信感を抱き、劉備を追い出して荊州に撤退させるよう劉璋を諫めた。

折しも孫呉と曹魏の間に大規模な衝突が起こり、孫権は荊州の兵を陽動のために出陣させて欲しいと要請して来た。

劉備が荊州へ帰るそぶりを見せたところ、劉備に内応していた劉璋の重臣・張松は、慌てて「事が成就しそうなのに、なぜ益州を放置して去るのですか?」と書簡を記した。この書簡が露見し、張松は謀反の罪で斬られ、劉璋は初めて劉備を疑うに至った。

劉璋は劉備追放のお触れを出すが、その通知が葭萌(かぼう)に届くより先に軍師の龐統が動く。


《いま劉備将軍が荊州へ撤退すると告げれば、楊懐と高沛は喜んで見送りに訪れるだろうから、この機に二人を捕らえればよい》


と進言し、事態はその通りに進む。

劉備は宴席で楊懐と高沛を縛り上げると、


《わしと劉璋殿の仲を裂くために、あらぬ讒言を吹聴しやがって!きさまらは益州を危険に晒す曹魏の回し者に違いない!》


と断罪して二人を斬り捨てた。こうして葭萌(かぼう)関とその配下の兵を掌中に収めた劉備は、益州平定に向けて成都へ侵攻を開始したのである。



――花関索はこの史実を踏まえ、楊懐と高沛を排除するのにオレに手を貸せと言うのだ。


「こいつらは法正の誘いに乗って、劉備軍に兵一万を提供したんだぜ。間接的にしろ漢中攻撃を支援した、おまえにとっては憎むべき敵じゃないか。

 俺はおまえに、史実の忠実な再現を手伝わせてやるって言ってるんだよ」


悪辣な提案なのは承知の上。だが女神様を助け出すためだ。やむを得ん。オレは花関索が語った三分の理に無理やり己を納得させ、


「……分かったよ。ただし、オレが手を貸すのは楊懐と高沛を騙して身柄を拘束するまで。その後二人の処罰をどうするかは劉備軍で決めろ。オレは知らん」


「上等だ。おまえの計略に期待してるぞ、()



 -◇-



オレは捕虜にした劉璋軍の兵から(よろい)(かぶと)を奪い、劉備軍の兵らに着せて変装させた。

また、葭萌(かぼう)関の守将・楊懐と高沛に向けて書簡を記し、


「先ごろ劉備が関羽領の漢中へ侵攻して来たので、我々荊州軍が返り討ちにした。

 聞けば、益州麾下の法正・孟達の二将が劉備をそそのかし、漢中攻略を謀ったとか。その真偽を確かめるとともに、我々が討ち取った法正・孟達の首を実検していただきたい。

 なお、そなたらが貸し与え捕虜となった兵は彼らに騙されたにすぎず、罪に問うつもりはない。葭萌(かぼう)にお返しするゆえ、両将におかれては、我ら荊州軍との会見に臨まれたい。 関興」


との書簡を早馬で届けさせた。


十日後。

葭萌(かぼう)関に到着すると、紺地に“関”の軍旗を見た楊懐と高沛の二将は門を開き、オレを関の中に入城させると、「遠路はるばるご苦労でござった」とねぎらった。


「オレはいい。ただ、貴公ら益州軍が望んだ劉備軍の殲滅を荊州軍が成し遂げてやったのだ。城外で待機させている兵たちを勝利の宴でもてなしてやりたいのだが」


と依頼すると、二将は渋い顔で酒と肴をふるまってくれた。


「かたじけない。おお、そうだ!約束どおり劉璋軍の捕虜兵をお返しに上がった。我らの手を離れ、葭萌(かぼう)の二将に引き取って欲しい」


もちろんこの要求は難なく通る。実は彼らが劉璋軍の(よろい)(かぶと)(まと)った、劉備軍の変装とは気づかずに。

改めてオレと楊懐・高沛は会談を開き、


「早速であるが、法正・孟達の首を実検していただこう」


そうして桶を開封し、塩漬けにされた両名の晒し首を見せた。恐る恐る眺めた楊懐と高沛は、


「確かに法正・孟達に違いない。友邦の荊州軍に兵を向けるとは愚かなことじゃ」


と感想を述べる。オレはふうっと溜め息をつくと、


「まったくですな。天網恢恢疎にして漏らさず、友邦に兵を差し向けた裏切者が、どのような最期を遂げるのか知らぬはずはあるまいに」


嘆かわしいとばかりに首を振る。それを合図に左右の者が一斉に動き、楊懐と高沛を縛り上げた。

「か、関興殿!これはいったい何をなさる?!」


「フン。いま自ら語ったではないか。友邦の荊州軍に兵を向けるとは愚かな行為だと。憎き劉備を葭萌(かぼう)から追い出すために、法正の悪だくみに便乗し、兵一万を貸し与えて罪なき漢中へ侵攻させる手助けをしたおまえらも同罪。裏切者を許すわけにはいかん」


と告げると、花関索が後方から躍り出て「死ね!」と叫び、楊懐・高沛を一刀のもと斬り捨てた。

劉璋軍の捕虜兵に変装して関内に潜入していた劉備軍の兵も蜂起し、葭萌(かぼう)関は敵味方入り乱れての混戦となった。


こうなることを予想していたオレは、乱戦のさなか、花関索に捕らえられていた女神孔明を解放し、先導して逃げ出す。


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