23.関興、河賊に二度襲撃される
翌日、オレと潘濬は褒美でもらったオンボロ楼船に乗って、劉表お付きの役人・張允とともに唐県に帰った。迷惑この上ない存在の張允は、オレたちが途中で敵国に楼船を売ったりしないか監視するために同行するらしい。
だから唐県に到着するまで、引渡書は張允自身が預かっておくのだそうだ。ふん、馬鹿馬鹿しい。
船は漢水から支流の唐河に入り、ゆったりと進んで行く。吹き抜ける風が気持ちよく、なかなか快適な船旅だ。
と思ったら。
「興坊ちゃま!十万銭もの大金、どうやって支払うのです?!そもそも、我が唐県の年予算は、三十万銭しかないんですよ!」
と潘濬が非難する。
「今年は豊作だったからねえ。余剰の兵糧米を売れば……」
「豊作の時は、米問屋が買い入れる単価は下がるんですよ!」
頭の固い潘濬には、唐県で収穫された兵糧米を曹操に密売していることは話していないのだ。
「潘濬殿が心配しなくても大丈夫だよ。父上に言えば支払ってくれるって!」
「関羽殿が何故そんな大金を持ってるんです?」
「さあ?ボクちゃん四歳児だから分かんなーい」
と誤魔化すと、潘濬に白い目で睨まれた。潘濬はふうっと溜息をついて、
「薄々感づいてはいるんですけどね。ですが、事が発覚した時でも、私は知らぬ存ぜぬで通させてもらいますよ」
と言った。
その時、ドンという衝撃でオレは転びそうになった。
「どうしたんだ?船が急に停まったぞ」
外でワアワア喊声が聞こえる。水夫の一人が船室に飛び込んで来て、
「県尉様。た、大変です!河賊に襲われております!」
「なんだと?!いかん、迎撃の用意!」
「オレも援護します!」
しまった。戦乱のない荊州内の航行と思って油断した。
河賊は、いくら軍事用の楼船とはいえ、護衛の船を付けていない一隻での航行なら狙いやすいと見て、襲って来たのだろう。
実際、乗員はオレ・潘濬とその付き人5名及び襄陽の役人・張允、それに非戦闘員の水夫五十名しかいない。
河賊は三十人ほどで、楼船の横っ腹に船をぶつけて接舷し、梯子をかけて乗り込んで来た。オレは縄梯子をすばやく切って落とし、これ以上賊が侵入できないようにした。梯子の途中にいた賊は海の中に落ちた。
「おとなしくしやがれぃ!この船は河賊の陳虎が占拠する!」
甲板の上では賊との白兵戦がすでに始まっていた。オレを子供だと思って油断し、人質にしようと近づいた賊に剣を振るって反撃に出る。「ぎゃああーっ」と叫んで倒れる賊。
潘濬も奮戦して二人倒したが、付き人5名は剣を握ってオロオロするばかり。無理もないか、ただの文官だもんな。
「武器を捨てろっ!こいつがどうなってもいいのか?!」
振り返って見ると、逃げ惑っていた劉表お付きの役人・張允が賊の頭らしき男に捕まって、喉元に剣を突き付けられていた。
「ひいいーっ。た、助けてくれぇー」
泣き叫ぶ張允。情けねえ奴だな。
べつにそいつがどうなってもオレはかまわんが。オレは無視して賊と戦おうとすると、潘濬がオレの腕を掴んで、首を横に振った。
チッ、使えねえ役人だな。最後まで迷惑かけやがって。
オレたちは全員、武器を捨てた。そうして縄を掛けられ、人質になった。
「親分。中を探しやしたが、お宝は何もありやせんぜ」
そりゃそうだ。オレたちはボロ楼船を引き取りに行っただけだからな。馬鹿め。
「くそっ、ハズレか。こうなったら、一人あたり一万銭で合計八万銭を身代金として要求する。やい、この船の責任者はどいつだ?」
オレたちは張允を指差した。
「ち、違いまする!そ、某はただの劉表様の役人で、この船は唐県の県令にゆ、譲り渡す物でおじゃる。だから責任者は唐県の者のはず」
こいつ、最後まで責任逃れか。なら最初から引渡書をこっちに渡せよ!そしたらおまえはこの船に乗らず、オレたちが河賊に屈する必要もなかっただろうが。本物の疫病神だな。
しかたなくオレが手を上げようとすると、すかさず潘濬が、
「私は唐県の役人をしておる潘濬と申す者。甚だ不本意であるが、劉表様お付きの役人がそう申すなら致し方あるまい。私がこの船の責任者である」
と代わりに白状してくれた。
「ならば、おまえの上司の県令に宛てて身代金を払えと文を書きやがれ!」
潘濬はしぶしぶ筆を取って文を書き始めた。
さて、これからどうしたものかな。
命までは取られる恐れはなさそうだが、疫病神の役人・張允が捕まっている以上、身代金を払って解放されないかぎり、こっちから身動きが取れない状態だ。
その時、楼船に再びドンという衝撃が走り、縄で縛られたオレたちはぐらりと横倒しになった。外でワアワアという喊声が上がる。どうやら別の輩が船に乗り込んで来て、陳虎が率いる賊と争い始めたようだ。どうなってるんだ?
「関羽様が異変に気づいて助けに来てくれたんですかね?」
「いや、こんなに早く父上が異変に気づくはずがない。賊同士の内輪もめだろう。悪いことにならなければいいが」
オレは潘濬の楽観的な見通しを否定した。
「おい、陳虎とやら。おまえは加勢に行かなくてよいのか?応援が必要ならオレも出るぞ。さっさと縄を解け!」
「う、うるさい!人質のチビのくせに、黙っておとなしくしてろ!」
だが陳虎らの賊は、新たに乗り込んで来た腕っぷしの強い輩に押され、とうとうオレたちが囚われている船室に追い詰められた。
「畜生めっ!こ、こいつらがどうなってもいいのか!?」
陳虎が疫病神の張允に剣を突き付け、震える声で侵入者を脅す。
「はあ?勝手にしろ。俺はこの船を奪いに来ただけ。邪魔する奴は皆殺しだ」
やべえ。血に飢えた人殺しが乗り込んで来やがった!
「き、きさまは何者だ?」
「俺は錦帆賊の頭領・甘寧。命乞いは受けつけねぇぜ」
「げえっ。甘寧だと?!」
すかさず甘寧は陳虎の腹に剣を突き刺した。悲鳴を上げる間もなく、陳虎の体はズルッと崩れ落ちる。
いかん!孫呉に亡命し、周瑜の下に附いた甘寧は、史実では関羽と反目していた。オレが関興だとバレたら殺されるかもしれない。まずいぞ!
オレはゴクリと唾を飲み込む。オレの武力は63。【鑑定】スキルで確認すると、甘寧の武力は90だ。敵うわけがない。
甘寧は血の滴り落ちる剣を、人質のオレたちに向ける。
「かっ……か、甘寧殿は、江夏の黄祖殿の部下であったはず。そ、それがどうしてこのような乱暴狼藉を……ひっ!」
疫病神の張允が余計なことを言って、甘寧を刺激した。馬鹿か!?
「俺はなぁ、黄祖の野郎をぶっ殺してぇんだよ!あいつのせいで俺がいかに不遇を強いられたか……思い出したくもねえ。俺は仲間とともに奴の部隊を抜け出して、錦帆賊を結成したんだ」
知ってる。そして孫呉に亡命するんだよな。
でも、孫呉は江夏の東側だぞ。ここは江夏のずいぶん北に位置するが。もしかしてあれか、甘寧って実は方向オンチとか?いや、そういうドジっ子キャラなんて似合わないんだが。
「河賊の頭領になってイキがってはみたが、正直、部下二百人を食わせるのは厳しい。このままではジリ貧だ。
そんな時に噂を聞いた。俺と同じ荊州軍にいる関羽ってヤツが曹操軍を撃退した。めっちゃ強えんだな。
褒美に関羽は楼船を所望したらしい。だが、華北出身の関羽は船の扱いには慣れていないだろう。俺が仕官して水軍の指揮を教えてやれば、ヤツも喜ぶ俺も喜ぶ。すべてうまく収まるんじゃないか?
よし。こいつになら、俺も頭を下げるのにやぶさかでない。
そう決意して唐県に向かっていたら、ボロい楼船が護衛もつけずに一隻で航行してやがる。たぶん、これが関羽への褒美の楼船だろう。
俺は後をつけた。護衛がいなけりゃ、途中で河賊に襲われる可能性があるからな。
案の定、陳虎ごとき雑魚の河賊に拿捕された。ダサすぎるわ。
しかし俺にとっては僥倖だ。乗っ取られた楼船を奪い返して献上してやれば、関羽も俺の仕官を断れまい。
おまえら、唐県の役人だろ?今語った内容で俺の仕官を援護しろ!
嫌とは言わさねえぞ」
……べつに嫌とは言わんが。俺はこの場で甘寧に殺されずに済むし、甘寧のようなステータスの高い武将が味方になってくれるなら、むしろ大歓迎だ。
ただ、今後の歴史が大きく変わる可能性が……いや、ないな。
甘寧が孫呉に亡命しなくても、史実どおり孫呉が江夏を陥落させれば、少なくとも赤壁の戦いは起こるはずだ。
そもそも、甘寧の方から勝手に押しかけて来たんだし、俺が前世の知識を悪用して甘寧を引き抜いたわけじゃない。
どう?【雷天大壮】が発動して、女神様に天罰の雷が落とされる?
――うん、何も起こらない。問題なし!
まあ、近いうちに女神孔明に再会するだろうから、その時に事情を説明すればいいか。
--甘寧--
生誕 熹平四年(175) 29歳
統率力 78
武力 90
知力 66
政治力 41
魅力 75
次回。河賊の甘寧が部下200人を連れて乗り込んで来た。オレはぜひ雇いたいと思っているのだが、潘濬が反対する。どうやら水軍を養うためにはお金がかかるらしい。財源はどうする?お楽しみに!




