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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第七部・勧君更尽編
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236.快進撃

「……しかし、漢中を領有するのは盟友の関羽。いまや形骸化したとはいえ同盟軍を襲うのは、わしの信望を損なうのではないか?」


そう懸念を伝える劉備に向かって法正は、唇の端を上げてニヤリと気味の悪い笑みを浮かべ、


「その心配は杞憂に終わるでしょう。聞けば、反曹丕連合を唱えた献帝陛下のこたびの呼びかけに、荊州の関羽は応じなかったとか。漢に仇なす曹丕に与する関羽は、漢の復興を願う劉備将軍の敵。つまり、劉備将軍と関羽とが結んだ形ばかりの盟約はすでに反古(ほご)にされた、と献帝陛下のお墨付きを得たようなものではありませんか?」


法正会心の詭弁を聞いた劉備は膝をポンと打って、


「よし決めた!わしはこれから葭萌(かぼう)関を発って、漢中を攻める。善は急げだ、すぐに侵攻を開始するぞ!」


と宣言する。驚いた徐庶は、


「お、お待ちください!私は漢中攻めに反対です。

 我々が本拠地の公安を離れ、劉璋殿の要請に応じて安心して葭萌(かぼう)関に出張できたのも、盟友の関羽殿に一万の兵を借りて孫権に備えることができたからです。関羽殿に恩を感じておる者も多い。同盟を反古(ほご)にすれば、劉備将軍に失望する武将も出て来る恐れがあります。

 たしかに葭萌(かぼう)関に駐屯したこの二年で直接手に入れた利益はごくわずかですが、得がたい経験を積むことができたのも事実です。今なら荊州南部に撤退しても我が軍の損害はありません。刻一刻と変化する周囲の状況に応じて、作戦を変更するのは珍しいことではありません。もう一度諸葛孔明軍師と天下三分の計を練り直し、再起を図るのが最もリスクの少ない方法であります。劉備将軍、どうか再考を…」


徐庶の諫言もむなしく、劉備の決断は揺るがない。それどころか徐庶を解任し、新たに法正を参謀役に命じたのだった。


「ははっ、ありがたき幸せ!」


苦悩する徐庶に向かって得意げにほくそ笑む法正。

劉備は早速、葭萌(かぼう)でつき従う張飛・黄忠・馬謖・孟達・孫乾・麋竺ら幹部を集めて軍議を開き、


「では漢中を攻める作戦を、新たに参謀に就任した法正から説明してもらおう」


法正はコホンと咳払いして、


「まずは漢中への南の玄関口となる白水関を奪取する。そのためには、油断して備えのない敵を一気に蹴散らすのが上策。兵には自分の食う一日分の食料を持たせ、速歩で白水関に攻め込みましょう」


「待て、白水関の守将は武に秀でた張衛だぞ。たった一日で陥とせるとは思えんのだが」


黄忠が率直な疑問を口にする。法正はカラカラと笑い、


「問題ありません。張衛は知力が低い猪武者、品のない罵声を浴びせてやれば頭に血が上り、関から誘い出すのは簡単なこと。いくら張衛が武に秀でるとはいえ、黄忠将軍や張飛将軍にとっては赤子の手をひねるようなものではありませんか!?

 さんざんに撃ち破って、黄忠将軍と張飛将軍はただちに白水関を占拠してください。足の遅い輜重や攻城兵器は、後からゆっくりと運んでも間に合います。これは孟達殿にお願いしたい」


「心得た。だがその後はどうするのだ?漢中の南鄭城には一万五千の兵がいるそうじゃないか。城を陥とすのは容易ではないぞ」


「ご心配なく。張魯は信徒の信望が厚いとはいえ、しょせん教祖。戦の荒事には疎いに違いありません。まして、二か月前に関興率いる五千の弱兵ごときに兵糧攻めで負けた身。ぎりぎりと締めあげてやれば、すぐに根を上げましょう」


「されど、漢中の兵は南鄭城だけとは限るまい。例えば、西の陽平関を守る楊柏が張魯の救援に出て来るのではないか?城と背後から同時に挟撃されてはたまらんぞ」


と馬謖が懸念を述べる。それを聞いて張飛がワハハと大笑した。


「俺様を誰だと思ってやがる?百人力と名高い燕人・張飛のお出ましだぞ!

 楊柏ごとき俺一人で相手してやれば十分だろう。勝ったも同然だ。なぁに、野戦なら敵が十万来ようとこの俺様が蹴散らしてやるさ」


法正は満足そうに、


「フフフ。張飛将軍の勇猛さは頼もしいかぎりですな。しかし、それがしの見るところ、そのような事態にはなりません。敵の楊柏は張飛・黄忠両将軍の威名を恐れ、陽平関から一歩も動けまい」


こうして、劉璋軍の楊懐・高沛から借りた一万の兵を加えた劉備軍三万は、葭萌(かぼう)関を発って白水関を襲った。突然の劉備軍の来襲に、関を守る張衛は慌てて応戦する。無数の矢が飛び交うなか、孫乾・麋竺が[罵声]コマンドを発動し、(まさかり)を武器とする張衛を煽った。


(まさかり)かついだ米賊め、おまえは金太郎か!赤いヨダレ掛けがお似合いじゃ」


「お、おのれーっ!許さん!」


頭に血がのぼって関門を開き討って出た張衛に、待ってましたとばかり襲いかかる黄忠。馬と馬を駆け合わせて戦うこと十数合。敵わじと見た張衛は、背中を見せて退却する。


「それっ、このまま関の内側に攻め入れっ!」


黄忠の追撃に続くように、わああーっと雄叫びを上げて劉備軍の兵が白水関に殺到する。


[張衛軍]

[兵力:3,837人]

[訓練度:52]

[士気:0 潰走]


張衛軍は猛攻に耐えきれず、関を捨てて逃げ出した。


「よし、まずは大勝利じゃ。わしは天下獲りに向けて偉大な一歩を踏み出したぞ!」


劉備の呼び掛けに合わせて、エイエイオーと喊声を上げた。


白水関を占拠し勢いに乗った劉備軍は、休む間もなく漢中盆地になだれ込む。

白水関から南鄭城へは距離にして二百五十里。平地ならおよそ五日の行軍だ。しかし天下に名だたる蜀の桟道、険しい山中を貫く悪路なれば、歩みは困難を極めもっと時間がかかるはずである。だが劉備軍は五日でやってのけた。漢中侵攻を伝え聞いた荊州からの援軍が到着する前に、劉備が漢中を占拠したという()()()()を欲したためだろう。


[劉備軍]

[兵力:28,643人]

[訓練度:80]

[士気:95]


劉備軍は張魯が籠もる南鄭城をただちに包囲する。

南鄭の戦いが始まった。参謀の法正はまずは力攻めをせず、包囲して矢を射かけてじわじわと攻める。「兵は神速を貴ぶ」の兵法どおり、速戦即決を重視し、足の遅い輜重や攻城兵器は後から運ばせる作戦だ。そして、先の白水関で大成功した作戦でもあった。


[張魯軍]

[兵力:14,215人]

[訓練度:60]

[士気:60]


およそ倍の兵力を持つ法正は、己の勝利を微塵も疑っていない。

事実、法正の読みどおり、張飛・黄忠の威名を恐れたせいか、あるいは劉備軍の快進撃に負けを確信したためか、陽平関を守る楊柏は南鄭城へ救援を送ろうとはしなかった。


ところが法正にはたった一つ誤算があった。

言うまでもなく、オレと張遼の存在を見逃していることさ♪


劉備め、おまえの快進撃はここまでだ。ここからはオレ達のターンだぜ!


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