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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第七部・勧君更尽編
255/271

235.一難去ってまた一難

久しぶりに関興が主役の回です。

六月中旬。

鮮卑慕容部を従えたオレは、ようやく漢中盆地に戻って来た。


その間、荊州を取り巻く事態が急速に展開したことは、斥候からの報せで知っている。荊州乗っ取りを謀った曹操の野望を、関羽のおっさんと龐統が襄陽で迎え撃って降伏させたこと、献帝が曹丕排除を狙ってクーデターを企てたものの、それを察知した曹丕に逆襲されて都を追われ、勝利した曹丕が漢朝を滅ぼし、皇帝に践祚したこと……。


動乱の渦中から離れ秦嶺の山の中を彷徨っていたオレは、巻き込まれずに済んだことを素直に喜ぶことにしよう。


…と思っていたら。

前世のゲーム『三國志』のプレイで見慣れたスクリーンが宙空に現れ、


------------------------------------

天下に曹丕打倒の機運が満ちています

曹丕打倒を宣言されますか?

------------------------------------


と文字が浮かび上がる。何だこれ?

ああ、もしかして「連合」イベントが発動したのか!たしか、突出して強大になった勢力(信望低め)が出現すると、他の勢力が結託してその強大な勢力を標的に立ち向かうんだよな。


繰り返しになるが、オレは、実力もないくせに権力欲に取り憑かれた漢の献帝はロクでもない奴だと思っているから、腐りきった漢を滅ぼすことには賛成だ。なので曹丕が漢を滅ぼしたことを非難する気は一切ない。


オレは [いいえ] を選択した。

すると再びスクリーンが現れて、


------------------------------------

反曹丕連合が結成され

司馬懿が連合盟主に選ばれました

------------------------------------


と表示された。


司馬懿 「曹丕の無道を正し、我らの義挙を天下に知らしめん!」


って、どの口が言うんだよ?!漢の献帝を操り、曹魏の乗っ取りをたくらむ司馬懿が“義挙”とは世も末だな。


[情報確認]をしたところ、反曹丕連合に参加したのは司隷の司馬懿をはじめ、幽州の曹彰・并州の夏侯惇・青州の曹植・揚州の孫紹・益州の劉璋・荊州南部の劉備・揚州南部の孫権。つまり、オレたち荊州を除くすべての軍閥が連合したわけだ。


ま、せいぜい互いに潰し合って疲弊すればいいさ。オレたち荊州軍閥は高みの見物を決め込み、その間に国力を飛躍的に増大させる。人口五百万人、米の生産一千万石を目指し、「蘇湖熟すれば天下足る」ならぬ「()()熟すれば天下足る」を実現してやる。気づいた時には手も足も出ないような国力差に恐れおののくがいい。



定軍山の麓で野営のゲルを設営しているオレのもとに、一の子分(←オレは認めたわけじゃないぞ!)の蝉弗(せんふつ)が、


「大将~なんか厳つい顔した人が会いに来てますよう」


と間の抜けた声で知らせに来た。

外に出ると、張遼だった。


「興、すまぬ!俺は…おまえの善意を裏切り曹公の悪事に手を貸してしまった」


「? ああ、曹操が漢中の軍船を奪って荊州侵攻を謀ったことか。問題ない、関羽のおっさんと腹黒鳳雛軍師が上手くあしらい、未然に防ぐことができたそうだ。気にするな」


「怒っていないのか?」


「んー結果的に荊州軍には被害がなかったんだから、終わったことをいちいち咎めても仕方ないやろ。オレ自身、曹操の仮病に気づいていながら泳がせたわけだし、最初から曹操が何かやらかすと思っていたし」


ぶっちゃけ、漢中乗っ取りを図って張魯を追い出すか、葭萌(かぼう)関を襲って劉備を蹴散らし、そのまま益州に侵攻したら面白いのに…とか期待してたもんな。


「で、では曹公の命は…?」


「まあ、謀反を起こした手前お咎めなしとはゆくまいが、曹操を処刑する必要はないとオレは思うぞ。代わりに曹操軍は解体、傘下の武将は全員荊州軍が引き抜くとのペナルティは課すけどな」


主だったところで、張遼・徐晃・賈詡・郝昭・夏侯覇・張既ら優秀な武将が手に入るんだ。丸儲けじゃないか!曹操の助命嘆願を聞き届けるくらい安いものだ。

よかった…と胸をなでおろす張遼。


「おまえだって、荊州軍に来てくれるんだろ?」


「ああ。もちろんだ」


張遼のステータスを【鑑定】したところ、


 [所属] 関羽軍 [忠誠]90

 統率91 武力95 知力78 政治力65 魅力80

 歩兵C 騎兵S 弓兵A 水兵D 攻城B 籠城A


うーむ、やはり強力だな。せっかく味方になってくれたことだし、忠誠度を100に上げるためにアイテムでも渡すか。


「張遼、おまえに[青釭の剣]をやる。+5が加算されて武力100のSSランク武将が新たに誕生だ」


「!! こ、これはおまえが大切にしていた宝剣じゃないか!本当にいいのか?」


いいよ。その剣をゲットした時にイタズラされた悪夢はもう二度と思い出したくないし。


「かたじけない。大事に使わせてもらう」


ピロリ~ン。 張遼 の忠誠が上がりました。

とのコメントが脳内で再生されたオレは、張遼に尋ねる。


「で、おまえの用件って、わざわざこんな郊外までオレを出迎えてくれることだったのか?」


本来の用事にハッと気づいた張遼は、


「あっ、そうだ!緊急事態が発生した。実は葭萌(かぼう)関の劉備が宣戦布告し、漢中を狙って領内に侵犯して来たらしい。それで漢中の張魯は、俺に迎撃の指揮を任せたいんだとよ」


「な、なんだって?!」



 -◇-



事の発端は二年前にさかのぼる。


益州牧の劉璋は、激しく対立する張魯の五斗米道を牽制するために、葭萌(かぼう)関に劉備を招いて国境警備の用心棒とすることを思いついた。劉備は劉備で、諸葛孔明が提案した「天下三分の計」を実現すべく益州乗っ取りを狙い、拠点となり得る葭萌(かぼう)関に喜んで駐屯したわけだが、劉璋も劉備も互いに相手を利用することしか考えていなかった。


ところが今年四月、オレたち荊州軍が漢水を遡上して漢中を陥とし、張魯の五斗米道教国を降伏させてしまった。


もともと劉璋と関羽の関係は悪くない。少なくとも、軍師の龐統が武器をたんまり劉璋に売りつけるくらいには。その裏で、劉備に益州乗っ取りを焚きつけておきながら。さすが腹黒、ひいぃ怖い怖い。


そんなわけで、敵対勢力の張魯が消えた今、劉璋は北方からの脅威がなくなったと考え、劉備に葭萌(かぼう)関から速やかに撤退するよう要求した。


劉備にすれば憤懣やる方ない。

わざわざ招聘しておきながら、用済みになったからさっさと出て行けとばかりに追い出されたら、そりゃ怒るわな。いくら劉備嫌いのオレでも、この仕打ちに対しては(珍しく)劉備の肩を持つぞ。


――とは言え、ここからが行けない。


参謀の徐庶は、劉備に常識的な二案を提示した。


「第一案は劉璋殿の要求どおり、一旦おとなしく荊州南部に撤退して再起を図る。

 第二案は、劉璋殿の無礼な仕打ちに異を唱え、その非を(ただ)す名目で成都へ進軍し、当初の計画どおり益州乗っ取りを目指す。

 ただし、葭萌(かぼう)関に拠点を構えて二年しか経っておらず、戦争の準備がいまだ万全ではない以上、見切り発車的に侵攻を開始しても成功の公算は低いでしょう。私としては、第一案を推しますが……」


徐庶の説明を聞いた劉備は机を拳でドンッと叩き、


「くそっ。こんな事態に陥ったのも、あの生意気なクソガキの関興が、益州占領のプライオリティは俺にあるとの約定を破って、張魯を降伏させたからだ!」


と怒りの矛先をオレに向ける。

いや、違うだろ!たしかに五斗米道の警戒を南の劉備に向けさせて、漢中の守りを薄くさせるために利用したのは事実だが、二年もの間、張魯の守勢に手も足も出なかった己の戦下手を恥じれよ。

すると劉璋から劉備軍に寝返った法正が薄ら笑いを浮かべ、


「それがしに腹案がございます。

 この期に及んで、劉璋が最初に劉備将軍に要請した漢中攻略の計を実行に移すのです。葭萌(かぼう)関で劉備将軍を警戒する劉璋軍の楊懐・高沛から兵を借り、ついでに武器と兵糧もせしめればよろしい」


「貸してくれるかのう?」


「それがしが行って、楊懐・高沛をうまく丸め込みましょう。

 二人はそれがしの元同輩、そのいいかげんな性格はよく存じておりまする。我が軍が荊州南部に撤退しようと漢中に侵攻しようと関心がない。彼らにすれば、葭萌(かぼう)関から劉備将軍がいなくなってくれればそれでよいと、浅はかにも考えるはずです」


「なるほど…」


「徐庶殿の優等生的な計略に比べて、それがしの腹案が秀でている点は四つあります。

 まず一点目。五斗米道教国は荊州軍の兵糧攻めにあってぶざまに降伏したとか。率いる将軍は知力の低い張衛で組みしやすいし、支配者が替わったばかりで兵の士気も当然振るいますまい。

 次に、もともと益州の劉璋と荊州の関羽との関係は悪くありません。荊州に服属することになった張魯は、昔の対立関係は忘れ、まさか益州から侵攻を受けるとは夢にも思わず、油断して南の備えを怠っているに違いありません。これが二点目。

 そして斥候の報せによれば、曹操が荊州に侵攻し、関羽自らその対応に追われているとか。すなわち、漢中の危機に対して荊州から援軍がやって来る恐れはありませぬ。三つ目の利点です。

 さらに四点目。漢中を拠点とすれば、益州だけでなく中原への進軍も夢ではありません。漢の再興を唱える劉備将軍が長安・洛陽を掌中に収めることができれば、天下の義士たちもその偉業を讃え、千里の道も遠しとせず、劉備将軍のもとに集うでしょう。

 以上の四点を考慮すれば、漢中攻略は極めて容易。まさしく天の与え給うた絶好の機会。いま劉備将軍が狙うべきは、漢中ではありませんか?!」


蘇秦も真っ青の弁舌で、法正は劉備将軍をその気にさせる。


往年の名作ゲーム『三國志Ⅸ』をオマージュしました。いまプレイしても面白い。歴史シミュレーションゲーム史上最高傑作だと思います。

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