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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第七部・勧君更尽編
253/271

233.命乞い

オレが


>あーあ。曹丕のヤツ、とんでもない愚行を仕出かしたものだ。


と嘆いたのは、「四百年続いた漢を滅ぼして、新たに魏王朝を建てた」からではない。(そもそもオレは、漢の献帝は実力もないくせに、権力欲に取り憑かれたロクでもない奴だと思っているから、腐りきった漢を滅ぼすことには賛成なのだ)


曹沖なき今、史実どおりこのまま父親の曹操に悪役を演じさせ、その死をじっと待っておれば、黙っていても曹丕に皇帝の座が転がり込んだのに、“歴史の法則”を無視して自ら帝位簒奪に突っ走ったばっかりに、曹操の“夢”そのものをぶち壊しにした愚かさに呆れているのである。


これで曹魏政権の崩壊も確定だ。


そして、この後起こる未来も想像がつく。


漢王朝の復古の動き→献帝を盟主とする反曹丕包囲網の結成→曹丕敗死→献帝の再登板/但し権力は献帝を担いだ主役(ヒーロー)に→主役(ヒーロー)九錫(きゅうしゃく)授与と王に封爵→主役(ヒーロー)による禅譲・漢滅亡


という流れ。まぁ、中国・南北朝時代の王朝交代パターンがほぼこれに該当する。例を挙げれば東晋を乗っ取った劉裕(劉宋の建国者)や、北魏を奪った高歓(後に北斉を建てる)だな。



※参考までに。

東晋の安帝を幽閉して楚を建てた新皇帝・桓玄→劉裕・何無忌・劉毅ら反桓楚包囲網→桓玄敗死→安帝の再登板/但し権力は安帝を担いだ劉裕に→劉裕、九錫(きゅうしゃく)授与と王に封爵→劉裕に禅譲・東晋滅亡




この世界では…主役(ヒーロー)はたぶん司馬懿で間違いあるまい。すでに献帝という(ギョク)を掌中に握っているし。

このままでは、オレの理想とするエンディング:


1.仁徳あふれる君主による天下統一

2.曹魏(天下の三分の二を有する)・荊州の関羽・揚州の孫紹・益州の劉璋?・涼州の×× による天下五分の計

 ⁑

(越えられない壁)

 ⁑

3.武力によって曹操が天下統一

 ⁑

(論外)

 ⁑

4.後醍醐のように碌でもない政治を行う漢の献帝が再登板

5.血も涙もない冷酷な司馬一族による、晋の天下統一


ギリ許容範囲の3どころか、論外の4か5に落ちてしまう。バッドエンド確定だ。

オレはどう動くべきか、ここが思案のしどころだろう。



 -◇-



話を戻して、荊州。

関羽は無慈悲に、乗っ取りに失敗した曹操にざまぁを宣言する。


「このような事態に至っては、かつて天下の八州に君臨したものの、いまや大逆を犯した曹丕に連座し落ちぶれて流浪の身となった閣下に、助ける価値などありません。恩を仇で返した報いを受けるべきですな」


「関羽、いや関羽将軍!待ってくれ!わしは何でもするッ。だから…命だけは助けてくれッ!」


曹操は関羽に縋りついて哀願する。

と、その時。

我が荊州軍に寝返った賈詡が、


「……果たして秦朗は、あなた方が仕組んだように、皇帝の座に最も近い位置にいた曹公を利用してやろうと考えて、救出に向かったんでしょうかねぇ?」


と聞こえよがしにつぶやいた。

痛烈な批判にウッと詰まった関羽は、「なんだと?」と威圧するのが精いっぱい。賈詡はまったく意に介さず、


「いえね、お人好しの秦朗の意図は、決して曹公を利用して成り上がろうなんて野暮なものじゃなかったと、私は信じておるだけで。さぞや無念でしょうなぁ、許都へ曹操閣下を連れて行き再会させてやる、と曹麗皇后に誓った約束を果たせなかった秦朗は…。

 それに曹公に恩を仇で返されたのは、あなた方ではなく直接的には秦朗なわけでしょう?

 わざわざ陳倉へ曹公を救出に行ったのに、ようやく荊州に戻って来たら閣下はすでに自軍の手で殺されておりました、なので曹麗皇后との約束は果たせませんでした…と秦朗が知ったら、面目丸つぶれだろうなと同情しますよ」


「……」


「もちろん、荊州乗っ取りをたくらんだ曹公が一番悪いのですが、あなた方のように敢えて謀反を起こす隙を作って曹公を試し、結果予想通りだったので殺しましたなら、秦朗が嫌うマッチポンプそのもの。まして、せっかく助けた秦朗に一言も相談せず、あなた方が勝手に曹公の処断を決めたら、秦朗がどう思うか?

 それに、同時に捕らえた夏侯淵将軍・徐晃将軍と兵一万、並びに彼らの子息の夏侯覇や徐(がい)も荊州軍を恨みに思い、決してあなた方に仕えようとはしますまい」


確かに賈詡の言うとおり、夏侯淵も徐晃も猛将、ぜひ配下に加えたいところだ。関羽は思い直し、


「……俺はどうすればいい?」


と問うた。賈詡は曹操をチラリと一瞥し、


「秦朗が戻って来るまで、ひとまず曹公の処分は保留でしょうな。その後の判断は秦朗に一任するのが妥当かと。曹公の心がけ次第で秦朗の決断は変わるでしょうけれど…」


(安心なさい。私の軍功に免じてもらって、関羽殿に閣下の命乞いをするくらいの慈悲は持っております)


と語っていた賈詡のセリフを思い出し、ハッと意図を悟った曹操は、


「わ、分かった!わしはもう天下獲りの野望をきっぱりと捨てた。これ以後は心を入れ替え、関羽将軍の天下統一事業に協力しよう!まずは大逆を犯した曹丕を諭して天下に謝罪させる。それができるのは父親のわしだけだ!だからわしも、部下たちの命も助けてくれ!」


その答えを聞いた関羽は、チラリと軍師の龐統を見た。龐統は黙ってコクリと頷いた。関羽は開き直って大笑し、


「ハハハ。今までのことは、閣下に反省を促すために戯れを申したにすぎません。我々には初めから閣下を害する気など毛頭ありませんので、ご心配なく」


と弁解した。その場に居合わせた者すべてがホッと緊張を解く。




――と、その時。


「死ね、曹操ッ!」


そう叫びながら弾丸のような早さで飛び出した黒い影。一瞬で間合いを詰めた影は、剣を構えたまま一直線に曹操に向かって鋭い突きを放つ。突然の出来事に、関羽も龐統も呆然として動けない。

曹操が殺られる!と誰もが思った瞬間、縄で縛られたままの夏侯淵が間に割って入り、曹操の盾となって立ち塞がった。心の臓を貫かれ崩れ落ちる夏侯淵の身体から、鮮血が噴き出す。


「と、殿…ご無事で……あとは頼…」


と息も絶え絶えに声を発すると、そのまま絶命した。


「夏侯淵!」


「くそっ、邪魔が入りやがった。だが次で終わりだ」


凶悪な刺客の登場に、目に恐怖の色を浮かべる曹操。


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