230.花関索爆誕!
作者、完全に悪ノリしてます。
(関索のつぶやき)
これから諸葛孔明とともに劉備がいる葭萌関に向かうということで、旅に必要な物資を調達するため、俺は長安の街へパシリに行かされた。
「面倒くせ。【ワープ】でひとっ飛びすりゃいいじゃんか」
なんでも、ゲームの仕様が1ターン1コマンド制のせいで、諸葛孔明は安易にコマンドを使うことを控えているらしい。
フン、くだらねぇ。これじゃもとの世界と変わんねえじゃん。
俺が異世界にやって来たのは面白え冒険がしたいからだ!ほら、異世界に行ったら大抵チート能力を授かるもんだろ?例えば呉範みたいに【風気術】スキルが付与されたら、武将を影で操って天下統一を狙ったり、サイコロの出る目を当てまくって丁半バクチで大儲けして、一生セレブな生活を送りたいんだよ、俺は!
なのに魔法もねぇ、特殊スキルも貰えねぇ、武力のステータスはちっとマシな88だが、このレベルなら俺より強い奴はザラにいる。チートと呼ぶには程遠い。
たしかにステータスを上げることは可能らしい。ただし、地道に経験値を積み上げて実戦で鍛えなければならないそうだ。馬鹿馬鹿しい、努力とか下積みとか古くせぇんだよ!俺はそういうのが嫌で異世界行きのオーディションに応募したってのに。
もっと気に入らねぇのは、先に転生しやがった関興って奴が、クソ真面目に鍛錬を重ね、経験値を積み上げてチート能力を獲得しやがったこと。おまえみたいなやりこみ系ドM野郎がいるから、楽して手っ取り早くステータス上げが認められないシステムになっちまったんだろーが!死ねッ。
おまけに関興のヤツ、手にしたチートで俺TUEEEとか美女をはべらしてハーレム三昧とか男の夢を叶えるんじゃなく、単なる数字にすぎない兵士や領民の暮らしを守りたいとか、(本当の家族でもないのに)関羽や関平が死なないように強くなりたいとか、まったく能力のムダ遣いとしか思えない。アイツみたいな偽善者を見てるとイラッと来るんだよな。キッショ!
阿呆か!そんなくだらねぇ使い道しか思いつかんのなら、俺におまえのチート能力を譲ってくれよ!
他人なんて俺の踏み台にするために存在するんだ。俺は他人の上前をハネて楽に生きたいんだよ!
「あ~あ。異世界なんか来るんじゃなかったなぁ……」
そうつぶやきながら大通りを歩いていると。
「あの…貴公はもしかして、花関索様ではありませんか?」
と後ろから声を掛けられた。ああ?誰だよ、花関索って?俺はこっちの世界に来たばっかりで、知り合いなんていねーぞ。
そう思って振り返ってみると、ピンク色の髪をしたギャルっぽい女の子が上目遣いで佇んでいた。
うはっ、可愛いじゃん!ばっちり俺のタイプ。
すると突然、宙空にスクリーンが出て来て、
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A.そうさ♪俺は花関索だけど、何の用だい?お嬢さん。
B.悪りぃが人違いだ。残念だったな。
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と選択肢が現れた。何だこりゃ?
キョロキョロと辺りを伺うと、時間が止まったかのように周りの人間全員が静止している。どうやらスクリーンが見えるのは俺だけのようだ。彼女と遊んでみたい俺は、迷わずAを選んだ。
「そうさ♪俺は花関索だけど、何の用だい?お嬢さん」
「嬉しい!やっと逢えた♡」
と喜んだ彼女は、いきなり俺に抱きついて来る。
「うおっ。ち、ちょっと待て。俺はあんたのことなんか知らんぞ!」
「あっ、ごめんなさい。ずっと探してた憧れの花関索様とようやく出逢えたので、あまりの嬉しさについ……。あたしの名前は董桃。この世界の主人公なの☆」
「主人公?あんたが?」
おかしいな。女神様の話では、ここはバーチャルリアリティ歴史シミュレーションゲーム三国志の世界で、女神様じしんが主人公となって諸葛孔明に扮しているとかなんとか。
「そ。ここは乙女ゲーム『恋の三国志~乙女の野望』の世界。
お中華武将のイケメン達とイチャラブしようってストーリーなんだけど、あたしの推しはなんと言っても花関索様♡ でも、全クリア特典の隠しキャラなので、なかなか見つけることができなかったの」
「乙女ゲーム、隠しキャラ……ん?ってことは、もしかしてあんたも日本からの転生者?」
「そうだけど…ええっ?!まさか花関索様もあたしと同じ日本生まれ?!やだ、これって絶対運命じゃん!」
そうして俺は董桃に誘われるままに茶屋にしけ込んだ。
-◇-
一戦交えた後の賢者タイム。
「俺、関索としてこの世界に転移したんだけどさ。せっかく異世界にやって来たのによォ、女神様はチート能力を授けてくれねぇし、正直失望してたんだ。
そんな時に桃に出会った。あんた、俺以上に俺のことに詳しそうだ。なぁ、聞いてもいいか?花関索って何者なんだ?」
「えー花関索様は花関索様よ!あたしはそのままのあなたが好き♡」
「よせよ、照れるじゃねーか。んなことより、あんたが知ってる花関索について教えてくれ」
「いいけど…花関索の伝説っていろんなバージョンがあるのよね。
あたしのお気に入りの花関索様は、あなたみたいにイケメンで女たらし。関羽ってヒゲ将軍の次男なんだけど、曹操が荊州に大侵攻した際に襲われて大怪我を負い、劉備らの逃避行からはぐれちゃったんだって。それで索員外や花岳らの武道の達人に弟子入りして、武芸と兵法を習得したの。彼ら恩人の名を一つずつ取り「花関索」と名乗って旅に出たあなたは、鮑三娘・王桃・王悦・花鬘ら四人の嫁に囲まれハーレム三昧。さすが絶倫クン♡ そしてたまたま出会った諸葛孔明に連れられ、劉備の入蜀に従軍して無双するわ☆」
「へぇ…」
俺は煙草をくゆらせながら、腕枕した董桃の話に耳を傾ける。ハーレム三昧に敵と戦って天下無双。これこそ俺の求めていた異世界チート武勇伝じゃん!
「乙女ゲームにおける花関索様は、全クリア特典の隠しキャラって言ったじゃない?あたしね、攻略対象人気ナンバーワンの曹沖は攻略に失敗しちゃったから、内心諦めてたの。でも、こうして念願の花関索様と出会えるなんて感激!関興のアドバイスに従って成功だったわ☆」
「あんた、関興を知ってるのか?」
「知ってるわ、アイツも転生者らしいもん。それがどうかしたの?」
「あいつと寝たのか?」
「やだぁ、あんな童貞丸出しのモブとなんてお断りよ。あたしは花関索様一筋♡」(←嘘やけど。今まで見知らぬ男と何人も寝たことは黙ってようっと☆)
と誤魔化しながら、董桃は逞しい俺の裸を指でなぞる。
「でも、関興って意外とモテるのよ。本人はニブいから全然気づいてないけど」
「ケッ。ムカつく野郎だな」
「あたしも実は嫌いじゃないのよね~関・興・の・こ・と」
「おい…」
「あら、花関索様ったら妬いちゃったぁ?うふふ…嘘よ☆」
膨らませた俺の頬をツンツンと突く董桃。
「あいつよォ、羨むくらいすげぇチート能力を持ってんだよ。それに天下取りに最も近い曹操の隠し子かも?しれないんだってさ。もし俺があいつだったら、天下統一だって狙えるだろうになぁ……」
と俺が自嘲すると、董桃はいたずらっぽい笑みを浮かべて、
「へぇー花関索様も天下統一を目指してるんだ?じゃあさ、あたしが手伝ってあげよっか」
「?」
「実はね、あたしって後漢の献帝の娘なの☆
皇太子は病弱で、弟は乳飲み児。いま献帝が亡くなったら、あたしが後継者になる可能性が高いんだって♪司馬懿が言ってたわ。
そしたら、あたしの旦那さんになる男も皇帝になる芽が……」
「マジか?!」
思いも寄らぬ董桃の告白を聞いた俺は、ふっと湧いた天下統一の夢にゴクリと唾を飲み込んだ。
すると再び宙空にスクリーンが出て来て、
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-決断の分かれ道-
A.このまま関索として、諸葛孔明のボディガードを続ける。
B.乙女ゲームの隠しキャラ:「花関索」にチェンジする。
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と選択肢が現れた。
決まってるじゃねーか!もちろんBだ。
Bボタンを押すと、「コマンド確認。花関索にアップデートします」と声が響き、俺の身体に激痛が走った。骨が砕かれ筋肉が引きちぎられるようだ。
「ぐおおぉーっ!やべえ、死ぬッ」
痛みに耐え続けると、やがて骨格が再構成され筋肉が増強し「アップデート成功。システムを再起動します」の文字とともに新たな俺のステータス:
統率力66,武力99+3,知力44,政治力44,魅力77
[アイテム] 黄龍槍
がスクリーンに浮かび上がる。武力+3とあるのはアイテム[黄龍槍]の効果だろう。SSランク武将の花関索が爆誕だ。
「すげぇ!俺、チートじゃん!」
一回り大きくなったターミ〇ーター並みのムキムキマッチョ体型。ちなみにアレの大きさも20センチ超えだ。俺の身体をうっとり眺める董桃にプロポーズし、
「桃、結婚しよう!俺の天下獲りに協力してくれ!」
「きゃあ、いきなり熱いキスなんて!…はぁん、すごい♡ 花関索様!!」
俺と董桃は再びお互いの身体を激しく求めあった。
花関索…脳筋のせいか、知力が低下しているぞ!董桃の【魅了】に騙されなきゃいいけど。




