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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第七部・勧君更尽編
249/271

229.投げられた賽

曹操がついに荊州乗っ取りを決行する!の巻。

五月十八日。

秦嶺山脈を越えて漢中に入った曹操は、早速荊州乗っ取りの奸計を実行に移す。


まずは漢水を下るための軍船の調達だ。曹操は、漢中の河港に係留されている荊州軍の軍船を奪うことを張遼に命じる。張遼は漢中駐在の鄧芝の元へ出向き、


「鄧芝殿、お役目ご苦労でござる」


「これは張遼将軍、お早いご帰還で!曹操閣下救出のご成功、なによりでした」


人の好い鄧芝はニコニコ笑顔で応対する。そしてキョロキョロと辺りを見回すと、


「おや、若様はご一緒じゃないのですか?」


「興か?じ、実は…曹公救出の後、長いこと行方を捜索中だった荀彧殿の噂を聞きつけてな。「オレは長安へ荀彧を探しに行くから、おまえ達は先に()()へ戻ってろ!」と言って、興は別行動を取ったんだ」


「ははぁ。無鉄砲な若様らしいというか…」


鄧芝は何の疑いもなく張遼の言い訳を信用する。おーい、オレは“()()”じゃなくて“()()”へ戻ってろと言ったんだけどな。


「そこで鄧芝殿に相談がある。次の一手を打つために、曹公は早急に雲長殿との協議を望まれておられる。興も「先に荊州へ帰ってろ」と言ったことだし、漢中に係留中の軍船を貸してくれないだろうか?」


「なるほど。それは構いませぬが…私は若様から漢中の内政を任された身。若様が戻って来るまでここを動くわけには参りません。軍船全体を指揮する司令艦長はどうなさるおつもりで?」


「ああ、司令艦長なら徐晃将軍が指揮を執れる。赤壁で水軍を率いた経験もあるからな」


まずいぞ。このまま軍船を貸し与えたら、曹操の奸計が成功してしまうじゃないか!


「それは心強い。ですが、もう一つ懸念がありまして…」


「な、なんだ?」


「水夫の件です。張遼将軍もご存じのとおり、変態イケメンの甘寧将軍子飼いの錦帆賊らは、若様を花郎(ファラン)に戴こうとするやっかいな性癖を持っておりまして…。「若様が一緒じゃなければ俺たちは働かんぞ!」とストライキを起こす可能性が高いのです」


おお、曹操の野望を阻む抵抗勢力が見つかった!まさかこんな所で変態モーホー軍団が役に立つとは!


「それは困ったな…給金をはずんでも駄目か?」


「どうでしょうか?若様か甘寧将軍でもなければ、彼らを動かすことは難しいかと」


「物は試しに、訊ねてみよう」


と言って、張遼は錦帆賊の説得に向かった。


「いいっすよ☆給金3倍先払いでくれるんなら♪」


漢中にいる錦帆賊のリーダーは張遼の申し出をあっさり快諾した。

この裏切り者~!もう金輪際、オレはおまえ達の花郎(ファラン)になってやらんからなっ!


こうして、漢中に係留する荊州軍の軍船(と言っても輸送船だけどね)二十隻の調達に成功した曹操は、己が奸計の成功を確信し、


「でかしたぞ、張遼。この功は一城を陥とすに値する!」


と褒めそやした。


「はっ、ありがたき幸せ。なれど俺は…」


張遼は苦悶の表情を浮かべ、


「俺は、ともに曹公の救出に尽力した興を裏切りたくありませぬ!あやつがいなければ、公もこうして漢中に戻ることは叶いませんでした」


と曹操に再考を促す。曹操は冷ややかな笑みを浮かべ、


「以前申したであろう?わしが荊州を乗っ取って、漢の献帝とわしを裏切った忌々しい曹丕を打倒してやれば、秦朗も本望に違いないのじゃ!」


と言い捨てる。張遼はなおも食い下がり、


「お願いでございます!このままでは俺が興に顔向けできませぬ。我が功を以て、なにとぞ荊州乗っ取りだけは……」


「ならぬ、もう賽は投げられたのじゃ。しつこいぞ!」


「俺は何度でもお諫めいたします!このような義理を欠いた真似は、きっと公に不幸をもたらしましょう」


「ええい、黙れ張遼!そなたは誰の家臣か?!わしか?それとも秦朗か?」


「……」


「ふん。勝手にせい!」


不機嫌そうに席を立つ曹操。

張遼は涙を流しながらその場に立ち尽くした。

翌朝。曹操は張遼を漢中に置き去りにしたまま、他の武将とともに軍船に乗って荊州へ出陣したのであった。



◇◆◇◆◇◆



その頃、許都では。

献帝を廃し、次に擁立した太子の劉康をも死に追いやって、得意の絶頂にあった曹丕であったが、己が帝位簒奪の切り札となるはずの皇女・董桃が見つからず、焦りを募らせていた。


「まだか?!董桃はまだ見つからんのか?」


「はっ。恐れながら…」


ぐずぐずしていると、荊州の秦朗と組んだ曹操が許都に攻め込んで来るかもしれない。いくら実父であろうと、皇帝たる曹丕に弓を引くのは明確な叛逆行為。それまでに董桃の娘婿となり、帝位を継いで政権を固めておく必要があるのだ。


先帝が崩御して喪に服すために、皇帝の座に一年の空位があることはなんら問題ない。しかし、皇帝を廃立して次の後継が決まらぬために長きにわたる空位期間が生じるのは、曹丕に人徳がない証明であり、不敬極まりない行為だと天下に(そし)られる。


現に献帝の廃位を批判する腐れ儒者どもは、「これ以上宮中での祭礼が滞れば、秋の農作物の豊饒に影響が及びかねませぬ」などと、これ見よがしに諫言を呈する。

かと言って、もう一度劉協(注:元の漢の献帝のこと)を担ぎ出せば、先の逆クーデターが場当たり的な失政だったと認めることになってしまう。いずれにしても曹丕の政治生命は終わりだ。


一応、曹丕は後漢の初代・光武帝の血を引く劉姓の者を探してみた。忖度マンと揶揄される劉曄も該当する。彼は光武帝の庶子である阜陵質王・劉延の子孫なのだ。(第九代沖帝の死で、嫡系の血筋は途絶えており、質帝や桓帝・霊帝は傍系から選出された)


「献帝陛下…いえ、劉協殿がご存命であるのに、私のような皇室とは縁遠かった劉姓の者が、殿下の国作りに何の役に立ちましょうか?」


劉曄は慇懃な辞退の文を送りつけ、その足で許都を逃げ出した。


(どうせ、禅譲の詔を発するために繋ぎの漢帝を立てる必要があるんでしょう?そんな使い捨ての傀儡に利用されるだけなんて、私は真っ平御免ですよ、べー!)



進退窮まった曹丕は、都で評判の占い師・魏諷を頼ることになる。煽動に長ける魏諷は、弁舌爽やかに述べた。


「現在の情勢を振り返ってみましょう。

 後漢朝が衰微し、天子の号令が天下に届かなくなって久しい状態が続き、そのため各地に起こった軍閥が相争い、兵革は絶え間なく、百姓は疲弊しました。そのような時に、曹公を継いだ殿下が献帝陛下…失礼、劉協を補佐して後漢朝を立て直し、四海を養うに至ったのは周知の事実です。天下の士大夫は名声を嘉して、殿下に万歳を唱えました」


「うむ」


「先帝の劉協は、無道を重ね宗廟と臣民を損ない、巨万の富を傾けて洛陽に遷都を志し、刑を増やして誅を厳しくし、官吏の統治を苛酷にし、賞罰は適切でなく、賦役は止まることを知らず、民の怨嗟の声は世を覆っておりました」


「そのとおりだ」


「殿下は民を憐れみ、これ以上不徳の劉協の治世が続けば、漢の社稷の存続は困難になると憂えたのではありませぬか?もう一刻の猶予もならぬ。(わし)が自ら世直しを起こさなければならぬ、と」


曹丕は身を乗り出して、


「魏諷よ、よくぞ我が意を悟ってくれた!」


「過分なお褒めの言葉、痛み入ります。

 さて、古より天下を治ろしめす皇帝の地位には、天命を受けた徳ある者が即いておりました。殿下も堯・舜・禹をご存じでしょう?さらに堯から舜、舜から禹への禅譲は、血縁関係はありませんでした」


「そんなことは知っておる。知ってはおるが……」


「では、何を躊躇されるのです?前漢の劉嬰から王莽への禅譲をご覧なさい!躊躇しておれば大事が失敗します。いま動かなければ殿下に禍が及ぶのです」


「……」


「新の王莽が簒奪に至った根拠は、九錫(きゅうしゃく)の授与と伝国の璽の所有、そして「王莽に位を譲らば天下泰平ならん」と記された讖緯の書。王莽が劉氏の皇女を娶ったとは聞いたこともございません。すなわち、皇女の董桃との婚姻など、殿下が践祚するための必要条件には当たらないのです。

 また当時は大真面目だったのでしょうが、今では讖緯の書は王莽が贋作したマッチポンプであったことが明らか。

 されば、正統な帝位の継承者を証拠立てる物は、九錫(きゅうしゃく)と伝国の璽のみとなりましょう。いま九錫(きゅうしゃく)を授けられたのは曹丕殿下。そして、伝国の璽を所有する御方もまた曹丕殿下。殿下が徳ある者であるからこそ、天命が殿下に降ったのでございます!

 繰り返します。躊躇しておれば大事が失敗します。いま動かなければ殿下に禍が及ぶのです!」


そうだ。九錫(きゅうしゃく)と伝国の璽は俺が有しておるのだ!俺が皇帝の座を奪って何が悪い?


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