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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第七部・勧君更尽編
248/271

228.焦り

ちょっと雑かも。

(舞台は整った。俺は天子にのみ許された特権の九錫(きゅうしゃく)を授かり、漢朝の皇統を継ぐ証たる伝国の璽もまた俺が預かっている。

 献帝は追放、太子は死んで、残った弟皇子は乳飲み児。ならば帝位を継ぐのは、消去法で献帝の皇女・桃しかおるまい。俺は桃と結婚し、晴れて漢朝の皇統を譲り受けるのだ!)


曹丕は高笑いした。

――が、その目算は早々に崩れた。許都中を探しても皇女の董桃が見つからないのだ。


「どこにいるんだ、桃?!俺の野望実現のために、是が非でも董桃の行方を探すのじゃ!」


曹丕は、論功行賞で新たに中領軍(近衛師団を率いる将)に任命した夏侯楙と配下の近衛兵にそう命じた。

実のところ、乙女ゲーム『恋@三』のヒロインちゃんこと董桃は、オレのおかげで目が覚めたらしく、“自分だけの本当のハッピーエンド” (←いや、オレに突っ込まないでくれ!汗)を目指すことにしたらしい。

っていうかオレ、あいつに何かアドバイスしたっけ?



(回想シーン)

――嫌よ!あたしは司馬懿や献帝に殺されたくない!ねぇ秦朗、お願いだから助けてよ!あたしだって、あいつらに騙された被害者なんだから……。


さすがに脅し過ぎたかと反省したオレは、「あんたが本当に助かりたいのなら、乙女ゲームのシナリオなんかに囚われず、自分の力で幸せになる道を探せばいいじゃないか!オレは協力は御免だけどな」と突き放した。ぐすっと泣き止んだ董桃は手で涙を拭きとると、


――あーあ。やっぱりただのモブは駄目駄目ね。乙女ゲーム『恋@三』の攻略対象なら、《大丈夫☆桃ちゃんのためなら僕が命を賭けるよ》とか《よく頑張ったね。あとは僕に任せて☆》とか思いっきり甘やかしてくれるのに。あんた、前世で絶対モテなかったでしょ?


反省撤回。やっぱりこいつはクソだ。


――でも秦朗、あんたのおかげで目が覚めたわ。ありがとね。あたし、自分だけの本当のハッピーエンドを目指してみる!


……そう言えばそんなアドバイスをした記憶があるような、ないような。

ま、そんなわけで曹丕と“決別”した董桃は、とっくの昔に許都を離れて“自分だけの本当のハッピーエンド”(どうせ隠しキャラのイケメンとイチャ♡ラブしたいだけなんだろう・苦笑)を見つける旅に出たらしい。

そりゃ、近衛兵が許都をいくら探しても、董桃が見つかるはずないよな。

そうとは知らない曹丕は、焦りが募るのであった。



◇◆◇◆◇◆



一方。

宛城に抛磚(ほうせん)引玉の罠を仕掛けて、荊州軍を待ち受ける司馬懿は。


献帝の号令で始まった荊州征伐の“聖戦”は、私に大きな利益をもたらすであろう。国庫から軍資金として月に一億銭を支給されたけれど、結果的にまだ半分も消費しておらぬ。


考えてみれば、昔から後漢王朝の資金運営は杜撰であった。

二世紀・順帝の永和年間、大規模な反乱を起こした羌族を鎮圧するために、十年の歳月を費やして掛かった金はなんと八十億銭。領民から取り立てる年間の租税が数十億銭とあるから、実に二年分。羌族の反乱は国の富を傾けて衰退を決定づけ、ついには後漢王朝を瓦解させる遠因となったと評される。だが実態は、軍資金の大半は、討伐を命じられて出陣したものの反乱を放置したままの悪徳な将軍どもの懐に入り、ニセの戦勝報告とともに賄賂が中央の宦官に贈られ、私腹を肥やす種と化していたのだ。


――そんなカラクリは史書にも公然と記される有名な話。知らぬは皇帝陛下ばかりなり。

同じ轍を献帝も踏もうとしておる。


フフッ、馬鹿め!ならばと私も、尊敬する御歴々に倣い三千万銭をネコババして懐に入れた。これは曹魏政権を内部から切り崩し、いずれ私が乗っ取るために必要な工作資金。


どうせ今度の荊州討伐だって、秦朗憎しの献帝が言い出した無意味な戦いなのだ。強力な新兵器を有する荊州軍と真正面から争うのは愚策。宛に向けて出陣はしたものの、我が司隷の軍は兵力の温存を図りたい。

このまま荊州軍との睨み合いを続けて戦いを長引かせれば、必然的に戦費がかさみ、献帝は漢の国庫から追加の資金を出さざるを得ない。戦争の長期化は、先例に倣って私の懐が潤うカラクリなのだ。


となれば、最適解はただ一つ。

我が軍はひたすら待機の一方で、戦果を期待する献帝の督促に応じるため、曹操を破って意気軒高の猛将・馬超を焚きつけて、荊州軍と激突させればよい。いわゆる“二虎競食の計”である。


あわよくば、関羽と馬超を共倒れにさせて両者を屠ってくれよう!――そう思っていたのに。


返り討ちに遭った馬超の涼州軍を尻目に、関羽の荊州軍は無傷のまま。

その上、早馬に乗った伝令から信じがたい情報が伝えられた。


「申し上げます!秦朗が陳倉に籠もる曹操の救出に成功した模様」


馬鹿な?!

だいたい、秦朗は新野で馬超と戦っていたはずだ。(←いや、あれはオレの影武者の曹林だぞ♪)

武関や潼関はおろか宛城すら破られておらぬのに、荊州から三千里も離れた陳倉へどうやって到達できる?奴は時空を超えた魔術師か?神出鬼没にもほどがある。


「まさか…漢水を遡って漢中を陥とし、さらに秦嶺山脈を越えたのか?!」


くそっ、秦朗め!我が抛磚(ほうせん)引玉の奸計を見破ったとでも?

まさか奴も正史『三国志』に記される史実を知って、私の罠の裏をかいたとでも言うのだろうか?

――いや、あり得ない。

そんな作戦を用いて陳倉へたどり着いた戦術など、歴史上あった(ため)しがないのだ。ならば奴のオリジナルと言うのか?それなら秦朗は、私など及びもつかぬ軍略家という結論になってしまうではないか?!


「ぐぬぬ……わしは認めぬ!」


歯軋りをして悔しがる私の耳に、北方から第二報の早馬が届いた。


「申し上げます。秦朗が長安を陥落させた、と」


なんだと?!

馬超不在の隙を突いたとはいえ長安を陥とすとなれば、敵の軍勢は少なく見積もって二万、いや三万か?(←ブブー 大はずれ♪)

まずい、まずい。

私は焦った。このままでは宛城に駐屯する我が軍が、長安と新野の荊州軍に挟み撃ちにあってしまう!


「申し上げます。新野の荊州軍が北に向かって動き出しました!」


物見の斥候が知らせて来た。悪い予感は立て続けに当たる物だ。やはりそう来たか。


「迎撃しますか?」

「いや、迂闊には動けぬ。しばらくは様子見に徹しよう。その間に長安の情勢を探って参れ」

「ははっ!」


ところが三日も過ぎぬ間に、北上していた荊州軍は急に反転して、猛スピードで南へ向けて撤退して行った。


?? 分からぬ。どういうわけだ?

今さら追撃しても、もう追いつけない。しばらくして、長安へ放った斥候が詳報を仕入れて戻って来た。報せによると、荊州軍らしき藍色の軍旗が長安の城になびいているものの、秦朗はすでに長安から去り、二万もの軍隊は影も形も見あたらず、ただ杜襲という小役人が領民を募り、秦嶺を越えて南へ(うつ)す算段をしているのだとか。

私はハッと気づいた。


「くそっ、秦朗に謀られた!」


荊州軍が長安を陥落させたというのは偽報。長安と新野の荊州軍に挟み撃ちなど幻想だったのだ。虚報に怯えて、敵軍の撤退を追撃して大破するチャンスをみすみす逃してしまうとは。


「こたびの戦いは完敗だ……」


口惜しいがそれは甘んじて認めよう。だが、転んでも只では起きぬのが我が奸計の真骨頂。なんとしても秦朗めに一矢報いてやる。

そんな時、東から早馬の第三報が届いた。


「申し上げます!許都でクーデター発生!曹丕が献帝を廃位に追い込み、太子の劉康を擁立した模様」


馬鹿な?!(←これで三度目だ)

曹操救出の報せに怯えた臆病者の献帝が曹丕の排除に動いたものの、逆に曹丕に機先を制され廃された、ということか。


「献帝の身柄は?」

「陛下は辛くも襲撃を免れ、司馬懿様の所領の洛陽へ逃亡中とのこと」

「不幸中の幸いか…」


私は安堵の息を漏らした。なんとか(ギョク)を我が掌中に収めることができそうなのは僥倖だ。

となれば、このまま宛城に留まって荊州なんぞに(かか)ずらってる暇などない。


「全軍、洛陽に撤収だ!すぐに献帝の身を保護する」

「ははっ」

「それと、漢中に向かって逃走中の曹操閣下へ、盟約の(ふみ)を出せ!」


――天子様の廃立に及んだ逆賊の曹丕を討つために共闘しましょう。幸い、天子様は私が洛陽にて保護しており、軍資金として三千万銭を用意できます。我が軍十万が宛城で荊州軍の主力と睨み合っておる今、閣下が漢水を下って襄陽そして唐県を衝けば、荊州全土は閣下の掌中。それを元手に我が軍とともに逆賊の曹丕を挟撃すれば、許都の奪還も叶いましょう。


秘書官の蒋済が首を傾げて、


「こんな虫のいい話に乗ってくれますかね?」


「釣れるさ。欲深く奸智に長けた曹操だぞ。私が提案するまでもなく、秦朗が不在の間に荊州を襲おうと謀らんでおるに違いない。見てろ、秦朗め!」


私は自信満々に答え、ほくそ笑んだ。


>そんなカラクリは史書にも公然と記される有名な話


范曄の『後漢書』に見える西羌伝の次の記事が有名ですね。

――永和(年間)に羌叛きてより是の歳に至るまで、十余年の間に費用は八十余億。諸将は多く牢稟[軍資金]を断盗して私かに自ら潤入し、皆な珍宝を以て(帝の)左右に貨賂[賄賂]し、上下放縦して軍事を恤えず。


司馬懿の中抜き(三千万銭)なんてかわいいもんだ。


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