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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第七部・勧君更尽編
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226.政変

一方、宛で対峙する司馬懿は…と行きたいところですが、場面は一旦都にいる献帝と曹丕の対立を挟みます。同時進行が多すぎて、どう話をつなげるのがスムーズか、作者自身も頭を悩ませています。

時は同じく五月上旬、都では。


曹操を追い落とし、久々に皇帝権力を奪い返して我が世の春を謳歌していた後漢の献帝のもとに、西方から早馬が到着する。陳倉で籠城に追い込まれていた曹操が、憎き秦朗の手により救出されたというのだ。献帝は手にしていた箸をポロッと落として身を震わせ、


「何故じゃ何故じゃ?!曹丕、そなたは秦朗と曹操の仲は険悪だから、よもや手を結ぶはずがあるまいと申したではないか!復活した曹操が都に戻って来たら、影でヤツの失脚に手を貸した朕は……ひいいっ!こ、殺されるッ」


とパニックに陥った。発言こそ血気盛んで勇ましいが、その実、極度の臆病者であることは周知の事実であった。


(チッ。せっかく父上を逆賊に仕立てて孤立させたのに、あんたが荊州の秦朗まで目の敵にして討伐の対象にしたもんだから、敵の敵は味方、両者が手を組んでしまったんだろーが)


曹丕は内心舌打ちするも、こうなっては致し方ない。


「司馬懿と相談して、善後策を考えなければなりませんな」


「そうじゃ!あの政変は、すべて曹丕と司馬懿が勝手に起こしたこと。ち、朕はそなた達の口車に乗せられただけじゃ。朕は何も知らんかった!善いな?」


「――陛下が逆賊の曹操に弑されぬよう、全力を尽くすつもりですが、なにぶん若輩者の私だけでは如何ともし難く……」


「ひいいぃっ!は…早う、なんとかしろ!曹操の怒りを宥めるのじゃ!」


献帝は怯えて大極殿を後にする。その足で、後宮で軟禁している皇后の曹麗のもとに向かった。


「こ、皇后殿!朕がそなたの父の曹公に対して毛ほども邪心を抱いておらぬことは、そなたもよく知っておろう?曹公を追い落とすたくらみを抱いた首謀者は曹丕や司馬懿であって、無力な朕は奴らに迫られやむを得ず詔を出して、漢の“錦の御旗”を貸し与えたにすぎぬのだ。なっ?優しい皇后殿もそう思うであろう?」


と哀願する。


“無力な朕”ね…

そうやって自虐するくらいなら、初めから傀儡に甘んじて権力闘争から距離を置けばいいのに。

曹麗は心底呆れた。


この男は天下を治める器に非ず。

皇帝である己の権力を過信して、董卓以来こうやって権臣打倒の密勅を乱発することが、天下が統一されぬ最大の阻害要因となっていることに気づこうとしない。


それに、この男に猫なで声で「優しい皇后」などと評されたら反吐が出る。献帝が口にする“優しさ”とは、


《たとえ曹操が逆賊として討伐されたとしても、そなたを連座で巻き込み誅殺しようなど微塵も考えておらぬ。朕の()()()に感涙するがよい》


と語ったセリフから容易に察せられる。どうせ己の手を汚さずとも臣下が朕の意を忖度して手を下すだろう。そんな酷い結末を聞いて泣き崩れ、「ああ、なんということを!自分はそんなつもりはなかったのに…許しておくれ」と涙を流すことが、この男の言う“()()()”なのだ。

なれど、曲りなりにもこの男は皇帝陛下。悪し様に罵って不忠の(そし)りを受けるわけにもいかない。が、あの政変をたくらんだ責任は自らの手で処してもらわねばならぬ。


「……父は、自分を追い落とすたくらみを抱いた首謀者が、兄ではなくやはり陛下ではないかと疑っておりましょう。(わらわ)に父への弁明を託すつもりなら、陛下にはそれなりの「誠意」を見せる覚悟が必要ではありませぬか?」


「誠意…とな?おお、もちろんだ!朕の覚悟を見てくれ」


献帝は侍中の張温・黄奎(こうけい)と中領軍(近衛師団を率いる将)の金禕を集め、曹丕に曹操失脚の全責任を負わせて誅殺する計画を立てた。



う~ん。曹麗が語った「誠意」とは感覚がズレてる。やはり献帝はサイコパスじゃないか?

ま、それはさておき、オレが不思議なのは、この時献帝が知謀の塊と言うべき司馬懿を呼ばなかったことだ。


理由は二つ考えられる。一つは、司馬懿はオレたち荊州軍を迎え撃つために宛に外征しており、時間的にすぐのお召しに応じられなかったこと。もう一つは、(オレはこちらの方が大きな原因だと思うが)献帝は司馬懿を心から信用していないのではないか、ということだ。司馬懿を丞相府から引き抜いて自らの参謀に抜擢したとは言え、裏で曹丕と通じている可能性を疑っているのだろう。それよりは、謀略や戦闘能力に欠けるものの忠誠度が高い側近の侍中を頼った方がマシだ、と判断したのかもしれない。そのことが、こたびの政変が失敗に終わる致命的なミスとなるとも知らずに。


献帝は張温・黄奎(こうけい)と金禕に向かって、


「卿らは、復活した曹操と曹丕が争えばどちらが勝つと思う?父の築いた物を引き継いだにすぎぬ無能の曹丕ごときが、荊州の応援を得た曹操に敵うはずもなかろう。ならば曹丕を悪者にして切り捨てるにしくはない。

 いま奴が有する軍の大半は宛へ外征しており、曹丕の身辺に侍する兵はごくわずか。であれば、この機に奴を弑殺することは容易(たやす)かろう。

 金禕、そなたは近衛兵に命じて秘かに兵馬の臨戦態勢を整えよ。

 明朝、朕は曹丕を召喚する。奴が宮中に参内したところで、宿衛の騎馬兵と左右の近衛軍がとり囲めば、曹丕なぞひと溜まりもあるまい」


と策を弄した。侍中の張温が懸念を示し、


「恐れながら陛下。通常のご下問では、曹丕は陰謀を警戒し、病気と称して陛下のお召しには応じぬやもしれません」


「では、どうすれば良かろう?」


「曹丕が望む物を与えればよいのです。曹丕は狡猾ではあっても大略を知らぬ凡庸の才。(おご)(たか)ぶり、いまや簒奪の野望を隠そうともしておりません。速やかに使者を遣わし美辞麗句をもって九錫(きゅうしゃく)を授けんと詔せば、曹丕がのこのこと大極殿に参内するは必定」


献帝は渋って、


「しかし九錫(きゅうしゃく)ともなると…朕自ら、曹丕ごときに朕と等しい権威を認めるのは、なんとも癪に障る」


「ご辛抱を。曹丕の誘き出しが成功しなければ、せっかく陛下がお立てになった大計も叶いますまい。

 故事に、奪わんとすればまずは与えよと申します。どうせ曹丕は誅する身、形式だけの九錫(きゅうしゃく)を与えることに何の障りがございましょうや?」


「うーむ、張温の申すとおりかもしれぬ。致し方あるまい。

 では、朕が九錫(きゅうしゃく)の下命をもって曹丕を召喚する。張温・黄奎(こうけい)の両卿は、奴の警戒を解くために朱雀門で出迎えるのじゃ。そうして曹丕が参内したところで門を閉じ、宿衛の騎馬兵と左右の近衛軍が奴をとり囲んで捕縛する。詔書を下して曹丕の護衛を解散させれば、もはや反撃もままならぬだろう。曹丕を捕らえてしまえば、奴ひとりの身に罪を着せ、刑に処すこともわけ無い。これで如何か?」


「「「見事な計にございます!」」」


侍中の張温・黄奎(こうけい)、それに中領軍の金禕は平伏した。献帝は満足そうに頷き、


「皆の者、ひたすらに秘密裏に事を運ぶように気をつけて欲しい。決して曹丕の手の者に気取られてはならぬぞ!」


「「御意!」」


だが、朱雀門で曹丕のお迎え役を命じられた黄奎(こうけい)は我が身に不安を感じ、個人的に親しい近衛第四師団長の夏侯楙に身辺の警護を依頼した。ところが夏侯楙は、曹丕のクラスメートなだけでなく、かつて曹操に廃嫡されたことを恨みに思っていた。黄奎(こうけい)の申し出に応じるフリをして計画の全貌を聞き出したあげく、秘かに人を遣って曹丕に陰謀を密告した。


驚いた曹丕は、夜中であったが休暇中の州兵を総動員してすぐさま戦闘態勢を取らせ、逆に献帝を廃立するために出陣し、夏侯楙が率いる近衛第四師団と協力して、明け方には献帝の坐す大極殿を包囲した。


機先を制された献帝は、もはや対抗するすべがない。朱雀門外にて金禕が奮迅の働きで時間を稼ぐ間に宮殿を脱出すると、身一つで司馬懿の所領である洛陽に逃れた。



献帝の図った政変は失敗に終わった。

金禕とその配下の兵が全員討死にあったほか、張温・黄奎(こうけい)の両名は侍中を解任の上、楽浪郡に流罪となった。


うーむ。怒涛の展開。皆さんが面白いと思ってもらえるかどうか知らんけど。

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