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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第七部・勧君更尽編
245/271

225.撤退戦

王桃・王悦の盗賊団が隠し持っていたお宝の中から、オレはアイテム[李広の弓]を見つけ出した。武力+4の上に、スキル【一箭双雕】が得られるらしい。弩弓術の能力がAランクのオレにぴったりのアイテム。歩兵の才に恵まれないオレにとっては、いくら武力+5が加算されようと[青釭の剣]は宝の持ち腐れなんだよね。


スキル【一箭双雕】とは、一本の矢で二羽の鷲を射落とす、つまり一石二鳥のことだ。すごくない?オレは喜び勇んで[李広の弓]を装着した。さて、[青釭の剣]は誰に下賜しようかな?


◇◆◇◆◇◆


時間を遡って、五月上旬。


漢中そして長安を攻略したオレが訳の分からんハーレム展開に巻き込まれている間、まじめに馬超の撃退に成功した新野の城では、甘寧が暇を持て余していた。


「チビちゃん…じゃねぇ、若がいないとつまんねぇな」


「だったら少しは俺の仕事を手伝って下さいよ!」


捕虜にした涼州兵のうち、帰順して荊州軍に組み入れた兵の調練が終わり、上半身裸になって汗を拭う鄧艾が、怠惰な甘寧に不平を言う。


「なぁ、牛飼い野郎。おまえ意外といい身体してんな。俺と一発ヤらねぇか?」


「あんた、娘婿にまで手を出そうとするんですか?最低のゲス野郎ですね」


甘寧の娘・華を嫁にする鄧艾は、げんなりした顔で吐き捨てる。


「おまえは心配じゃねぇのかよ?!俺たち、第198話以来しばらくぶりの登場なんだぞ!その間、若が張遼や徐蓋の野郎と親密な時間を過ごしたかと思うと、俺は心配で心配で……」


「心配?若なら曹操の救出に成功し、余勢を駈って長安をも陥としたって報せが届いたじゃないですか!たった三千の兵しか率いていないのに、あいかわらず魔法みたいな手口でどうやって陥としたのか…さっぱり分からん」


「違げーよ!俺は若の軍功を微塵も疑っちゃいねぇ。

 そうじゃなくて俺の心配は、張遼や徐蓋の若造が俺たちの愛しい花郎(ファラン)の魅力に気づいちまうかもってことだ。俺だってまだキッスすら交わしてねぇのに、ぽっと出のアイツらに先を越されてしまったら、おまえは悔しくないのかよ?」


「ハァ…脳みそが腐ってる外道の思考回路はまったく理解できませんね」


と鄧艾はかぶりを振る。


「あのですね、今この新野にも姿かたちは若そっくりな無能…ゲフンゲフン、曹林坊ちゃまがおられます。あんた、曹林様とヤリたいと思いますか?」


「馬鹿言え!誰があんなモブ顔。俺のち〇ぽはピクリとも反応しねーわ!」


「でしょうね。ふだんの若だって所詮モブ。いくら傍にいたって、付き合いが短い張遼将軍や徐蓋は若の魅力に気づかず、今のセリフと同じ感想しか抱かないと思いますよ」


「そう…なのか?」


「たぶんね。せいぜい、張遼将軍が自分の娘を嫁にしないか?としつこく勧めるくらいじゃないですか」


さすが知力90の鄧艾。おまえの読みは正しいぞ。


「駄目だ、駄目だ!俺は絶対認めんぞ!」


「まぁ俺も正直なところ、若には鴻杏さんと結ばれて欲しいんですよねぇ…」


とつぶやく鄧艾。


「そんなことより喫緊の課題は、いま現在、新野に駐屯する我々はこの先どう動くべきか?ってことです」


新野に展開する荊州軍は、帰順した龐徳や涼州兵を含めて三万。

対して宛に罠を張って待ち受ける敵軍は十万超。三倍以上の兵力差である。

策もないまま撤退にうつれば、数の力に物を言わせて敵に追撃され、大きな損害を出すのは火を見るより明らかだ。


かと言って、いつまでも新野でじっと敵と睨み合いを続けるのも上策とは言えない。出兵して守りが手薄になった唐県を目指して、豫州から曹丕の軍勢が攻め込むやもしれぬ。


「あーもう!こんな時に若が居たら、名案を示してくれるだろうに」


「なに小難しく考えてるんだよ?おまえが新野を敵に獲られたくないと欲張るから、名案が浮かばないだけだろーが!」


弱気に悩む鄧艾をせせら笑う甘寧。


「当たり前じゃないですか!せっかく馬超の攻撃から守り抜いた新野を手放すなんて……」


鄧艾の反論に、甘寧はハァ…と溜め息をついて、


「これだから目先の利益に囚われるみみっちい牛飼い野郎はケチくせぇんだ。

 損切りだよ、損切り。

 だいたい、北方から攻めて来る敵に対して荊州防衛の要となっているのは、淮河~漢水のラインだ。つまり、唐県と樊城・襄陽だな。この二点を難攻不落の堅城に仕上げて守っておれば、荊州本土が敵に蹂躙されることはない。曹仁がいた頃だって、新野は俺たちの領土じゃなかっただろーが!捨てたって惜しくはない」


「そんな暴論を…」


「暴論か?チビちゃん…じゃねぇ、若だってたぶん俺の構想に賛同してくれると思うぞ。

 先日、若が長安を陥としただろ?まあ見てなって!長安に兵を割いてまで守り通すなんて真似、若は絶対にしないからさ」


「あんたなんかにどうして若の戦略が分かるんですか!?」


「分かるさ。今の荊州軍の実力を冷静に考えてみろ、兵站の補給路が延びきった長安を守り続けるのは、我が軍の統治能力の限界をはるかに超えてるじゃねーか。急速な領土の拡張は百害あって一利なし。賢い若のことだ、きっと住民と財産だけをよそに(うつ)して、長安の城はもぬけの殻にするつもりだろう」


ふふん。甘寧の奴、オレの意図がよく分かってるじゃないか。

鄧艾は納得できないのか、


「じゃあ、若はなぜ長安を陥としたんです?」


と問う。甘寧は自信満々に、


「そりゃあ、天下に宣言するためさ!

 長安はかつての都。丞相だった曹操の救出にとどまらず、旧都を掌中に収めるということは、我が荊州軍の志が最終的には天下の掌握にあると知らしめるに等しいからな!

 そうかぁ…若にもやっと、皇帝になろうという自覚が芽生えたんだな」


と感慨深げに頷く。


~~~!!

な、何言ってるんだよ?オレは単に馬超にギャフンと言わせてやろうとイタズラ心が湧いただけなんだけど。


「なるほど、若の行動にそういう深謀遠慮があったとは!

 自分には軍事の才能があると自惚れていましたが、まだまだ若の知謀の足元にも及びませんね。お恥ずかしい限りです」


いや鄧艾、違うから!二人とも、オレを買いかぶりすぎだぞ!


「悔しいですが、あなたの論に一理あると認めましょう。では仮に、あなたの言うとおり新野を捨てるとして、現在敵と対峙している我々はどうやったら安全に撤退できるんですか?」


甘寧はヘヘンと鼻の頭をこすって得意げに、


「こういう時はな、押して押して押しまくるんだよ!」


鄧艾は呆れて、


「馬鹿ですか、あんたは!若が曹操の救出に成功した以上、すでに北伐の陽動作戦は必要なくなったんです。今さら宛を目指して進軍するなんて、どういうつもりですか?言ってることが矛盾してますよ!?」


「頭固ぇなぁ、牛飼い野郎は。なにも馬鹿正直に宛を攻め陥とそうと言ってるわけじゃねぇ。

 いいか?本隊は宛に進軍するフリをして、足の遅い輜重隊を先に逃がすんだよ。そうして敵が追いつけない距離まで離れたところで、進軍していた本隊も回れ右して全速力で荊州へ退却する」


「……」


「それに、だ。せっかく若が長安を陥としてくれたんだ。形の上では、長安と新野の南北から宛を“挟撃”できる態勢が整ったことになる。この機会を生かさない手はない」


「どういう意味です?」


「敵は挟み撃ちを恐れて、迂闊に動けまい。我が軍の進撃に対してしばらく様子見に徹するはず。

 なんなら故郷に帰りたがっている捕虜の涼州兵をダミーとして、宛に向かって解き放ってやれ。敵さんは意図が読めず、我が軍が釣り野伏せりを狙っているのかと警戒を深めて、さらに時間稼ぎできるはずだ」


甘寧のみごとな策に、鄧艾はトンガリ目をパチパチと(まばた)きさせて、


「……ただの色欲狂いの変態かと思っていましたが、さすが百戦錬磨の将軍ですね。確かにあなたの作戦なら安全に撤退できそうです。お見それしました」


「フフン、見直したか?だったら俺と一発…」


「ヤるわけないでしょ!やっぱりあんた、最低のゲス野郎だ!」


と白い目で甘寧を睨みつける鄧艾であった。


ちなみに参謀の劉靖と龐徳は、涼州軍から回収した大量の馬を船に積んで先に荊州に帰還しているという設定です。

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