223.美人姉妹
その日の夕刻。
オレ達は曹魏の将校・段翼ら砦を守る兵を囲み、にぎやかな宴会を催した。あの後、段翼は死んだ羌族の首魁・廉康の根城に攻め込んで、羌族の残党を蹴散らし、かつて略奪された金やら食糧やらを全部取り返して、荷車に満載して蘆塘の砦に戻って来たのだ。
「その時、奴らに捕らわれていた美女を救ったんですよ」
桃・悦と名乗る美女二人を両手に侍らし、鼻の下を伸ばす段翼。
「それは大変なご活躍でしたね」
「君と手を組んでから僕にもツキが廻って来たようだ。ささ、二人とも関興君にご挨拶を」
「初めまして、桃でありんす。こっちは妹の悦」
「はあ、ご丁寧にどうも。関興です。お二人は羌族に誘拐されたと聞きましたが、どちらのご出身で?」
「あたし達は長安で商いを営む鮑凱と申す者の娘。長安が戦場となる争いを避け、天水に疎開する道中で羌族の廉康一派に襲われ、捕らわれていたところを段翼様に救われ、感謝しておりんす」
「なんと!お二人は長安でも指折りの富豪である鮑凱殿の娘さん…!」
と段翼は驚く。
ん?鮑凱?どこかで聞いたような……ああ、五斗米道の兵糧を買い叩いて大儲けを企んでいた転売ヤーか。でもおかしいな、一か月前に鮑凱と出会った時は全然困ったそぶりもなかったし、娘が誘拐されたとか一言も言ってなかったが…。
「そ、それは…あたし達が拐わかされたのは、ほんの一週間前のことでありんす。父の鮑凱が知らなくても当たり前のこと」
なるほど。でもあの時鮑凱は、荊州刺史の息子だと明かしたオレに、しつこく一人娘を宛てがって来たんだよな。妾でもいいから娶ってくれって。もちろん断ったけど。
「え、えっと――恥ずかしい話、両親が離婚して、あたし達は天水に住む母方に引きとられたでありんす。今は母方の姓の王桃・王悦と名乗っておりんす。その後、鮑凱が後妻との間にもうけた娘をおま…関興様に娶せようとしたんじゃないかと…」
ふ~ん。なら、どうしてあんた達は最初に鮑凱の名を出したんだ?少しでも見栄を張りたいという女心なら分からんでもないが、何か引っかかるんだよなぁ。
「ところであなた方が羌族に捕まった時、どうして今のように鮑凱殿の名前を出さなかったのですか?鮑凱殿といえば馬超の有力な後援者。ご存じのとおり、馬超と羌族は同盟を結んでおります。そのことを告げれば、きっとあなた方はすぐに羌族の首魁・廉康から解放されて、辛い目に遭わずに済んだでしょうに」
「そ、そんな難しい事情を言われても…女の身であるあたし達は、ただただ怖くて震えるばかりで思いつきもしなかった…」
と言って、さめざめと泣く。段翼が慌てて二人を慰めて、
「いい加減にして下さい、関興君!二人の救出を無事成功させたのは僕なんです。僕が構わないって言ってるのに、今さら君が過去を蒸し返そうとしたって意味はないでしょう?!
明日僕は天水の城に行って、二人を待つ母殿の元にお届けしようと思ってるんです。その時、あわよくば母殿の前で二人に求婚しようかと…」
とのろける段翼。
「まあ、嬉しいわぁ!」
「危ないところを助けていただいた凛々しい段翼様に、悦も惚れておりんす♡」
と逞しい段翼の胸にしな垂れる王桃と王悦。
「はぁ、それはおめでたい。上手く行くといいですね」
なんだか白けてそう述べたオレは、段翼に暇を告げた。去り際、王悦がオレだけに聞こえるような小声で、
「死ね!モブのくせにボク達の邪魔をするなよ!」
とつぶやいた。なんだ、こいつら玉の輿狙いなのか?しかも裏表のありそうな性悪なボクっ娘って。まぁ、爽やか好青年の段翼がこいつらに手玉に取られようと、オレには関係ないもんな。
オレが後ろを振り返ったままなのを名残惜しんでいると勘違いしたのか、様子を見ていた胡蝶が、
「おい。きさまもあのような女御が好みなのか?」
とオレに訊ねてきた。
「え?あのような女御って?」
「その…胸が膨よかで男に媚びを売るような美人が、さ」
すると胡蝶の幼なじみである蝉弗(=オレが任命した臆病な鮮卑の斥候)が得意げに、
「ははぁ、大将にそれとなく探りを入れてるわけですか?
確かにお嬢は美人ですが、男に愛嬌振りまくのが下手くそで、今だって秘かに慕う大将を“きさま”なんて呼んで照れ隠しするし、もう少し素直になった方がいいとアッシは思うっすけどね。ただでさえお嬢は戦闘に特化した仕様なもんで、胸なんか発育不良で全然女らしく…ぐほぁっ!」
胡蝶に顔面をグーで殴られ、鼻血を出して転げ回る蝉弗。何やってんだ?仲良すぎだろ。
「で、どうなんだ?そ、その…か、関興どの」
「うっわ。お嬢様に関興殿とか呼ばれるなんて、ゾワッてする!今までどおり“きさま”呼びでいいよ。オレはべつに王桃・王悦が好みというわけじゃなくて、気になる点があるというか……なあ蝉弗、おまえに頼みがある」
「えーアッシに?うんうん。分かりました、頼れるこの蝉弗めにお任せを!」
オレと蝉弗のひそひそ話を、恨めしそうに眺める胡蝶であった。
-◇-
(胡蝶の視点)
その夜。
関興の眠る野営のゲル(テント)に忍び込む人影があった――私だ。
慕容部の首魁の娘で剣の腕に覚えがあった私は、幼い頃から自分より強い男に嫁ぐと心に決めていた。
自慢じゃないが、私は慕容部の中でも器量良しだし、弟の木延よりも統率者に向いてる才能があると自負している。その辺のパッとしない男との結婚なんて、こっちの方から願い下げだ。
慕容部で自分より強いと思うのは、父上の他にうんと年上で既婚者の蛾洵くらいだし、よその部族のなよっとした御曹司から婚約の申し出があった時は、決闘で負かして退けてやった。
それが――見た目は弱っちいが、勇敢で賢く、父上や蛾洵も認める腕の持ち主の関興が現れた。
いや、私自身はアイツが強いと認めたわけではないが……どうせ勝負を申し込んだところで、「か弱い女性を痛めつける趣味はない」と断られるに決まっている。
ただ、羌族の首魁・廉康に攫われた私を救出してくれたことは事実だし、敵を壊滅してこれから先の道中の安全を確保してくれたことも事実だ。
それに荊州刺史・関羽殿の次男という貴種でもある。
幼なじみの蝉弗に指摘されるまでもなく、よく考えてみれば、私の夫にふさわしい相手なのではないか?
今宵の宴席で、王桃・王悦という美人姉妹に気がありそうなそぶりだった関興を見て、私はさらに対抗心がかき立てられた。幸い、イケメンの段翼に狙いを定めている二姉妹は、冴えない関興に見向きもしない様子だったが、アイツの素性(荊州刺史の御曹司)を知れば、すぐに乗り換えて誘惑する気だ。美人なうえにあの豊満な肉体なら、ムッツリの関興だってイチコロだろう。
アイツを取られたくない!
そう思った私は、秘かに夜這いをかけてみた。
あどけない顔で、すーっ、すーっと寝息を立てて眠る関興。
気づかれないように隣に忍び込み、ヤツの袴の紐を解いて褌を脱がす。フニャッとしたイチモツが現れた。
「コレを私のアソコに入れれば子種が得られるんだよな?」
生娘の私は、そう自問しながら関興のイチモツを手で握り、自分の中へ迎え入れようとした。
が、フニャッと萎えたままの肉棒が潤ってもいない秘穴に刺さるはずもない。
「えーと。アソコを硬くするには、殿方に心地よい刺激を与えてやる必要があります。だっけ?」
私は関興のイチモツを胸の谷間に挟み込んだ。




