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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第七部・勧君更尽編
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221.関索の召喚

無事に関索役のオーディションを終え、誠実そうなイケメンのスカウトに成功した女神孔明は、転移システムを使って彼をこちらのVR世界に召喚した。


「おお、すげぇ!本当に転移しちまった!」


と驚く、関索役の新人。


「ようこそ、バーチャルリアリティ三国志の世界へ。今日からあなたは関索として生きてもらうわ。

関索の初期ステータスは、統率力73,武力88,知力54,政治力45,魅力72ってところ。鍛錬してステータスを上げることもできるわよ。頑張ってね」


(うわっ、面倒くせぇ。いちいち鍛錬なんかできるか!数字をちょいちょいっと(いじ)れるパワーアップキットぐらい存在しねーのかよ?!)


「何か言った?」


「いや、べつに。まあまあの数字かな、俺も頑張って鍛えようっと。

 なあ、さっそく今から親父の関羽に挨拶しに行く場面を再現するのか?」


関索のやる気に女神孔明は苦笑して、


「それはもうちょっと後で、ね。

 実のところ、この世界は私たちが知ってる三国志あるいは三国志演義の世界とは、かなりズレが生じてるわ。曹操は失脚し、後漢の献帝が復活している。ただし、背後で献帝を操っているのは司馬懿ね。彼はどうやら転移者の呉範を殺して、正史『三国志』を手に入れているみたいなの」


「ふ~ん。つまり司馬懿はこれから起こる史実を把握し、自分に都合よく歴史の歯車を回そうと動いているわけか」


「さすがオーディションで選ばれた逸材、話が早いわね。

 そのとおり…と言いたいところだけど、史実とのズレはそれだけに止まらない。呉の孫権は転移者の呉範に操られて天下統一の野望を抱いていた。史実どおり赤壁の戦いでは勝利したものの、牛渚の戦いで曹魏のBチームに敗れ、無敵艦隊は全滅。呉は長沙の孫権と建業の孫紹に分裂してしまったの」


「Bチーム?何だそりゃ?」


「赤壁の戦いでは、孫呉の内部が周瑜・魯粛らの主戦派と張昭・秦松らの降伏派で対立していたことは知っているでしょ?実は曹魏でも、短期決戦派と持久戦派で意見が分かれていたの。簡単に言えば、曹魏のBチームってのは、持久戦派のことね。荀彧とか賈詡とか、あとは短期決戦派の太子・曹丕を諫めて外された張遼や徐晃も組みしてたんじゃなかったかしら」


「錚々たるメンバーじゃねぇか!ってことは史実と異なり、持久戦派が赤壁の戦いを主導したのか?」


「ううん。曹魏は短期決戦派が主流となって赤壁の戦いに臨んだものの、三国志演義の筋書きどおり私と周瑜の火計で返り討ちにしてやったわ。これで曹操の天下統一の野望は潰えた…かに見えたんだけど、秘かにBチームがね、リベンジを仕掛けていたの。

 孫呉が全戦力を赤壁に注ぎ込んでいる間に、淮河を下った彼らが、亡き孫策の遺児・孫紹を擁立して、手薄になった建業を占領しちゃったのよ」


「ああ、なるほど。それで転移者の呉範は?」


「あら?関索って、呉範の奴に興味があるの?私、あいつ大っ嫌い。私の大切な推しの劉備様を、他人の(フンドシ)で相撲を取る寄生虫だ、さもしい根性の恥知らずって言い放ったし。私のことだって、劉備推しのニワカ“歴女”、机上の空論を振りかざすだけで信用できないと罵ったんだから!」


とプンスカ腹を立てる女神孔明。


「へえ、そりゃお気の毒に」


「何の話だっけ?あ、呉範のその後ね。

 正直、あんなインチキ占い師なんて眼中にないから、私も噂話程度しか知らないわよ。

えーと。周瑜に嫌われて孫呉を追放された後、都で侍中の伏完に保護されてたんだけど、献帝の娘と自称する董桃と組んで世を惑わせる風説のたぐいを流布しちゃってね、曹操に捕えられて牢内で獄死したんだって。本当は口を封じられたらしいんだけど。いい気味だわ」


「……あっそ。女神様も大っ嫌いな呉範の死に関係してるの?」


「ぜーんぜん。私、曹魏の内輪揉めにはノータッチだもん。さっきも言ったでしょ、口を封じられたのが真相だとすれば、犯人は司馬懿と董桃だって」


(ふ~ん、なら孔明はスルーでいいか)


「?」


「なんでもねぇよ。じゃあさ、俺たち劉備軍の状況を教えてくれ」


「おおむね史実どおり。赤壁後のどさくさに紛れて荊州南部の占領に成功し、益州の劉璋から張魯の牽制のために軍隊の派遣を要請されているわ。劉備将軍は今、葭萌(かぼう)関で張魯と睨み合っている。ただ……」


「ただ?」


「荊州がね、史実と大幅に異なっているの。

 本来なら荊州の領有を狙って、曹魏・孫呉・劉備軍が三つ巴で戦いズタズタになっているはずなのに、この世界では関羽が劉備軍から独立して完全に荊州を支配している。人口三百万、兵十万。武器も兵糧も金銭も十分に貯えられた、中華で最も裕福な州」


それを聞いた関索は、


「なら、劉備軍は益州なんか狙わずに荊州を乗っ取ればいいじゃないか!」


と邪悪な発想を口にする。


「できる物なら、とっくにそうしてるわ!

 だけど関羽は劉備将軍と同盟を結んでいるのよ!盟友を襲うなんて駄目に決まってるじゃない!

 それに私が転生させた関興が、発明家の馬鈞やら医者の張仲景やらゲームに登場しないニッチな武将を招聘して、それはみごとな領地経営に成功してるの。霹靂車・連弩・軍艦、そして贋金作りと完璧なマネーロンダリング…。曹丕や司馬懿・馬超が荊州に攻め込んだけれど、ことごとく撃退されているわ」


「ふ~ん。でもさ、関興って俺の()だろ?」


年齢的には関興より年上の関索はニヤリと笑って、


「だったら、親父の関羽と長男の関平が麦城の戦いで孫権に負けて死ねば、豊かな荊州は俺が相続するんだよな?」


「えっ?…な、何を言ってるの?」


女神孔明は関索の言葉に不審を覚える。関索は慌てて、


「冗談だって!いくらゲームだからって、さすがに肉親の死を願うわけないっしょ?!けど関興って奴、すげぇな。一度会ってみてえよ!」


秘かに慕う関興を褒められて、つい饒舌になる女神孔明。


「でしょう!本当にすごいのッ♪私も何度もピンチを助けられたし。

 ふだんの関興はザ・モブって感じでパッとしないんだけど、いざ戦いになると人が変わったように勇敢で知略が冴え渡るんだから!曹魏のBチーム率いて牛渚で孫呉を破ったのも関興だし、司馬懿と献帝の野望を挫くために、陳倉に追い詰められた曹操を、はるか遠くまで遠征して救出したのも関興なのよ!」


「?? なんで関興は敵の曹操を助けるんだ?」


「えーと。関興って、前世の名前が秦朗(はたあきら)って言うの。実は私の転生システムがバグッちゃって、秦朗(しんろう)の生い立ちとリンクしちゃったのよねぇ。関索は秦朗(しんろう)って知ってる?そう、曹操と関羽が徐州で同時に見初めた杜妃の子。杜妃は双子を出産して、片方は曹操の息子の曹林として、もう片方の息子は秦朗=関興として関羽に引き取られたってわけ。

 まあ、史実では曹操の義理の息子(嫁の連れ子)にすぎないけれど、この世界では、関興は曹操の実の息子かもしれないのよ」


「で、窮地に陥った実の父親を救って、曹操が持ってる魏公の座を継ごうという魂胆か。天下統一の布石のために」


当然すぎる関索の憶測に、女神孔明はふるふると首を振って、


「たぶん違うわ。関興は天下統一なんて全然興味を示さないもの」


「はぁ?バカじゃねぇのか!?それじゃ、何のためにアイツはこの世界に転生したんだよ?」


「……孫権に裏切られ、劉備に見捨てられて麦城で敗死する関羽と関平の運命を変えてやりたいんだって。それと、故・劉表が築いた荊州を、曹魏・孫呉・劉備軍の三つ巴の争いから防ぎ、領地の安堵と平和な領民の暮らしを守りたいとも言ってたかしら」


「気に入らねぇな。ただの偽善者じゃん!アイツのステータスを教えてくれよ」


「統率力85,武力87+5,知力94,政治力83,魅力62」


それを聞いた関索はますます怒りを露わにし、


「ずるいぞ、チートじゃねーか!なぁ、女神様。俺にも同じ能力を授けろよ!」


「無理よ!私が授けた天賦の才能じゃないもの。

 関興の基礎ステータスは、統率力76,武力86,知力63,政治力58,魅力74。ただ彼の場合は、正史『三国志』を(そら)んじていたことと弓道部だったおかげで、少しばかりボーナスが付与されただけ。今のステータスは地道に努力して研鑽した結果、築き上げた数字。

 羨ましいんだったら、関索も今から頑張ればいいじゃない!」


(馬鹿馬鹿しい。今さら地道な努力だなんて、ダセェし面倒臭ぇんだよ!)


女神孔明が関興というキャラのオーディションをもっと早く開催していれば、自分がチート能力を手に入れていたかもしれない。ギリッと歯軋りをした関索は、


(だったらアイツが築き上げた物を俺がそっくりいただいたって、文句言われる筋合いはないよな?)


そうつぶやいた。


なんか関索って感じ悪い。

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