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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第六部・哀惜師友編
231/271

213.雷天大壮

特殊文字を使っています。Unicode2633(震卦)とUnicode2630(乾卦)

「ご…ごめん、曹沖様。オレがふざけたばっかりに…」


後悔と謝罪を口にしたオレは、そして思い出した。


「ヒィッ。荀彧様に召喚獣の龍と(ぬえ)を呼び寄せられて、生身のまま(かじ)られ、骨を砕かれ、腸を(むさぼ)り尽くして、地獄の苦しみを与えながら死に追いやられるなんて嫌だ!で…でも、こうなっては死んでお詫びするしか……」


オレは申し訳なさと恐怖のあまり、うわぁぁ~んと泣き叫んだ。


「関興、女神の私なら荀彧の魔の手からあなたを守ってあげられる。だからあなたは一生私の下僕になるしかないの」


女神孔明はオレを優しく迎え入れようと手を広げた。


「ほら、おいで関興。私が慰めてあげる。いい子にしてたら、ご褒美にエッチな経験もさせてあげるわ」


「ひぐっ。め、女神様…」


オレは救いを求めて女神様の豊満な胸に飛び込もうとした、その時。


「チッ。…あんたのせいじゃねぇよ」


舌打ちしながら小声でつぶやいたのは荀彧のボディガード。


「心配するな。あんたが発動した【雷天大壮】とかいうコマンドで全滅したのは俺の部隊だ」


「えっ?」


荀彧が横から口添えして、


「彼は涼州軍の長槍兵を率いていた馬岱だよ。曹沖殿下を刺した直後に雷に打たれ、大怪我を負っていた彼を見つけたから、連れ帰って治療し僕のボディガードに雇ったのさ」


「くそっ。恩人の婁子伯(ろうしはく)様のご友人じゃなきゃ、こんなヤツなんか……」


「いけませんよ、馬岱。素直になりなさいな」


荀彧の叱責を受けて馬岱はオレに向かって、


「だから!あんたのせいじゃないんだってば!

……俺だけじゃない、あんたは御曹司率いる涼州軍閥を壊滅させた憎むべき敵だ。だが、天下を狙う邪悪な野望に取り憑かれた御曹司が見殺しにした涼州兵を可能な限り救い出し、龐徳を改心させてくれたらしいと聞いちゃ、借りは返しておかねぇと気持ち悪いんだよ!」


と言ったきり、プイッと横を向く。


「オレのせいじゃなかった……」


放心状態のオレに微笑んだ荀彧は、


「そもそも【落雷】コマンドは、修行して大量のMPを持つに至った神仙しか使えないんだよ。転生者とはいえ、“凡俗”の関興君が「雷天大壮」と呪文を唱えたところで【落雷】コマンドが発動するはずがないんだ」


「!!」


オレは荀彧の語った衝撃の事実に驚いた。


「諸葛孔明殿。女神様と下僕といったお二人の(いびつ)なプレイに外野が口を挟むのは野暮ってものでしょうが、嘘をついてまで関興君を縛りつけようとするのは感心しませんね」


「う、うるさいわね!私の気持ちなんて知らないくせに!」


「そもそも、どうして関興君が【雷天大壮】スキルを持っているからといって、【落雷】コマンドが扱えると思ったんですか?」


荀彧が訊ねると、女神様はドヤ顔で、


「フフン。前世のこいつはね、彼女いない歴=年齢で童貞のまま死んだ可哀想な24歳モブ男だったのよ!関興に転生させたこの世界でもすでに12年が経過した。合わせて36年、前世では童貞のまま30歳を迎えると“魔法使い”と呼ばれるの。だったら関興にMPが宿ったとしても不思議じゃないわ!

 ほら、関興のMPを【鑑定】したら…あ、あれっ?無い!」


そう。今まで測ったことなかったけど、オレのMPゲージは0を指しているのだ。オレはポリポリと頭を掻いて、


「ごめん、女神様。実はオレ、もう童貞じゃないんだ」


「嘘っ?!あ…相手は誰よ?」


「えー言わなきゃいけない?」


「当たり前でしょ、下僕のあんたに拒否権なんかないんだから!

 はは~ん、別のエッチな店に行って筆下ろししたのね?そ、そんなの無効よ、だって“素人童貞”には変わりないなんだし。笑わないから答えなさい」


「え、えっと……(しん)洛副会長」


(しん)洛?ど、どうして…?」


「孫呉との同盟継続のためにガールフレンドの鴻杏ちゃんを犠牲にして、自己嫌悪に陥ったオレを慰めてくれたんだよ。(しん)洛副会長も、袁煕・曹丕・曹沖殿下と結婚相手を次々と破滅に追いやる魔性の女じゃないかって自分を責めてさ。つらい者同士、お互いの傷を舐め合ったというか……」


「な、舐め合った?!関興の<ピー>したアレを(しん)洛が舐め、(しん)洛のたわわな胸の膨らみと甘い蜜が滴る<ピー>を関興が舐めて…」


何をいかがわしい想像をしたのか、ぐはっと血を吐いて膝から崩れ落ちた女神様は、


「おのれ(しん)洛、関興のファーストキッスだけじゃなく初体験まで奪うとは……魔性の女めっ!羨まけしからん!」


そうして血の滴り落ちる口の端を手で拭うと、


「こ、今回はこれで退散するけど、あんたは再び女神であるこの私の下僕に戻してやるんだからねっ!覚えておきなさいよ!」


と謎の捨てゼリフ(?)を残し、うわあぁぁーんと泣き叫びながら帰って行った。



「わけ分からん」


次のターンまであと3日待てば、【ワープ】が使えて移動も楽だろうに。

オレの素朴な感想に、荀彧のボディガードの馬岱が反応して、


「チッ、鈍感野郎め。ムカつくぜ!」


「……関興君の弱点は色恋の機微に(うと)い、っと」


「はあっ?!何言ってるんですか、女神様は劉備のクソ野郎を推してるんですよ!

 性格はともかく、黙ってりゃ美人な才女なんだから、男なんてよりどりみどりだろうに。なんであんな奴がいいのか、オレにはまったく理解できません」


「後半激しく同意だわ」


馬岱が殺意の籠もった目でオレを睨む。


(あんな美女が何故このヘタレに執心?っていうか、こいつ彼女持ち?俺の方が断然イケてると思うのだが…いや待て。俺は娼館でヤッた経験しかないからシロート“童貞”にカウントされるのか?まさか22歳の俺は“魔法使い”で、神仙術が扱える…のか?)


とかなんとかつぶやき始めた。荀彧はそんな馬岱に苦笑しながら、


「女性経験のないまま20歳を迎えたら“魔法使い”でしたっけ。そんな話は迷信ですよ。

 あなたが蒲坂(ほはん)で雷に打たれ大怪我を負ったのも、単なる自然現象、ただの偶然にすぎません。関興君を恨むのは筋違いです。いいですね?」


「はっ、畏まりました」


馬岱は渋々納得する。


「さて、関興君。君が(だま)されて付与されたという【雷天大壮】スキルなんですが…」


「はい。オレが良からぬことを(たく)らんだら、女神様に()を落として()罰を下されるお仕置きスキルらしいんです」


ハァ…と溜め息をついた荀彧は、


「あなたまで、諸葛孔明の詐弁に惑わされ続けてはいけません。

 易の八卦:“☳☰”(雷天大壮)の成り立ちを考えれば、本来の意味はすぐに分かるでしょう。すなわち、震“☳”が上にあり乾“☰”が下にある卦を【雷天大壮】と言います。乾(天)は天子を象徴し、震(雷)は諸侯を示します。天子の上に諸侯が乗る形なので、【雷天大壮】の卦は「下剋上」の暗喩、と『春秋左氏伝』にも記されます。なるほど、関興君にふさわしい卦ですね」


「下剋上……」


「ええ、それがあなたに付与された運命。あなたの手で漢の天子様と司馬懿の暴政を覆してやりなさい。私は影ながら司馬懿の悪辣なたくらみの証拠を探します。頼みましたよ」


「分かりました。頑張ります!」


オレは荀彧に鄭重に礼を述べ、約束の期日まであと二週間に迫った漢中へと旅立った。


「あ、それと関興君!」


ふり返ったオレに、


()()(しん)妃様を幸せにしてやりなさい」


オレは大きく手を振って応えた。が。

(あれっ?そう言えば、荀彧はさっき何か言いかけてたような…)

たしか「もしも曹沖殿下が……」って言いかけてたけど、何だったんだろう?


というわけで、(無理やりの展開で)関興の持つスキル「雷天大壮」の真の意味が明らかになりました。第7章に続きます。


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