212-2.自爆(後編)
「だ、だが、【ワープ】を使ったと言い張っているのはあんただけだ。第三者の証言がなければアリバイは成立しないんだぞ!」
「それくらい知ってるわ」
「ふん、じゃあここに呼び出してみろよ。もしそんな第三者が存在するのなら、な」
「必要ないわ。もうここにいるもの」
「はぁ?」
「だって関興、あんただもん!あんたが陳京とかいうおバカ屯田兵曹長と一緒にエッチな店に行った帰り道のこと」
………………
…………
……
(回想シーン)
ああ、むしゃくしゃするなぁ!
こんな時は一発抜いてスッキリするのがストレス解消。
《坊ちゃんも好きですねぇ~♡手っ取り早く済ませるなら、いい所教えてあげますよ☆》
とニヤニヤ笑いながら、陳京と連れだって向かった先は見るからに怪しげな店。
壁の向こうにはカワイ子ちゃんじゃなく、たぶんというか絶対に婆がいて、そいつにチ〇コをしゃぶられるなんて…想像しただけで悪夢だ。知らぬが仏とはまさにこのことだろう。
《オ、オレはやっぱりいいや。まだお子ちゃまだし》
はあ…なんかすっかり気分が萎えたオレは陳京を置いて先に店を出た。
そう言えば、鄧艾も華と結婚してついに童貞を卒業し、“魔法使い”じゃなくなったんだよな。残る“魔法使い”はオレだけか。
キョロキョロと辺りを見回し、誰も見ていないことを確認したオレは、カッコよくポーズを決めて、
「轟け、【雷天大壮】!」
…って、本物の魔法を使えるわけがないし、何も起こらないっつーの。馬鹿馬鹿しい。
その時。
《やった、成功☆ ねぇ、関興…じゃなくて、秦朗》
気配もなく後ろから声を掛けられたものだから、オレは狼狽して、
《どわぁあーっ!って、なんだ女神様か。びっくりさせるなよ!今、み、見てたのか?》
《はぁ?何の話よ?あっ、その恰好、あんた元服したのね。はは~ん。オトナになったからって、どうせ昼間っからエッチなこと考えてたんでしょ?不潔ッ》
女神様は、オレが恥ずかしいポーズをきめて魔法の呪文を唱えてしまった決定的瞬間を見ていないらしく、ピント外れの勘違いをしているようだ。うん、助かった。
《言ってろ。で、いったい何の用だ?》
《私さ、なりふり構わずお金を稼がなきゃならないから、空いた時間は敵情視察とコンサルタント業務に勤しんでるの。いいネタがあるんだけど、百万銭で買わない?》
《百万銭…高っ。断るッ!》
《協力してくれたっていいじゃない、ケチ!
戦争にしろ外交にしろ、敵味方問わず正確な情報が命でしょ。となると、史実を知ってる私は断然有利よね。年表を見て事件が起こりそうな場所へ斥候を派遣して、仕入れた情報を客に売りつけたりして。必要なら私自身が取材に出ることもあるわ、【ワープ】コマンドも使えるようになったし。今だって蒲坂からここまでひとっ飛びなのよ!》
《【ワープ】コマンド?ずるいぞ!自分ばっかりチート能力持ってるなんて…》
《いいじゃない。だって私、神様だもん!
当陽の戦いの時みたく、ザコキャラの山賊に襲われそうになるなんてひどい目に遭いたくないし。なので、神仙界に行って修行して来たの》
……
…………
………………
うっ。 そ、そうだった!っていうか、一部始終見てたのかよッ?!
「ね☆私のアリバイは完璧でしょ?」
まぁ、確かに。だがそうなると、【落雷】コマンドを使った犯人はいったい誰だろう?
すると黙って回想を聞いていた荀彧が、
「今の話が本当なら、【落雷】コマンドを使える人物はもう一人いるようですねぇ」
と言って、オレの顔をじっと見つめた。よして下さい、照れるじゃないですか!
「えっ?……オレのこと?」
頷く荀彧と女神様。
「いやいや、女神様に騙されて付与された【雷天大壮】は、オレが良からぬことを謀らんだら、女神様に雷を落として天罰を下されるお仕置きスキルなんですよ!それが証拠に、あの時オレが恥ずかしいポーズをきめて魔法の呪文を唱えたのに、なんにも発動しなかったじゃないですか!」
「そんなことないわ。関興が【雷天大壮】を唱えたあの場所には、周りに戦闘部隊は一つもいなかっただけ」
女神孔明はそう言って、攻略本を取り出した。
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◎コマンド【落雷】
敵ダメージ ★★★★★ レア度 ★★★★★
神仙が大量のMPを消費して使う、一発逆転を秘めた“必殺技”。成功すれば、戦場に展開する部隊のうち、敵味方問わずランダムで選ばれた1部隊に雷を落とし、戦闘不能にすることができる(兵力に95%のダメージ+隊を率いる武将が重傷を負う)。ただし約3割の確率で味方に落ちる可能性もある恐ろしいコマンドである。 (※『歴史シミュレーションゲーム三國志Ⅳ攻略本kiwi』より抜粋)
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「だから【雷天大壮】コマンドが発動しても、あなたのいる唐県に雷は落ちなかった。代わりに別の場所にいる部隊が選ばれたのよ」
「で、でもあの時オレは、蒲坂から遠く離れた唐県にいたんだぜ!?」
拙いオレの反論に対して荀彧は、
「ははぁ、なるほど。諸葛孔明殿が【ワープ】を使って唐県と蒲坂を短絡させた時点で、君のアリバイは無効というわけか……」
「?」
「ニブいわね。つまり、こういうことよ」
ンな馬鹿な!?
「じ、じゃあ、曹沖殿下を殺してしまった犯人は、オレ?
オレが安易に【雷天大壮】の呪文を唱えてしまったから、流れ弾的に曹沖殿下に雷が落ちてしまった、のか?」
「ふふん。色ボケ関興、分かった?
あなたが懸想している甄洛の大事な想い人を殺しちゃったのは他ならぬ、あ・な・た。きっと潜在意識では曹沖のことを憎らしく思ってたんでしょうね。これじゃ、甄洛に会わせる顔なんかないわねぇ」
女神孔明は勝ち誇ったように笑みを漏らした。
> 【落雷】
俺はプレイしたことないけど、Youtubeで見た三國志Ⅳに登場する【落雷】コマンドが「すっげ~かっこいい!」と思って、いつか物語に登場させようと温めていましたが、いろいろ伏線張った割にはあんまり面白くなかった。真夜中&酔っぱらいのテンションを本気にすると良くないな。
というわけで、もう一話続きます。




