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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第六部・哀惜師友編
210/271

193.鄧艾、馬超軍を迎撃する

次の日。

涼州軍が荊州軍を攻撃すると聞きつけた諸葛孔明が、慌てて馬超を説得しに訪れる。


「ちょっと!どういうことよ?

 私が授けた策では、涼州の馬超将軍・荊州の関羽将軍そして益州の劉備将軍の三強が同盟を結んで曹操を討ち破り、許都で捕らわれの身になっている献帝を救い出すって作戦だったはずよ?

 どうして味方どうしで争ってるの?敵の思うつぼじゃない!」


馬超は呆れ顔で、


「あんた、いつの話をしてるんだ?

 曹操なら俺が蒲坂で粉砕した。今はたった一万の兵で陳倉に籠城している。奴の命運は風前の灯火だ。その隙に漢の皇帝陛下は曹魏から権力を奪い返し、親政を開始した」


「知ってるわ。だって献帝にその策を伝授したのは、この私。大軍師・諸葛孔明だもん!」


と胸を張る。だが馬超は冷ややかに、


「その献帝の思し召しなんだよ。曹丕や司馬懿と組んで、朝敵の曹操を救出しようとたくらむ荊州の関羽を叩き潰せ、とな!」


「なんですって?!」


諸葛孔明が荊州南部の統治にかまけて、しばらく朝廷への出仕をなおざりにしていた間に、事態が大きく変貌したことに驚愕する。


「関羽が曹操に味方するなんて、どうして……?」


「知るか!あいつに聞け。とにかく、俺は陛下の勅命を受けて、逆賊の曹操と関羽を討つべく出陣している正規軍。裏切ったのは関羽であって、俺ではない。俺は漢に忠誠を誓い鎮西将軍・雍州牧を授かってるんだ。

 それに三強の同盟とは言うものの、あんたの主君の劉備は一州すら得ておらぬザコ。つまりあんたの策は、いまだ俎上にも載らぬ空論。破棄したところで、非難される覚えはない」


「ま、待って!真偽のほどを陛下に確かめてみるから、それまで待ってってば!」


孔明はなおも説得を試みるも、馬超はこれ以上の議論は無用とばかりに、


「断る。荊州を狙っているのは俺だけじゃない。司馬懿だってそうだ。あいつを出し抜けるチャンスなんだぞ、一刻も無駄にできるか!」


と言い放つと、軽装の騎馬兵とともに新野へ向けて出陣した。

荊州軍に潜伏している夏侯覇の報せによれば、新野で逗留せざるを得なくなった敵は、城の防備のために周囲に塹壕を築く改修工事を行なっているそうだ。


「兵は神速を貴ぶ。奴らがこちらの接近に気づかぬうちに、一撃を与えろ!」


「「おうっ!」」


馬超は全軍に下知した。


◇◆◇◆◇


一方、新野では。

(えん)城に忍ばせておいた斥候の(むささび)から報せが届く。


「申し上げます!(えん)城から馬超軍の軽騎兵二万が出陣!目標、この新野だと思われます」


「そうか」


城の改修に汗を流す鄧艾は、感情の起伏も見せずそう一言だけ発すると、北の渡し場にあった船をすべて白河の南岸に運ばせた。泳ぎに慣れておらぬ涼州兵は、船がなければ川を渡れない。城の防備が整うまでここで数日は時間を稼ぐつもりなのだろう。


翌日、馬超軍の軽騎兵の第一陣が白河の北岸に姿を現した。


「船はすべて回収され、敵は対岸の渡し場に陣を構えておるようですな」


遠目に眺めた皇甫(こうほ)(れき)の言葉に馬超はほくそ笑んで、


「荊州のアホウ共め、馬は水を怖がるとでも思ったか。馬は泳ぎは達者であるし、騎乗すれば人間の顔は自分の背丈よりも上になる。これしきの浅瀬の河なら、船はなくとも馬で駆け渡ることも可能だ」


馬超は騎馬隊の第一陣に命じて、水量の少ない白河を騎馬で渡らせた。ところが河中には鄧艾の改修工事により何百本もの木の杭が打ちこまれ、その間に漁網が張られていた。先頭の騎馬が漁網にからまり、河中で動きが取れず後続の騎馬が次々に密集したところ、河の上流から黒い液体が流れて来る。


「な、何だこれは?」

「もしや…油か?」


「いかん!退けっ、退けーぃ!」


馬超が気づいて退却の号令を掛けた時にはもう手遅れだった。南の対岸から一斉に火矢が放たれ、馬超軍の第一陣二千騎は断末魔の声を上げて壊滅した。


「うぬぬっ、だが見ておれ!」


翌日。

馬超は竹を編んで筏を百艘ばかり作らせると、敵が河の中に置いた木杭を利用して筏を並べ、白河に浮橋を築いた。


「者ども、前進!」


馬超軍が筏で造った浮橋を通って対岸に渡ろうとするところへ、鄧艾は投石機から石の塊を何発も撃ちこんだ。狭い浮橋を渡るために整列した馬超軍は、面白いようになぎ倒される。石が直撃する者、河に落ちて溺れる者多数。その上、浮橋に命中して破壊され、編んだ筏はバラバラになって下流へ流されて行った。


「浮橋も失敗か…だがこちらは陽動。本命は――」


その夜。龐徳の率いる二千騎が秘かに迂回して渡河に成功し、敵が陣取る南の渡し場へ夜襲を仕掛けた。


「二度も我が軍を破り、敵は油断しておるに違いない。それ、かかれっ!」


喊声がわき起こり、二千の馬超軍が南岸の渡し場の陣に突入した。だが陣はもぬけの殻。一兵の影も見えない。


「しまった!」


それもその筈、鄧艾が敵の夜襲を見越して、兵たちを砦へ引き揚げさせていたのだ。馬超軍が狼狽して引き返そうとするところへ、四方から火矢の雨が降り注ぐ。


「射て!」


鄧艾の掛け声とともに、混乱する馬超軍に向かって一斉に強弩を放つ。身体を射抜かれる者。火に焼かれる者。矢が当たり痛みに暴れる馬から振り落とされる者。逃げ惑う人馬に踏み潰される者。ほうほうの体で逃げ帰ることのできた馬超軍は十のうち二、三。


「くそっ。見抜かれておったか?!」


敗軍の将の龐徳を迎え入れた馬超は、地団駄を踏んで悔しがる。


「なれど我らが迂回路を発見したことで、敵は渡河中での迎撃を諦めた模様。これ以上は太刀打ちできぬと知って、早々に砦へ撤退したのでしょう。犠牲は少なくありませんが、その甲斐あって我々は白河南岸の確保に成功したのです。我々が押しているのは間違いありません。これからつけ入る隙はありましょう」


参謀の皇甫(こうほ)(れき)は馬超を励ます。


「だが、敵が新野城に籠城したら?我々は不得手だぞ」


「我が涼州軍が籠城戦を苦手としているのは事実ですが、その時は曹仁や司馬懿を誘って、大軍で新野城を囲むまで。

 彼我の兵力差を考えれば敵はジ・エンドですから、荊州軍が悪手の籠城を選択するとは考えられません。なんとしても次の砦で我が軍を撃退しようと決戦を挑んで来るはずです。

 仮に新野城で籠城戦に持ち込まれたとしても、狡猾な司馬懿は籠城戦が大の得意とか。隣でじっくり観察し奴のノウハウを盗み取れると思えば、我が軍にとって必ずしも不利な結果とはなりません」


皇甫(こうほ)(れき)の解説に気を良くした馬超は、


「よし。次こそ奴らを葬ってやる!」


と誓うのであった。


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