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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第六部・哀惜師友編
201/271

184.鴻杏、秦朗に別れを告げる

三国志の戦記物のはずが、関興をめぐるラブコメもどきの展開に……。

本来のストーリーを忘れてはおりませんので、あと数話ほどお待ちください。

●建安十六年(211)三月 許都城外の港 ◇関興


結局、なにが曹麗様の琴線に触れたのかは分からないが、名誉の自死という呪縛に取り憑かれていた彼女の気持ちをなんとか翻意させることができた。いくらヴァーチャルリアリティの戦争ゲームとはいえ、オレは自分の周りにいる人間だけでも、死ななくていい命は救ってやりたい。それは偽善なのかもしれないが。


それにしても、張虎から借りた近衛兵のコスプレ効果は絶大だ。「師団長の史渙(しかん)に偵察を命じられた」と告げれば、門番に怪しまれることなく許都の城門を通り抜けられるんだもん。これ、返さずにオレの物にしちゃおうかな。なんちゃって。


港に到着すると、軍船を前に甘寧と怪しい仮面の男が互いに抜刀し、今にも斬り合いに発展しそうな勢いで睨み合っている。その間をなんとか取り繕おうと孫紹があたふたしている様子が見えた。

「どうしたの?」と声を掛けると、オレの姿を認めた仮面の男が、予定どおり公開説教を始めた。


「関興よ、待っておったぞ!

 俺たち孫呉は、曹操と曹丕の争いに関わり合いになるつもりはないと言ったはずだ!にもかかわらず、何故この軍船に曹魏由縁(ゆかり)の者が乗り込んでおる?」


と咎める。ありゃ、バレちゃったか。


「それは申し訳ないことをした。オレたちが許都に潜り込んでいる間、断りもなく曹魏由縁(ゆかり)の者を孫呉の軍船に乗せて(かくま)ってもらっていたことは事実だ。孫紹君の親切心に便乗して、悪ノリしたことは謝る」


と頭を下げる。


「……許さぬ!」


「いったい何が気に入らないんだよ?終わり良ければすべて良し、やってしまったことに今さらケチを付けても仕方ないだろう。土下座しろと言うならいくらでもしてやるぞ。

 が、そもそもオレの方から金三十万銭を譲る代わりに軍船に乗せてくれと話を持ち掛けた時に、知恵者の貴公がこのような裏事情を予測しなかったはずがあるまいに」


と仮面の男(正体は分かってるけど 笑)に問うた。甘寧が慌てて、


「チビちゃん、煽るのはまずい。この野郎、卑怯にもおまえの母君や曹林たちを人質に取ってるんだ!」


と忠告した。捕らわれの身となった()妃が、


「秦朗っ、この男を味方だと信用しちゃだめ!あなたを捕らえて敵に売り渡すつもりよ!」


と叫ぶ。ああ、言われなくても分かってるさ。オレは仮面の男に向かって、


「なら、化かし合いはお互い様じゃないか。貴公だって、あわよくば孫紹君が揚州都督に任命されたら、人質を盾にオレを捕らえ、献帝に売ろうとしてたんだろ?」


「ふん、バレバレか」


と悪びれずに開き直る。


「当たり前だ!三十万銭をどう使おうが文句は言わせないなんて条件を付けられれば、誰だってピンと来る。けど、曹丕が頑として揚州刺史には曹仁を就任させると譲らず、結局そのとおり決まったらしいじゃないか、残念だったな。

 今さら貴公がオレの身内を人質に取ったところで役に立つまい」


と説得を試みた。だが周…じゃない、仮面の男は、


「そういう問題ではない。

 我が孫呉は、曹操と曹丕の争いに関わり合いになるつもりはないのだ。口では曹操を恨んでいると言いながら、奴の身内を救おうと奔走している関興、おまえと違って、な。

 おまえら一行を我が軍船に乗せて出港してしまえば、孫呉は中立の立場を破ってしまうことになる。だからおまえらにはこの船を下りてもらう。

 その一方で、おまえにそっくりな曹林とやらに俺の顔を見られてしまった。曹魏に俺の正体が知られるのはまずい。この場で曹林を下船させ放免することはできぬ。ならば答えは一つ、曹林の口を封じなければならぬ」


……と言いつつ、オレが戻って来るまで曹林を生かしておいたのは、やはり奴の優しさなのだろう。


「貴公の言い分は理解した。軍船に乗せてもらえぬことは素直に受け入れる。今まで世話になったな。

 だが、貴公が曹林に顔が見られたという件は、明らかにオレの責ではない。曹林や()妃を人質に取ってオレに譲歩を迫ろうとも、オレの知ったことか。そもそも曹林とは兄弟仲が良くないし、()妃は赤ん坊だったオレを捨てたロクでもない母親だ。殺したければ勝手に殺せばいい」


「ひっ…ひどいじゃないかモブ弟!ボクを助けてくれよォ」


見殺しにされると思った曹林が、ぴーぴー泣き喚く。


「とはいえ、もし貴公が曹林を手にかければ弟のオレだって黙っちゃいない。腹いせに今ここで許都の者に聞こえるくらいの大声で、貴公が生存していることを叫んでやる。

 人質を殺されても痛くも痒くもないオレと、正体がバレると困る貴公。どちらが不利かは一目瞭然じゃないか?」


「なっ……」


仮面の男が絶句する。


「安心しろ。これはあくまでたとえ話、オレの本音は貴公らとはこれからも良い関係を維持したい。貴公が正式に正体を明かすまでは、曹林の身柄は責任をもって荊州で隔離するつもりだ。曹魏に秘密が漏れることはあるまい」


「……それが確実だと言える根拠は?蘇秦のように舌先三寸で生きて来た、おまえの口約束だけでは信用できぬ」


まぁそう簡単には退()いてくれないだろうな。このままでは、話が平行線をたどったまま決裂してしまう。まずいぞ。

と、その時。


「わ、私が代わりに孫呉に行きますっ!」


やおら(こう)(あん)が口を開いた。


「秦朗君。お母様や兄弟を見殺しにするなんて、絶対駄目!

 秦朗君が曹麗様のむちゃな命令を引き受けてくれた時からこんな結末(バッドエンド)になることは分かってたんだ。所詮、私は悪役令嬢の取巻きなんだし」


「……」


「私の家もね、孫紹様と同じく中立の立場…と言えば聞こえはいいけど、要は日和見なの。でも私はそんなお父様やお兄様のことが大好きだし、家族を血みどろの争いごとに巻き込みたくないんです。

 秦朗君が曹操様の味方をする以上、私は一緒にいられない。

 けれど、もともと曹操閣下と曹丕殿下の争いから距離を置いていた秦朗君を騒動に巻き込んじゃったのは、この私。わがまま言ってばかりでごめんね」


(こう)(あん)ちゃん、オレは全然……」


「ううん。ずっとけじめをつけなきゃいけないと覚悟してたの。秦朗君のお役に立てるなら、私は喜んで身代わりになります」


(こう)(あん)は悲しそうに微笑んだ。そして仮面の男の方に向き直ると、


「私は董桃さんに芋女とあだ名されるように見た目はパッとしませんが、秦朗君だけでなく曹麗皇后とも学友なんです。利用価値はそれなりに高いと自負しています。

 秦朗君だって私を見殺しにしたくはないでしょうから、曹林様があなたの正体を吹聴しないように荊州でしっかり監視してくれると思います。私では役不足ですか?」


と問うた。周瑜…仮面の男は満足そうに頷いて、


「よかろう。人質三人は解放してやる。(こう)(あん)殿はこちらへ」


「ちょっと関興君!()()()の主君である僕が言うのも変だけど、君のガールフレンドを身代わりの人質にして平気なのかよ?」


孫紹がオレに(たず)ねる。


オレだって止めたいさ!だけど止められるわけがない。

(こう)(あん)ちゃんにとって、オレはボーイフレンドとは名ばかりの単なる友人。大事なのは家族の平安で、オレなんか二の次だ。そうだ、(こう)(あん)ちゃんがオレと別れて孫紹の所へ行けば、彼女を転生者かもしれないと疑う董桃の毒牙からは完全に守られるじゃないか!

――いや。こんなの全部、オレに都合のいいクズな言い訳だな。


「さよなら。今までありがとう。私、もう行くね」


「……ああ」


(こう)(あん)がタラップを上って行くのと入れ替わりに、人質だった()妃と曹林・曹(こん)の三人が解放された。黙って周瑜の言いなりにならざるを得なかった不甲斐ないオレに、孫紹が咬みついて、


「関興君を見損なったよ!僕はずっと前から、モブのくせに何故だかモテてた君のことが羨ましかったけど、ついに化けの皮が剥がれたね!(こう)(あん)ちゃんは僕が口説いて幸せにしてみせる。後から返せって言って来ても絶対返してあげないから!」


と宣言して軍船に乗り込んだ。そして孫紹はタラップの途中で振り返ると、吐き捨てるように、


「それとね、()()()からの伝言。

 ここから南百里の上蔡の港に、孫呉との外交交渉を終えて荊州に戻る途中の劉靖殿の船を待たせてあるんだって。

 馬なら一日で到着するんじゃない?さっさと行けば?じゃあね」


と告げた。

オレは(こう)(あん)を乗せた軍船が(えい)川を下り、影が見えなくなるまでじっと見送ることしかできなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] グダグダ言うなら、周瑜に一言言って解放してやればいいだろうに。 て言うか、この状況で鴻杏に言い寄って色よい返事を貰えると思ってんのかな、孫昭お坊ちゃまは。
[一言] 他人の事ならなんとでも言える、とりあえずこの話で孫紹君が大っ嫌いになりました。何が見損なったんだか。
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