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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第六部・哀惜師友編
196/271

179.関興、自分こそが転生者だと主張する

●建安十六年(211)三月 許都・後宮外 ◇関興(秦朗)


時間になっても待ち合わせ場所に現れない(しん)(らく)(こう)(あん)のことが心配になったオレは、鴛鴦(えんおう)門の前まで探りに来ると、(こう)(あん)ちゃんがピンク頭の董桃となにやら揉めている状況に出くわした。オレは慌てて飛び出し、


「よせ。その子を追求してもそれ以上のことは何も知らないぞ」


と董桃に告げた。

(こう)(あん)は思わず、


「秦朗君!」


と叫ぶ。


「秦朗?あっ。あの時、あたしのハッピーエンドをぶち壊しやがったモブ男じゃない!あんた許都を追放されたくせに、なんでここに居るのよ?ちょっと近衛兵、さっさとこいつを捕まえなさいよ!」


と董桃は近衛兵をせっつく。近衛兵はどうしたものかと迷っている様子だが、オレは堂々と、


「フン。おまえだって牢に閉じ込められてたくせに、シャバに出て来られたじゃないか。オレも同じだ、曹操が失脚して超法規的な力が働いたってわけさ」


と答える。董桃はつまらなそうに、


「ふ~ん。ま、あんたみたいなモブ男なんか眼中にないから、理由なんてどーでもいいわよ。それで何?関係ないあんたがどうしてしゃしゃり出て来るわけ?」


ふむ。乙女ゲーム脳のこいつに正論は通じない。なら、(こう)(あん)ちゃんを庇うためには、オレも乙女ゲームに関係するキャラとして納得させるしかあるまい。


「オレもできれば、あんたとこれ以上関わり合いにはなりたくなかったんだけどな。無実の罪で(こう)(あん)ちゃんが痛ぶられるのを見ていられなかったのさ。

 あんたが乙女ゲーム『@恋の三国志~乙女の野望』の主人公だ、とその子に教えてやったのはオレなんだ。つまり、このオレこそが転生者」


「はぁ?嘘ばっかり。男のくせに、イケメン揃いの乙女ゲームなんかで遊ぶわけないじゃない!あ、もしかしてあんたホモ?」


「確かにオレ自身がプレイしていたわけじゃない。女子高生だった妹が『恋@三』が好きで、いつも話を聞かされてたんだよ。おかげで攻略対象の名前だって言えるぜ、曹沖・荀粲(じゅんさん)・夏侯楙・夏侯覇・何晏の五人だろ。どうだ、ちっとはオレの話を信じる気になったか?」


「……全っ然!」


董桃は憮然としてそっぽを向く。


「あっそ。オレだって、まさか乙女ゲーム『恋@三』の世界にトラック転生したなんて、最初は全然信じられなかったさ。

 そのことに初めて気づいたのは七年前。

 お見合いパーティーに出席させられた秦朗(オレ)は、遅刻して来たピンク頭の令嬢にぶつかった。盛大にコケたその令嬢を助け起こしてやったオレの顔を見るなり彼女は、


《やだ、曹沖様じゃないわ!あんた何者?いつまであたしの手を握ってるのよ?いやらしいわね、この変態!》


と叫び、オレを突き飛ばして周りのイケメン令息たち――荀粲・夏侯楙・夏侯覇・何晏――の元に駆け寄り、


《どうもー初めまして。董桃で~す!ちょっぴりドジな所を見せちゃってごめんなさいッ☆もう恥ずかしいなぁーテヘッ!》


と媚びを売り始めた。

その名前を聞いた瞬間、オレは雷に打たれたような衝撃が走った。

ピンク頭のヒロイン・董桃。この場にいない人気No.1のプリンス・曹沖、そして残る四人の攻略対象。

 やべぇ。オレ、乙女ゲーム『@恋の三国志~乙女の野望』の舞台に紛れ込んでるじゃん!と。奇しくもオレは、あんたのおかげで前世の記憶が(よみがえ)ったというわけさ」


「し、信じられないわ!そんな話……」


そりゃそうだ。だって、オレがトラック転生したこと以外は、(こう)(あん)ちゃんの告白をネタに適当に作ったデタラメな話なんだから。


「とにかく、ここが乙女ゲーム『恋@三』の世界なら、攻略対象の曹沖は、実は献帝の娘である董桃(ヒロインちゃん)と結ばれ、将来的に皇帝になるはずだ。そう気づいたオレは、すぐに曹沖に近づいた。彼の取巻きになれば、出世は思いのままだからな。

 ところがヒロインであるはずの董桃(あんた)が、何をとち狂ったのかシナリオ改変を試み、曹丕なんかと婚約しようとした!

 このままじゃオレの計画は台無しだ!

――いや、まだ勝ち目はある。ヒロインを破滅させ、曹丕を蹴落とし曹沖を曹操の跡継ぎに擁立すれば……。

 ま、結果的にあんたへの“ざまぁ”は成功したものの、オレ自身も追放エンドを喰らっちまったがな」


「バッカじゃないの!最っ低……」


と吐き捨てる董桃。


「ふん、これで分かっただろ。実はオレが転生者という話が本当だってこと。そこであんたに()きたい。なんで本来のシナリオを改変してまで曹丕と結ばれようとしやがったんだ?」


核心を衝くオレの問いに、董桃は動揺して、


「そ、それは……呉範とかいう転生者のおっさんが、史実では曹丕が漢を滅ぼして魏の皇帝に即位する。桃ちゃんは今のうちに曹丕と仲良くなれば、将来皇后に立てられて富貴は思いのままって言うから……」


「はぁ?口から出まかせを言うんじゃねぇよ!呉範はもうとっくに死んでるじゃないか?!」


「ほ、本当よ!最初は呉範のアドバイスに従って動いてたの。でも、呉範が罪に落され牢に入れられた時に、牢番だった司馬懿があたしと呉範の会話を盗み聞きして、実は天子様の娘であるあたしを利用して成り上がることを思いついたって……」


「!!」


荀彧も懸念していた、(史実と比べ早すぎる)司馬懿の台頭。

董桃は、曹丕が漢を滅ぼして魏の皇帝に即位するという()()を呉範に聞いて知った。もし司馬懿が董桃を介してその()()を知ったとしたら?


なんだろう?なにか嫌な胸騒ぎがする。


曹魏の臣下がみな立太子された曹沖に鞍替えする中、ひとり司馬懿だけが曹丕を擁護し続けた。タイミングよく曹沖が戦死、曹操も行方知れずとなって、許都に残っていた曹丕が史実どおり後継となった。司馬懿の独り勝ちだ。奴は秦の宰相となった呂不韋のように「奇貨居くべし」を狙ったのか?


(……ねぇ)


いや、それだけで済むはずがない。

司馬懿は史実でも腹黒で、将来的に魏を乗っ取って晋王朝を築くのだ。

【風気術】師の呉範が牢屋で獄死した。その時、牢番が司馬懿だったのは偶然か?


(……ねぇってば!)


呉範の【風気術】は、前世で得た正史『三国志』の知識を駆使して予言と称し、あたかもそれが的中したかのように見せかけていたものだった。

もしも司馬懿がなんらかの形で呉範のチート能力を奪ったとしたら?

ああ、もう少しで何か重大なことが掴めそうな気がするのに。


「……ねぇ聞いてる?だからぁ、あたしと組まない?って言ってるんだけど」


董桃がオレの思考を邪魔するように(たず)ねて来やがった!


「はぁ?」


何言ってんだ、こいつ? オレは唖然とした。


「あのね、今まであんたのこと誤解してたっていうかァ、シナリオ改変しちゃって悪かったと反省してるのよぉ。それに、秦朗クンは曹操や司馬懿も敵ながら一目置く優秀なキャラなんだってね。桃、強い男の人って大好き♡」


なんだよ、秦朗“クン”って。

董桃はふいにオレの腕に手を絡め、上目遣いで目を潤ませながら、


「秦朗クンが取巻きになろうとしていた曹沖は、もう死んじゃったのよ。あたしは天子様の娘で、将来魏の皇帝となる曹丕と結ばれ皇后になる。あたしの取巻きに乗り換えれば、望みどおりあんたも富貴になれるわ!」


なるほど、そういう手もあるか。

董桃は滑らかな手でオレの頬を撫でながら、甘い吐息でオレにささやく。


「ね、いい考えだと思わない?そこの芋女よりも、あたしの方が美人で巨乳だしぃ、身分も高いしぃ、絶対秦朗クンを満足させられると思うのよねぇ……」


「秦朗君……」


(こう)(あん)が心配そうに見つめる。


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