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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第六部・哀惜師友編
192/271

175.関興、杜妃を救出する

●建安十六年(211)三月 許都の郊外 ◇関興


「うわ~ん。秦朗、怖かったよぉ~」


ようやく味方に会えて安堵したのか、()妃が泣きながらオレに抱きついて来る。


「どうした?許都で優雅に暮らしているはずの()妃様が、なんでこんな所にいるんだ?」


泣きじゃくる()妃を落ち着かせ話を聞くと、どうやら馬超に敗れて行方知れずとなった曹操の不在を突いて権力を奪った献帝が、曹丕・司馬懿と組んで、曹操由縁(ゆかり)の者たちを排除し始めたらしい。逮捕・拘禁される前に、()妃は息子を連れて許都を逃げ出し、関羽のおっさんのいる荊州へ向かっていたのだそうだ。


「厄介だな。やはり献帝はロクでもない奴だったか……」


とオレは真剣な表情でつぶやく。

オレの胸に顔を埋めていた()妃は、クンクンと匂いを嗅ぐと、


「あーっ!秦朗ったら、艶めかしい石鹸の匂いがするッ!さてはエッチな所に出入りして、オトナの階段を上ったとか言うんじゃないでしょうね?!」


「ち、違っ!オレはまだ童貞だ!なぁ甘寧?」


動転して真っ赤になったオレの様子に甘寧はニヤニヤ笑いながら、


「ま、厳密な意味ではチビちゃんの言うとおりだな。ところで、おまえに抱きつくそちらの美女は誰なんだ?」


「あれっ、甘寧は初めてだっけ?オレの生みの母親、今は曹操の寵姫になってる()妃だよ」


「へぇそうか。ん?ということは、チビちゃんって曹操の子ども……なのか?」


「まあ、その辺は複雑でな。母上はもともと父上――関羽のおっさんの嫁でもあるんだ」


甘寧は頭がグルグル回って、


「駄目だ!馬鹿な俺には関係がよく分からん。とにかくチビちゃんの母上ということなら、挨拶しないと。俺は甘寧と申す荊州の武人。以後お見知りおきを」


と述べて敬礼する。()妃はニッコリ微笑んで、


「これはご丁寧に。秦朗の紹介にあったとおり、()妃です。秦朗ってば昔っから可愛げがなくて、甘寧殿にはいつも迷惑ばかり掛けてるんでしょ?よろしく頼みますね。

それと、こっちは息子の曹林と曹(こん)。あ、(こん)は秦朗とは初対面だっけ?」


(こん)はコクリと頷いて、


「はい。義兄上(=秦朗)が帝立九品中正学園に通っていた頃は、(こん)はまだ小さな赤ん坊だったので、義兄上のことをよく覚えておりません。なので義兄上、はじめまして」


「うわー(こん)様は賢そうですね。はじめまして。母上を守っての長旅、さぞやお疲れでしょう。なんとか護衛の者を調達し、皆さんが荊州へ向けて無事に出発できるよう準備いたします。しばらくの間、オレや甘寧と一緒でむさ苦しいでしょうが、ご勘弁ください」


「何をおっしゃいますか?!義兄上は曹魏でも有名な、文武に優れた将軍。ぜひこれまでの経験を(こん)にご教授ください!」


四歳児とは思えぬ神童ぶりを発揮する曹(こん)。さすが、(史実における)詩聖・曹植のライバル。早世してしまうのが残念だ。

甘寧がオレの肩をトントンと叩き、


「お、おい。チビちゃんが二人いるぞ!まさかドッペルゲンガー現象なのか?!」


と小声で耳打ちする。


「ああ、そいつは曹林。オレの双子の兄で曹魏の公子様だ」


「マジか!?どう見ても瓜二つで俺には区別がつかんぞ。

 そう言えば蘭玉嬢ちゃんが、二代目皇帝に擁立した曹林の替え玉にチビちゃんを立てて、本物は暗殺……とかなんとか、物騒な謀略を立ててたような。確かにここまで似てたら、簡単に成功するかもしれんな」


甘寧の驚く声が聞こえたのか、曹林は頬を膨らませて、


「おい、そこのガラの悪そうな男!ボクを秦朗と間違うでない!ボクはそっちのモブ顔よりもずっと可愛いんだっ」


と癇癪を起こす。相変わらず、幼稚なダメ人間ぶりは直っていないようだ。


「なるほど。これじゃ、蘭玉嬢ちゃんが《兄兄(ニイニイ)と結婚できないなら、代わりに曹林様と結婚するぅ》と駄々をこねても、“チビちゃんを皇帝に祭り上げる会”のメンバー全員が即行で反対するわけだ」


「まぁ、オレも絶対許さんがな」


「よし。ならばひとつ、俺様がガツンと根性を鍛え直してやるか」


と変なスイッチが入った甘寧は、


「黙れっ!てめえ、軟弱なヘタレの分際で、呑気なことを抜かしてるんじゃない!母君の身の安全を図ることもできねえくせに、何が曹魏の公子だ!」


「!!」


曹林は反省したのか、


「……ボクだって母さまを守れるように強くなりたいんだ」


とつぶやき、しょぼんと肩を落とした。


「ならば今から体を鍛えるまで。曹林、ついて来い!まずは3kmランニング、その後腹筋百回、腕立て百回を合計3本!それが終わったら素振り五百回だ!」


「ひいいっ!」


と嘆きながらも、曹林は(ついでに弟の曹(こん)も)甘寧の地獄のブートキャンプに参加する。

その間、オレは()妃に今後の身の振り方を訊くことにした。


「母上たちが最終的には荊州の父上のもとへ向かうのはよいとして、これからどうするつもりだ?オレと甘寧が護衛して荊州まで送り届けてやりたいのは山々なんだが、残念ながら、急いで許都に潜入しなければならない野暮用があるんだよ。それが終わるまでオレたちと一緒に行動するか、母上たちだけで荊州へ向かって先行するか……」


()妃は即答して、


「決まってるじゃない!秦朗と一緒にいるわ!」


まぁ、その方がオレも安心なんだけど、正直言って足手まといなんだよなぁ。さてどうしたものか?と考えあぐねていると。


「ねぇ秦朗。野暮用ってなぁに?」


「ん?簡単な仕事さ。張遼の息子の張虎君を学園から(さら)うんだ」


()妃は“人でなし!”とか激怒するかもな。まぁこれには深い事情があって……。


「大変。早く救出してあげて!曹丕殿下は、帝立九品中正学園に通う令息令嬢を人質にして「可愛い息子や娘を叛逆罪で殺されたくなければ、曹操派から寝返って俺に従え!」と臣下の者たちに脅しを掛けているの。学園生は許都の城外に出ることを禁じられてるわ。今、曹魏は本当におかしなことになっているんだから!」


と逆にオレを叱咤する()妃。

待て。学園が今そんな状況なら、(こう)(あん)ちゃんは無事なのか?オレはそっちの方が気が気でないぞ!


「そっか。張遼将軍は曹操閣下に忠誠を誓うつもりなのね、武将の鑑だわ。秦朗はどうするの?」


オレの心配なんかお構いなしに、()妃が唐突に質問を投げかける。


「は?オレは曹魏の人間じゃねーもん。関係ないことに首は突っ込まないさ」


「ちょっと!関係ないって……あなたの実の父親かもしれないのよ?!私が言えた義理じゃないけど。張遼将軍と力を合わせて曹操閣下を救い出そうとか思わないわけ?」


「フン、張遼にも同じこと言われたよ。だが、そんな安っぽい理由でオレを説得しようったって無駄だ。

たとえ奴が実の父親だろうと、窮地に追い込まれたからってオレには今さら助けてやる義理はない。恩はすでに十分返したんだ」


「……」


「双子で生まれたオレの方を捨てたとか、許都を追放になったとか、そんな些末なことは正直どうでもいい。

 オレが許せないのは、己の力を過信し、仁徳を(ないがし)ろにして武力による天下統一を目論む傲慢さ。天下統一の野望が水泡に帰した後も、漢の帝位を簒奪する邪道に取り憑かれ、それを諫めた荀彧を害した浅はかさ。

 曹操は仁徳や正道を無視した報いを受けているんだ。自業自得だろ。

 天が奴に与えた罰を、オレがどうこうできる話じゃない」


頼むなら、女神様に頼めってんだ。


「あ、シリアスなお話し中悪いんだけど、ちょっと待って。曹麗様の所から伝書鳩が飛んで来たみたい」


おい、話の腰を折るんじゃねぇよ!わざとやってるのか?気分が萎えるだろーが!

()妃は鳩の足に括り付けてある(ふみ)を取り出して読むと、


「はい、秦朗。曹麗皇后からあなた宛にって」


と手渡された。



――秦朗に命じます。今、私の所で(しん)妃を(かくま)っています。すぐに許都へ来て(しん)妃を救い出し、安全な所へ逃がしてやりなさい!



「ハァ……」


オレはがっくりと肩を落とし、溜め息をつく。


やるよ、やればいいんだろ!

どうせオレに拒否権はないんだし。もうすでに(別件で)許都のすぐそばまで来てるんだし。曹沖を亡くした(しん)(らく)のことが気に()からないわけではないし。


けどさ、誰も彼もオレにばっかり面倒ごとを押しつけて来ないか?


「いいじゃない!秦朗はできる子なんだもん☆皆からお願いされるのは、それだけ秦朗が頼りになる証拠よ。誇っていいことだわ」


「……」


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