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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第六部・哀惜師友編
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148.関興、淮河の賊を討ち破る

久しぶりに関興の主役回です。

●建安十五年(210)七月 唐県 ◇関興


梅雨が終わり、蒸し暑い夏がやって来た。

斥候を使って探させているが、荀彧の行方はいまだ(よう)として知れない。だがオレは、荀彧はきっと生きていると信じている。そうして心と身体の傷が癒えた頃、揚州の寿春に駐屯する曹魏の安東将軍・張遼から、関羽のおっさんのもとに援軍の要請が届けられた。


「前任の賈逵(かき)がやらかした悪行の後始末を、多大な迷惑を被った雲長殿に頼むのは虫がよすぎると呆れ返られるのは百も承知だが、曲げて頼む!

このたび俺は淮河に跋扈する河賊の討伐を命じられたのだが、如何せん、軍船の操舵に慣れておらぬ。ぜひとも雲長殿の力を貸して欲しい。淮河を下り、敵を水陸から挟撃してもらいたいのだ」


と書かれた(ふみ)を見せた関羽のおっさんは、


「どうだ、興。今まで幾度となく戦場に立っているおまえにとっては、今さら初陣とは言えまいが、元服後の記念すべき初の戦いだ。俺とともに行ってくれぬか?」


「えっ?たかが河賊討伐の救援ごときに、わざわざ父上自ら出陣するのですか?」


「ま、まあな。ほら、長年の友人である張遼とともに戦うなんて久しぶりだろ。たまにはゆっくり旧交を温めたいと思ってだな」


「はぁ……」


まあ、本人が是非とも行きたいというならオレはべつに構わないけど。なんか怪しい。

ただその場合、一騎当千の父上が留守の間を狙って、荊州都督の曹仁が難クセを付けて我が領土に侵攻して来たり、使持節の専断権を振るって我が軍から兵を没収する…なんて事態は避けたい。張遼は頷き、


「俺から曹仁殿に申し入れる。任せてくれ」


曹魏きっての勇将の張遼から口添えがあれば、曹仁としても迂闊に手を出せまい。ついでに水軍兵一万を返してもらったオレは、関羽のおっさんを大将に据え、劉靖を参謀に指名して、大手を振って軍船十隻を率い唐県を出発した。


「こうして興と旅をするのは十年ぶりだな」


「……あの時、父上がオレを置いて劉備の逃避行について行くから」


「そう恨み言を言うな(苦笑)。俺だっておまえと離れ離れになるのは断腸の思いだったんだぞ!」


分かってる。曹操と縁のあるオレだけでも安全な場所に避難させようと、関羽のおっさんが別れ際に涙を流してくれたのは本心だったと思う。


「おかげで父上とこうして旅に出るのが新鮮で、とても楽しいです」


「こいつめ。嬉しいことを言ってくれるじゃないか!」


関羽のおっさんは豪快に笑って、オレの髪の毛をくしゃっと撫でた。


「なぁ興、せっかく寿春まで出掛けるんだ。おまえのガールフレンドの鴻杏(こうあん)ちゃんの父君は徐州の広陵太守、寿春からは指呼の距離だ。それに彼女自身も夏休み中で帰省しておるだろう。どうだ、河賊の討伐が終わったら、挨拶がてら広陵に行ってみないか?」


「えっ?!あ、挨拶って……まさか結納?!オ、オレにはまだ早すぎるっていうか、心の準備ができていないというか……」


オレのしどろもどろな態度に、関羽のおっさんは思わず噴き出し、


「プッハハハッ!いつも冷静な興でもそんなに焦ることがあるんだな。そう堅苦しく考えなくてもいい。俺だって父親なんだぞ、初めてできたおまえのガールフレンドに俺が会ってみたいのさ。その後は鴻杏(こうあん)ちゃんを誘ってデートにでも行って来い」


と言ってくれた。関羽のおっさんの温かい親心が流れ込んで来るのが素直にうれしい。


「あ、そうだ。平と仲直りしてくれたらしいな。ああ見えて、あいつは融通が利かなくて負けず嫌いなんだよ。まったく、変な所ばっかり俺に似やがって。興、ありがとな」


(そこが“弟”みたいで可愛くって、つい構いたくなるんだ)

いかんいかん。オレの方が弟なんだった。オレはぐっと言葉を飲み込んだ。


 -◇-


オレたちは河賊が根城の一つとする上蔡の港を前に張遼と合流すると、挨拶もそこそこに早速軍議を開いた。


「雲長殿。こたびは遠い所、河賊討伐の救援にお越しいただき誠に感謝する。チビちゃんも来てくれてありがとな。あ、おまえ元服したんだって?じゃあチビちゃんはまずいか…だが俺のようなおっさんに興ちゃんと呼ばれるのは気持ち悪りぃだろうし」


「興って呼び捨てでいいですよ」


「そうか、助かる。おまえの方こそ、俺が安東将軍だからって畏まらずに昔のように接してくれていいぞ」


そういうことなら遠慮なく。


「あのさ、討伐っていうけど。淮河に跋扈する河賊って、賈逵(かき)が航行税を増税する前は、もともと水運業を営む者たちだったわけだろ。いくら叛逆者とはいえ、食うに困って河賊になっただけだから、皆殺しにするのは酷だと思うぞ。見せしめに首魁を殺せば、残りは帰順を許してやった方が、軍の損害が少なくて済む」


「うむ。まずは河賊と一戦交えて、お上の水軍は強いと認識させよう」


上蔡では、艨衝(もうしょう)を繰り出して河賊の船の横腹へ舳をぶつけた。そして熊手や鉤を舷へ引っ掛け、瞬く間に河賊の船を(くつがえ)し戦闘不能に陥らせると、河に投げ出された者を引き揚げ捕虜とした。


また平輿では、楼船から多数の矢を放ち威嚇しつつ河賊の船に接舷すると、オレは張遼や荒くれ者の錦帆賊の兵とともに、河賊のザコどもを蹴散らし、ひらりと敵の船中へ跳び移った。船中の賊七、八人に斬りつけ傷を負わせる間に、錦帆賊の兵らは奮闘して船内を征圧していた。


河賊はこの二戦ですっかり胆を潰したらしく、以後我が軍の艦隊を見るや戦意を失い、根城の港を捨ててたちまち逃亡した。


そうして河賊の残党を固始の港に追い詰めると、日時を決めて総攻撃を開始した。関羽のおっさんと張遼は陸側から港を包囲し攻撃を開始。城攻めの猛攻で、危ういと見た敵は船に乗って淮河へと逃げる。が、河賊の船を逃がさないように、オレの艦隊が遠巻きに待ち構えていた。


今はこれまでとばかり一艘の河賊の船が旗艦に向かい、果敢に戦いを挑む。船の操舵は得意らしく、包囲網を適確に縫いながら、快速船の艨衝(もうしょう)のごときスピードで体当たりを仕掛けて来た。が、我が荊州軍の船体は、最外面に厚さ10mmの鉄板に衝撃吸収用ハニカム素材を施した頑丈な構造。所詮、木造船のぬるい攻撃ではビクともしない。

もはや逃れるすべはないと悟った河賊の首領は、足下の快速船から大声で叫ぶ。


「こたびの叛乱を煽動した河賊の首領・裴元紹(はいげんしょう)と申す。艦隊の大将にどうしても言わねばならぬことがある!」


オレは前に進み出て、


「関興だ。裴元紹(はいげんしょう)とやら、聴かせてもらおう」


と威厳を正して答えた…つもりなのに、裴元紹(はいげんしょう)は顔を真っ赤にして怒り、


「こんな年端も行かぬ少年が艦隊の大将なわけがなかろう!河賊と思って俺たちを馬鹿にしやがって!さっさと出て来いっ、怖じ気づいたか?!」


いちいち反論するのが面倒臭くなったオレは、弓を構え裴元紹(はいげんしょう)(まげ)に向かって矢を放つ。矢は正確に狙いを捉え、(まげ)を結っていた紐(元結)を切り裂き、裴元紹(はいげんしょう)はザンバラ髪になった。面食らう裴元紹(はいげんしょう)に、


「これでオレが艦長だと信じてもらえたか?」


「くっ……お、俺と一騎討ちで勝負しろ!」


「くだらん。勝負してどうする?もしもおまえが勝ったら?」


俺を逃がせと言うんだろ、馬鹿馬鹿しい。


「俺が勝ったら、勝者の顔に免じて、河賊になり果てた奴らを全員、無罪放免で許してやってくれ」


ほう。裴元紹(はいげんしょう)め、賊のくせに部下思いでなかなか見所があるではないか。


「では、もしもおまえが負けたら?」


「俺の首をくれてやる」


それだけかよ?!オレは呆れて、


「おい裴元紹(はいげんしょう)……勝っても負けても、こちらにメリットがないではないか?!」

「いや、あるぞ。あんたが勝っても負けても、河賊は解散することを誓う。そしたら反乱が鎮圧されるのだ、朝廷から褒賞が貰えるだろーが!」


「いいじゃねぇか、興。おまえの実力を見せつけてやれ」


勝利目前でご機嫌な大将様(=張遼)は勝手なことを言いやがる。

やれやれ、エキシビジョンとして受けてやるか。オレは一騎討ちに応じ、船を下りると短戟を手に取り身構えた。


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