[非公式]関興を皇帝に祭り上げようと謀む怪しげな六人
関平君が関興と仲直りする少し前の出来事です。
「あの小さかった興も元服か。月日が経つのは早いものだな」
激動の十一年間を振り返った父上が、感慨深そうに話す。絶世の美少女である娘の蘭玉は残念そうに、
「でも半年遅かったわ。せめてあの時、学園でプロポーズする前に元服していれば、甄洛副会長だって絶対兄兄になびいてたと思う」
「ああ。そうなりゃ、国一番の権力者の跡継ぎである曹丕からチビちゃんが婚約者を寝取って、赤っ恥をかかせられたのになぁ」
と、変態イケメン将軍の甘寧も蘭玉の意見に同調する。
「まさかあの場面で曹沖の野郎がしゃしゃり出て、甄洛副会長を横取りするとは……」
「そうね。蘭玉、曹沖様は絶対兄兄狙いだと思ってたもん!」
「駄目だ駄目だ!チビちゃんはずっと前から俺が目をつけていた、花郎に担ぐべき逸材。曹沖の野郎には断じて譲れん!」
「もちろんよ!兄兄は蘭玉のもの。小さい頃から「大きくなったら蘭玉は兄兄のお嫁さんになるぅ♡」って甘えん坊作戦を続けてたんだし、兄兄だって満更でもなかったんだから!」
「嬢ちゃんはブリッコだったのか~オジさんは参った!」
わははと大笑いして盛り上がる二人に、劉舞が首を傾げて、
「あのさ。二人とも興ちゃんのことが大好きなのはよ~く分かるけど、冷静に考えてみてよ。曹沖様と興ちゃんを比べるまでもなく、イケメンプリンスの曹沖様の方が段前スペックは上じゃない?美青年の平様ならまだしも、モブ顔の興ちゃんのどこがそんなにいいのかしら?」
「「は?」」
劉舞の棘のある質問に、蘭玉と甘寧がすかさず反応する。
「お言葉ですが、舞姉さまは目が曇ってるんじゃありませんこと?
舞姉さまはモブ顔とからかうけれど、兄兄の人懐っこい笑顔にはキュンって母性本能をくすぐられちゃうし、なにより自分の危険を顧みず、絶体絶命のピンチを救ってくれるヒーローに心がときめくのは当然だと思いますわ」
「ああ。チビちゃん本人はまったく気にしていないようだが、あいつに救われ感謝している人間は数えきれないほど多いんだぞ!荀彧・周瑜・孫紹・沈友……かく言う俺もその一人だがな。
それにチビちゃんは普段はへらっとしてて全然パッとしないが、いざ戦いとなればキリリッと真剣な目つきで指揮を執る。知恵も勇気もある上に、武術の腕前も秀でてやがる。それでいて将校に過酷な命令を下すでもなく、一兵卒に至るまで大事に扱ってくれるんだ。あんな鮮やかな作戦を立てて見事な勝利を収める姿にホレない奴はいねぇよ」
と熱弁する二人。劉舞も観念して、
「はいはい、もう私の認識が変でいいわ。あなた達が平様LOVEなら悔しくて反論したくなるけれど、興ちゃんだったらお好きにどうぞ?って感じだし。でも実際、甄洛の方も興ちゃんに対して満更でもなかったのは確かなのよねぇ。「興ちゃんのファーストキスを奪っちゃった♡」とか際どい冗談を言ったり」
「!! 聞き捨てなりませんわ!」
「やぁね、蘭玉ちゃんったら。ただの冗談よ!本気なわけないじゃない。でも、本気で曹魏にギャフンと言わせたいんだったら、曹沖様から興ちゃんが甄洛をNTRするのは、それほど難しくないような気がするわ。
っていうか鄧艾、学園では興ちゃんの従者だったんだから、その辺の事情に詳しいんじゃないの?あんた、興ちゃんと一緒に私たちが入浴中の女風呂を覗いた前科があるんだし」
「うっわ、キモッ!こんな変態とは離婚を考えざるを得ないわね」
嫁の華から白い目で見られた鄧艾は、動転してしどろもどろになり、
「……お、俺は若が学園にいる間、兵法の教室に通っていたから、若の学園生活のことは知らん」
「かーっ、もう肝心な時にお嬢様の役に立てないんだから!」
鄧艾のそっけない返事に腹を立てる華。
「まあ待て。今日ここに集った関羽・関蘭玉・劉舞・龐統・甘寧・鄧艾の六人は、「興を皇帝に祭り上げる会」の幹事なのだ。仲間割れは良くない」
と父上が彼らの口喧嘩を制止する。
だが待って欲しい。興と跡継ぎの座を争うライバル関係にある僕が選ばれないのは当然として、妻の舞がメンバーに入っているのはどういうわけだ?いや、そもそも「興を皇帝に祭り上げる会」とやらを、どうして僕の目の前で開催する必要があるのだろうか?
鄧艾がおずおずと手を挙げて、
「あのぅ。ずっと若のそばに付いてた俺の印象なんですけど、どうも若には皇帝になりたいなんて願望はなさそうなんですよねぇ…」
「はぁ……牛飼い野郎は分かってねぇな。だからこうして俺たち六人が集まり、秘かにチビちゃんを後押ししようとしてるんじゃないか!」
「そういうことだ。興をその気にさせる、何かいいアイデアがないものか?」
と、僕の疑問をまるっきり無視して始まった本日の議題に対し、蘭玉がハイッと威勢よく手を挙げて発言した。
「曹操は漢を滅ぼして自分が皇帝になる気満々じゃない?でも曹操は五十六歳、どうせもうすぐ死ぬんじゃないかしら。そこで兄兄にそっくりの曹林様を、曹魏の二代目に据えちゃうの。
でも曹林様はおバカさんだから、後宮に引っ込んで遊び呆け、政治を顧みないに違いない。仕方がないから、兄兄が曹林様と入れ替わって政務を執り始めるわ」
「ほう、それで?」
「しばらく経って曹林様を秘かに暗殺したって、身替わりの兄兄が偽物だなんて誰も分かりゃしない。兄兄はそのまま曹魏の二代皇帝を継続し、天下統一を果たす名君になりました……って作戦はどうかしら?」
得意満面で披露する蘭玉。
「さ、さすがにちと過激すぎるな。興が実兄の曹林を殺すことに同意するとは思えん」
十歳の美少女が立てたとは思えぬ血生臭い計略に青ざめる父上。
すかさず龐統が疑問を呈し、
「わしの調べによると、曹操は曹沖を跡継ぎに立てたはず。今さら曹沖を排して曹林を二代目に据えるのはなかなか難しかろう」
と蘭玉説の弱点を衝く。だが蘭玉は自信満々に、
「簡単よ!お父様、すぐに蘭玉を曹林様に嫁がせてちょうだい。
孫紹様にも同意を取り付け、荊州・揚州が全面バックアップすれば、曹操も再考して曹沖様から曹林様に太子の座を替えるんじゃないかしら。蘭玉、兄兄を皇帝にするためなら、この身を犠牲にする覚悟はできてるわ!」
と悲壮感たっぷりに力説する。
「蘭玉ちゃんったら幼気な少女なのに、そこまで興ちゃんのことを…」
と皆が感動のあまり涙を流す中、ふと思い当たった甘寧が、
「……まさか嬢ちゃん、本物の曹林を殺した後も、素知らぬ顔でチビちゃんの嫁に居座るつもりか?」
「チッ、バレたか。せっかく兄妹同士でも合法的に兄兄とアハンウフンできる一石二鳥の策だと思ったのに」
「…………」
メンバー達は、改めて蘭玉の異常な兄兄LOVEに呆れるとともに、目的のためなら手段を選ばない空恐ろしい知謀に戦慄した。
しばしの沈黙を破るように、甘寧が口を開き、
「なあ、俺の作戦を聞いてくれ。
鳳雛軍師によれば、曹操の跡継ぎは曹沖に決まったんだろう?その曹沖なんだが、蘭玉嬢ちゃんが直感をはたらかせ、かつ俺の股間にあるモーホーセンサーがビンビンに勃ちまくってるように、たぶんチビちゃんに惚れてるのは間違いない。
だったら、二代皇帝となった曹沖をチビちゃんがタラシ込めば、三代目はチビちゃんに譲ってくれるのではないか?」
(馬鹿馬鹿しい。そんな都合よく行くわけが……)
僕は思わず鼻で笑ったが、龐統が真顔で甘寧の話を肯定した。
「いや、歴史上実際に例がある。若くして死んだ前漢の哀帝は、実現はしなかったがおホモ達の董賢に帝位を譲ると遺言を残したし、噂によれば遠く離れたローマ帝国でも、ヘリオガバルスとかいう皇帝が実際におホモ達を共同統治の皇帝に指名したらしい」
甘寧は我が意を得たりとばかり、
「だろ!?そこでだ、俺様が童貞のチビちゃんを手取り足取りチ〇ポ取り開発して、性技を仕込んでやれば、チビちゃんは曹沖を誘惑しメス堕ちさせて……ぐほぉっ」
と語る甘寧の顔に、劉舞の侍女である華の拳が炸裂した。甘寧は鼻血を噴き出しながら床をのたうち回る。
「コホン。皆様、失礼しました。舞お嬢様の親友である甄洛様の婿殿に対して、碌でもないこの男が口にした穢らわしい発言については、このとおり娘の私が制裁しましたので、これにてご容赦を」
(いや、曹沖のことよりも興をおもちゃにする発言の方はスルーかよ?!あいつ、華の主君の令息なんだぜ…)
さすがに僕は興を不憫に感じた。
議長の父上は冷や汗を流しながら、
「ま、まあ、気を取り直して。他に良い策はないか?」




