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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第一部・関興転生編
16/271

16.関羽、ひとり幽州に駆ける

俺が幽州に向けて北の街道を駆けていると、汜水関で反董卓軍の兵に行く手を妨害された。

どうやら華雄という董卓軍の都尉が、鮑忠・兪渉ら反董卓軍が繰り出した武将を相手に無双しているらしい。


「だ、誰か華雄の相手になる者はおらぬか?!」


関東の群雄たちは恐慌をきたし、誰か華雄と一騎討ちの相手になる武人を探していたが、自分の手駒を討ち取られて戦力ダウンを避けたい群雄は、お互いに出陣を譲り合っていた。かといって、華雄に負けを認めたくないそうだ。

ケッ、くだらないプライドで俺の行く手を邪魔するな!


俺は戦場に飛び出し、名乗りを上げた。


「河東の関雲長見参。俺が貴公のお相手を致す」


「関雲長だと?聞いたこともないわ。どうせ今までの雑魚と同じだろーが。少しは骨のある奴を出しやがれ!わしは退屈なんじゃ」


余裕をかます華雄相手に、俺は青龍偃月刀を片手に猛然と討ちかかる。華雄は俺の一刀を受けようと戟を構えるが、俺はかまわずその戟ごと斬り捨てた。


「ぐあああーっ!」


断末魔の叫びとともに華雄の首が刎ね飛んだ。わずか一合で決まった勝利に、反董卓軍では陣太鼓の音に続いて大きなときの声が上がった。


「ひ、引けーっ!」


先ほどまで威勢のよかった董卓軍が、さーっと逃げ帰る。それを追撃する関東の群雄たち。

俺は沸立つ戦場を顧みることなく、一人そのまま北に向かって行った。




南陽郡を旅立つこと三千里、十日目にして幽州の都城に到着した。


「劉和様より派遣された使いの者です。(りゅう)()様にお伝えしたい儀がございます!お取次ぎのほど、よろしくお願いいたします」


城門でそう告げると、すぐに(りゅう)()様への謁見が叶った。


「劉和様にお仕えする関羽と申します。劉和様より天子様の勅命をお預かりし、幽州までお届けに上がりました」


「うむ、大儀であった。ふみをこれへ」


俺が従者を介して密勅を渡すと、(りゅう)()様はすぐに開いて目にした。


「こ、これは……!」


(りゅう)()様は表情を改め、咎めるような厳しい目つきで俺に問う。


「関羽とやら。おまえは劉和の使者と述べたが、息子はどうした?」


「自分は劉和様とともに都を出発しましたが、劉和様は南陽郡の袁術の陣で拘束されてしまいました。自分は劉和様から、密勅を届けることを優先しろと強く命じられておりましたので、一人幽州まで届けに参った次第です」


「おまえは密勅を開いて中を覗いたか?」


「いいえ、そのような非礼なことはしておりません」


「袁紹や韓馥がおまえに接触を図ったことは?」


「ございません」


「彼らが秘かに主上への反逆を謀り、口に出すのも穢らわしい恥ずべき行いをこの私に要請したことを知っておるか?」


「存じません」


「そうか。では勅命の中身について、劉和から何か聞いておらぬか?」


「自分が劉和様から伺ったのは、天子様は董卓の元より逃げて洛陽に戻りたいと仰せになったので、劉和様は(りゅう)()様より兵を借りて天子様を救い出さんとの決意を述べられました。なお、この密勅は(りゅう)()様以外の者に決して渡してはならぬ、と厳命されました」


「……なるほど。おまえは嘘は申していないようだな」


ふうっと大きく息を吐き出した(りゅう)()様は居住まいを正すと、


「私の所に遠路はるばる届けてくれたことには感謝するが、()()()()は受け取れぬ」


衝撃的な回答とともに、劉和様から預かった密勅を俺に返した。


「ですが!劉和様の決意と天子様の希望は……」


「もしおまえが望むのであれば、()()()()()()()()()()()()()()については、聞き届けてやらぬでもない。

しかし、だ。幽州は異民族と国境を接しており、防備の兵士を割いてまでおまえに兵を与えるわけにはいかぬ。

義勇兵を募り、おまえが将となって彼らを率い長安に向かえばよい。資金と兵糧は責任をもって私が用立てしよう」


「……畏まりました。ご協力感謝申し上げます」


俺は儀礼的にお礼を述べた。だが、(りゅう)()様の提案どおりに行動する気はなかった。

俺の主人は劉和様一人だ。会ったこともない雲の上の存在である天子様に、義理立てする筋合いはない。前にも言ったとおりだ。

それより俺にとって大切なのは、劉和様の身の安全だ。今すぐ南陽郡に劉和様を救いに行きたい。


その時、早馬に乗った使者が(りゅう)()様の元にやって来た。


「申し上げます!袁術に捕らえられていた劉和様が、牢より脱獄を図り失敗。袁術の獄吏に殺害されました」


まさか、そんな……!


「うおぉーっ!」


俺は劉和様を悼んで慟哭した。


俺が劉和様を見捨てて幽州に向かったばっかりに。

長安から関所を避けるために、俺が劉和様に抜け道を案内して南陽郡を訪れたばっかりに。


―― 俺 が 劉 和 様 を 殺 し た。


俺は自らを呪った。

仇を討つ。袁術を殺す。それが終わったら、劉和様の跡を追って殉死する。

そう決めた。


一方、劉和様が不仲の袁術に拘束されたとの報告を俺から聞いた(りゅう)()様は、こうなることを予感していたらしく、気丈に振舞っていた。


「関羽よ。密勅の中に、おまえ宛ての文が挟まっておった。心して読むがいい」


(りゅう)()様は俺に文を渡してくれた。


◇◆◇◆◇


 関羽よ。

 この文を読む頃には、おまえは無事に幽州に到着したのだと思う。

 ありがとう。私の願いを聞き届けてくれたのだな。

 しかし父上は、おまえが届けた密勅を決して承服しまい。

 失望してはならぬ。憤慨してもならぬ。

 何故なら密勅に記された主上の希望は、私が()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 おまえは立派に使命を果たした。

 密勅のことはきれいさっぱり忘れて、この先は自由に生きよ。

 途中で私が落命しても、決して仇を討とうと考えてはならぬ。

 私の希望を叶えるために、命を賭けて主上を救おうとしてもならぬ。

 私の跡を追って殉死しようなど、もってのほかだ。

 いくら主従の関係とはいえ、私がおまえの命を軽々しく扱うべきではないからだ。

 おまえは私の教えを忠実に守り、武芸一辺倒にならず学問に力を入れた。悔やまれるのは、おまえを将軍の地位に推薦してやれなかったことだ。申し訳なく思う。

 私に成り代わり、今の世の塗炭の苦しみから民衆を救い出し、中州を慰撫してやってくれ。おまえにはその力がある。頼んだぞ。

 最後に、私の本貫である徐州東海郡に足を運んだ時は、私の墓におまえの近況を報告して欲しい。いつまでもおまえの活躍を見守っている。

 ありがとう。おまえの主人となれたことを誇りに思う。

   劉和


次回。劉和が死んで自暴自棄となった関羽。そんな彼の前に現れた義勇軍の首領・劉備。成り上がりたい野心が見える劉備に嫌悪を抱くが、敬慕する劉和と義兄弟だったと称する劉備に、関羽は救いを感じ……。お楽しみに!

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