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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第六部・哀惜師友編
156/271

142.関平、弟は謀叛人ではないかと疑う

前回から随分と時間が経っての更新ですみませんm(_ _)m。

年明け早々に義父が亡くなり、葬式の手配やそれに続く法事、そして親戚間のトラブルとかに巻き込まれて、ごっそり精神を削られてしまいました。

本当は二,三回でサクッと終わらせる予定だったのですが、物語の設定を自分の中で再確認したい意味も込めて、昔の回想の場面を長めに書いております。


◇関平の回想


そして、忘れもしない西平の戦い。

突如曹魏の兵三万五千が、我が唐県に向かって侵攻中という急報が入った。父上は劉備将軍に援軍を要請したが、帰って来た言葉はまさかの拒否。僕らは絶望の淵に追い込まれた。


父上は討死を覚悟で一人迎撃に向かう。皆が(おび)えて参戦をためらう中、興は(ひる)むことなく父上の後に従い、険阻な地形を利用して逆包囲する作戦を授け――実はフェイクだったが――敵を撤退に追い込んだ。もちろん、仁王立ちとなって防いだ父上の武勇を敵が恐れたことは間違いない。が、一番の手柄はわずか四歳の興の知謀であったことは明らかだ。


一兵も損ねることなく曹魏軍を撃退した父上は、その軍功を讃えられ、荊州牧・劉表殿の絶大な信頼を得た。僕と舞の婚約の話もたぶんこの時に決まったのだと思う。十二歳の思春期真っ只中だった僕は、まだ女の子に恋をした経験もないのにいきなり政略結婚に巻き込まれ動揺した。


一方、敵である曹操に気に入られた興は、都に招聘されることになった。待遇の差に僕はちょっぴり嫉妬して、


「どうして弟の興ばっかり?」


と不平を言った。父上は聞こえなかったのか、悲しそうな顔で興の出立を見送り、


「……興をこんな僻地で終わらせるわけにはいかない。曹操閣下のもとに送り出してやる方が、あいつの幸せのためになるんだ」


とつぶやいた。自分に言い聞かせたのだろうか、まるで興がもう戻って来ることはないと別れを告げるかのように。


「父上、それはどういう意味ですか?」


「……嫡男のおまえには話しておかねばならぬな。

 興の母親は今、曹操閣下の妃となっておる。つまり、興は曹操閣下の義理の息子にあたるのだ。いや、俺に似ずあれだけ賢いのだから、あるいは本当に閣下の実子かもしれぬ」


「そんな……」


初めて知った衝撃の事実。弟の興とは、敵と味方に分かれて戦わなければならないかもしれないなんて!いやそれよりも、興が敵である曹操の縁戚だったとは!


だけど、興は僕たちのいる荊州に戻って来た。

僕はホッと安心した反面、ある疑念が脳裏から離れなかった。曹操とは義理の親子であり、敵将にも才能を認められた興は、果たして僕たちの味方であり続けるのだろうか?


 -◇-


許都から帰った興は、漢の天子様を(ないがし)ろにし、逆賊の曹操を擁護する言動が多く見られるようになった。

家庭教師の士仁先生がいつものように漢を賛美し、


「……したがって漢の臣たる我々は、天子様を奉じて尊ばなければなりません」


と話を結ぶと、興は呆れたように、


「しかし漢の皇帝の権威は衰え、もはや権臣の曹操の力に頼らなければ国を治めることができないのは明白です。泰平の世をもたらすために各々が力を尽くすことに異論はありませんが、どうして皇帝を尊んで漢を永続させなければならないのか、まったく理解できません」


と質問した。儒者の士仁先生はうんざりして、


「興君には忠義の心がないのですか?あなたにとって今の天子様はやや不甲斐ないのかもしれませんが、漢を興した高祖・劉邦は偉大な御方なのです。彼の血を継ぐ天子様を尊ぶのは当然のことでしょう」


「でも後漢の初代となった光武帝は、王莽の樹立した新王朝末期の大乱の際、前漢最後に帝位に即いていた孺子(劉嬰)を排除して王朝を築きました。正統な後継者であるはずの孺子を殺して国を奪った人の子孫を尊ぶことが忠義と言われても、意味が分かりません」


「確かに興君は漢の歴史についてよく学んでいますね。ですが、表面的な知識しか知らないのは残念です。

 劉嬰こと孺子は、前漢の正統な後継者どころか、簒奪者の王莽が禅譲を目論んで担いだ傀儡のニセ天子。彼を倒すことこそ正義であって、光武帝の栄誉と忠誠心を傷つけるものではありません。つまり光武帝は決して国を奪ったわけではなく、国をあるべき姿に戻した中興の祖ともいうべき偉大な御方なのです。お分かりですかな?」


士仁先生は、理論武装は完璧だとばかりにニヤリと笑う。ところが興は平然と、


「へーそうなんですか。その理屈が許容されるならば、今の天子様は、いずれ禅譲を強請(ゆす)るつもりだった逆賊の董卓が担いだ傀儡。先生の言葉を借りれば、ニセ天子ということになるのではありませんか?

献帝がニセ天子なら、仮に曹操が彼を廃して自分が皇帝に昇っても、儒者のあなたに非難される道理はありませんよね」


と逆にやり込めた。士仁先生はワナワナと震え、


「だ、黙らっしゃい!いくら劉表殿の信任厚い関羽将軍の子息とはいえ、こんな謀叛人のごとき屁理屈を述べるガキに教えることなどないっ!(それがし)は失礼する」


と激怒して席を立ち上がった。僕は慌てて興を叱りつけ、今の言葉を撤回するように命じたが、興は言うことを聞かず、


「オレは謀叛人で、儒者のあんたは忠義の人、か。いずれ曹魏が荊州に攻め込んで来た時に、あんたがどのような行動を取るのか見ものだな。

 あ、兄上。オレにかまわず授業を受けて下さい。オレはこの御仁から学ぶべきことは、なに一つありませんので」


と皮肉を言って出て行った。士仁先生は忠告して、


「関平君、気をつけなさい。弟君の優秀さは認めざるを得ませんが、自分の才能を鼻にかけて、関羽将軍の後継者の地位をあなたから奪うつもりかもしれません。気を許してはなりませんぞ!」


「肝に銘じます」


僕も深く同意した。


そのうち興は、贋金作りやら商家の乗っ取りやら河賊を誘って船を強奪するやら、以前にも増して阿漕(あこぎ)な真似をするようになった。荒稼ぎした金で、軍船や武器を調達し始め、


「今のうちに、来たる戦いに備えておかねばなりません」


と口ぐせのように唱えた。僕は咎めて、


「荊州は十万の軍勢を擁し、劉備将軍や父上・趙雲殿など一騎当千の武将が守る、曹操ですら恐れて容易に侵攻できない大国。何をそんなに焦ってるんだい?」


「兄上、それは違います。戦争は武将のステータスや兵士の数で決まるものではありません。兵の士気とそれを指揮する将軍の統率力が勝負の行方を左右するのです」


興は軍師然とした澄まし顔でそう答え、


「荊州は長年の平和に馴れ、曹魏と比べて兵の士気は振るわず戦争経験が極端に少ない。今までは北の袁軍閥と同盟を結んでなんとか曹操に対抗していましたが、袁尚らがいずれ滅ぼされれば、この先荊州単独で曹操にあたらざるを得ないでしょう。

さらに長江の制水権をめぐって南の孫呉とは仇敵の間柄。荊州牧の劉表殿では二方面から敵の攻撃に耐えることは不可能です」


「そのために劉表殿は、劉備将軍を新野の守りに就かせたんじゃないか。それに江夏の黄祖も頼りになる」


と僕は反論した。興は鼻で笑って、


「まだそんな世迷い言を。先の西平の戦いで、劉備のクソ野郎が我が軍にした仕打ちを兄上は忘れたのですか?口では勇ましい開戦論を唱えておきながら、いざとなると戦場から真っ先に逃げ出す情けない弱虫が、奴の正体ではありませんか!

 このまま荊州が北から曹操に侵攻され南は孫権に蹂躙されるのを、オレは黙って座視できません」


「だからと言って、仁義にもとる悪業をして良いという理由にはならないぞ」


「……兄上は潔癖に過ぎますね。そこが可愛い所でもありますが。弱肉強食の乱世を生き残るためには、汚れ仕事も厭わない覚悟を持たないと、良い領主にはなれませんよ」


「なんだと?!」


「いえ、こちらの話。もし悪業が祟って地獄に落ちるというなら、オレは甘んじて受けます」


「興……」


(かたく)なに改心を拒む興に僕は呆れ、そして無性に腹が立った。


>後漢の初代となった光武帝は、王莽の樹立した新王朝末期の大乱の際、前漢最後に帝位に即いていた孺子(劉嬰)を排除して王朝を築きました。正統な後継者であるはずの孺子を殺して国を奪った


正確には、王莽が担いだ孺子(劉嬰)を殺したのは緑林軍の更始帝であり、劉秀(後の光武帝)は更始帝に仕える一武将にすぎませんでした。が、劉嬰の殺害を咎めなかった劉秀は、劉嬰を見殺しにした結果、後漢を築くことに成功したと(はた)(あきら)は認識しているようです。ただ、光武帝は天下を安定に導いた名君だと、高く評価しています。


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