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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第一部・関興転生編
15/271

15.劉和、袁術の邪悪なたくらみを見抜く

不運なことに、南陽郡には関東の有力豪族である袁術が陣を張っていた。


汝南袁氏は四世にわたって三公を輩出し、清流派名門の本流として名望が高く、その嫡流を自負する袁術は、特に気位の高い人物であった。

朝廷に蔓延はびこる宦官の勢力を一掃したものの、献帝を擁立した董卓に手柄をすべて横取りされた袁術は、董卓を怨んでいた。さらに董卓は叔父の司徒・袁隗を無実の罪で誅殺したため、袁術は反董卓勢力の旗頭となった。


そんな袁術が、董卓が牛耳る朝廷に仕える劉和様を快く思うはずもない。案の定、袁術は劉和様の通行を妨げ、ひとり本陣に連れ込んで詰問した。


「少帝を廃し朝廷を乱す董卓ごときに仕えるおまえが、どの面下げて今さら関東に逃げて来たのだ?」


声を荒げる袁術に対し劉和様は澄まし顔で、


「私は国家に忠誠を尽くしておるのみです。董卓なんぞ相手にしておりませぬ。

逃げたとのお言葉ですが、洛陽の都では虎賁中郎将の位にあった袁術殿の方こそ、主上をお見捨てになり関東に走ったものと、私は記憶しておりますが。

私は非才の身なれど、今なお主上に仕え、容易に節を曲げることなど致しません」


「ぐぬぬ。ならばおまえは、何故いま長安を離れ関東に至ったのだ?」


「遷都したばかりでなお不足しがちな食糧の調達を、私に依頼されたまで」


劉和様は、あらぬ噂が広まるのを恐れ、父君の(りゅう)()様を大司馬に昇任させる詔勅をもたらす、本来の目的すら口にしなかった。


「主上を見限り、長安から逃げて来たのではないと?」


「もちろんです」


「これは失礼つかまつった。劉和殿の主上への忠勤を試したまでじゃ。許されよ」


と袁術が態度を変えた。ホッとした劉和様も頭を下げて、


「いえ。私も大人げなく、ご親族を亡くした袁術殿のお気持ちに配慮することなく皮肉を返してしまいました。ご容赦ください」


「よいよい。それで、侍中として主上にお仕えする劉和殿が、関東に来た本当の目的は何ですかな?まさか食糧の調達が本心ではなかろうに」


袁術は猫なで声で劉和様に尋ねる。扇子で口元を隠した袁術は声を潜めて、


「実はのう、従兄弟の袁紹から相談があったのじゃ。

廃帝亡き今、新たに立った幼帝にこの乱世を収める資質があろうはずもない。それに逆賊の董卓に擁立され、洛陽の都を捨てた幼帝なんぞ正統性の欠片もない。

ここは我らで新帝を擁立すべきではないか、と」


劉和様は穢らわしい話を耳にして、顔をしかめる。


「わしはな、そのような恐れ多いことは今、口にして善いことではないと袁紹を諫めたのじゃ。それに逆賊の董卓が乱心して漢を滅ぼし自ら皇帝を名乗れば、奴を倒した者こそ新たな王朝の皇帝に即位できるやもしれん。そうではないか?」


「私は嘘偽りなく、食糧の調達が目的だとお答えしたのですがねえ」


なるほど、劉和様は袁術を信用ならぬ者と嫌っておるようだ。袁術はいら立って、


「わしには孫堅という剛の者が控えておる。そなたの口を割らせることくらい簡単じゃ。わしの機嫌が悪くならないうちに話した方が身のためじゃぞ!」


「私にも関羽という剛の者がおります。あの暴虐な董卓ですら一目置く武人です。貴殿の脅しは通用しませぬ」


「されど、たかが武人一人。孫堅は万の兵卒を率いておる。どちらが有利か分からぬそなたでもあるまいに」


「なに、万の兵ですと?!」


劉和様は大いに驚いたふりをして、


「これは失礼した。袁術殿に万の兵を率いる剛の者が付いているとは心強い。そういうことであれば、私も本心を打ち明けましょう。

実は、主上は長安の董卓の元を離れ、洛陽に帰還したいとの思し召しなのです。

董卓に対抗するには十分な兵が必要。いま関東諸軍が虎牢関で董卓軍と戦っている隙に、間道を通って長安を衝けば主上をお救いできるやもしれぬ。

私はこの機会に、ともに大義を計ってくれる同志を探しておったのです!」


「おお!この袁術、主上の御力に添えるとは名誉なこと。いくらでも劉和殿に協力しますぞ。ただ……」


袁術は卑しい顔を歪ませニヤリと笑って、


「主上を董卓の元からお救いした後の件でござる。侍中の劉和殿を疑うわけではござらぬが、主上の思し召しに沿ったとの大義名分が欲しいのじゃ。

あるのじゃろう?主上から授かった密勅が!」


「はて?私の公務は食糧の調達、いま話した長安から主上をお救いする計略はあくまでも私の一存。主上は一切ご存じないことです。もちろん、大義を果たした後は主上より格別の褒賞が授けられるでしょうが……密勅とはいったい何のことですかな?」


「とぼけずともよい。四世三公を輩出した名門・袁家のわしが、朝廷のしきたりを知らぬわけがあるまい。さあ、早く密勅をわしに渡せ」


「……」


「そなたを捕縛し、謀叛の罪で董卓に引き渡してもよいのじゃぞ」


劉和様は、もはやこれまでと覚悟を決め、


「黙れ!謀叛人は袁術、おまえの方だ!

袁紹がはかった新帝擁立の案を諫めたのは、忠義の心からではなく、自ら皇位を望む邪悪な企みが真の理由ではないかっ!

主上を見捨てて洛陽から逃げた上、臣下が協力して漢室のために尽力すべき時に、かえって反逆をはかり恥辱にまみれた穢らわしい言葉を口にするとは言語道断!天下に謝罪し、潔く自刎せよ!」


「うぬ!この豎子じゅしめっ、言わせておけば。口を慎め!」


袁術は劉和様を殺そうとしたが、左右の者に止められ、やむなく劉和様を牢に閉じ込めた。牢では劉和様は殴る蹴るの暴行を加えられ、衣服を剥がされて身体を隈なく探られたが、密勅は見つからない。部下の孫堅が上奏し、


「袁術様。謀叛人の劉和が隠し持っていたのは、幽州刺史の(りゅう)()を大司馬に昇任させる詔勅のみです」


「そんなはずは……。もしや、関羽とかいう剛の者に預けたのか?」


(関羽、あとは頼んだぞ)


劉和様は痛みと屈辱に耐え、そっと目を閉じた。

袁術は孫堅と配下の兵に命じ、本陣の外で待つ俺を取り囲んだ。


「関羽とやら、謀叛人の劉和から預かった物を渡せ!」


俺は本陣の中で起こった事のすべてを悟った。劉和様との約束どおり、身命を賭して幽州刺史の(りゅう)()様に密勅を届けなければならない。

俺は青龍偃月刀を構えて群がる兵どもを斬り捨て、血路を開いて逃げ去った。


「追えっ!逃がすでないぞっ!」


早馬に乗る孫堅に追いつかれ横に並ばれたが、俺は冷静に早馬の脚を薙ぎ払った。横倒しになった早馬から落馬し、地面に投げ出される孫堅。


「くそっ!謀叛人めが!」


捨て台詞を吐く孫堅を尻目に、俺は悠々と逃げおおせた。


「劉和様、どうかご無事で……(りゅう)()様に密勅を届けたらすぐに救出に向かいます!」


俺はそうつぶやくと、涙をこらえ幽州に向けて単騎馬を駆けた。


次回。袁術に捕らわれた劉和に代わり、一人幽州に密勅を届けに向かう関羽。途中、汜水関では華雄が行く手を阻む。そして幽州にたどり着いた関羽を待つ衝撃の結末!お楽しみに!

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