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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第五部・学園離騒編
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128.ハッピーエンド

卒業したら箔が付くと言われる名門・帝立九品中正学園を退学処分となった秦朗=関興と(こう)(あん)ちゃんのその後の話です。

●建安十四年(209)十二月 許都の学園寮 ◇関興=秦朗


「うぇっ…うぇっ…秦朗君、ごべんなざい。私が(しん)(らく)副会長を助けてあげてなんて、無茶なお願いをしたばっかりに……」


(こう)(あん)が顔をぐしゃぐしゃにしてオレに謝る。せっかく可愛くアップに結った髪も化粧も台無しだ。


(こう)(あん)ちゃんのせいじゃないよ。オレ自身がうっかり曹丞相の地雷を踏んでしまったことが原因なんだから。それに、オレはもともと学園に通うつもりなんてなかったし」


「わぁ~ん!私を庇ってそんな強がりを言ってくれるなんて……」


いや、事実なんだけどな。楽しかった学園生活が終わることが残念に思う気持ちも、またオレの本音ではあるけれど。


それに曹麗に命じられていた、曹丕派のクラスメートに囲まれた曹沖の身辺警護の任務も、曹沖がめでたく曹操の後継者に選ばれたことで、オレはお役御免となった。今後は正式に近衛兵が曹沖の護衛に就くらしい。

つまり、オレが学園に残らなければならない理由もなくなったのだ。


念の入ったことにその日の夕刻、オレ宛てに曹操の丞相印璽が押された(ふみ)が届けられた。開けて見ると、大きく二文字で「追放」と書かれている。

馬鹿馬鹿しい。言われなくても明日には立ち去ってやるわ!

オレは(ふみ)をくしゃくしゃに丸め、ポイッと屑かごに捨てた。


「さてと。許都を立ち去る前に、(こう)(あん)ちゃんに聞いておきたいことがあるんだけど」


(こう)(あん)は覚悟した様子で秘密を打ち明け始めた。


「うん、分かってる。変なことを言って気味が悪いなんて思わずに聞いて欲しいんだけど。実は私、前世の記憶がある、この世界に生まれ変わった転生者なの」


……そうか、やはりな。女神孔明・呉範に続く三人目の同胞というわけか。


「驚かないでね。この世界は私が前世でプレイしていた乙女ゲーム『恋の三国志~乙女の野望』の舞台。そこでは帝立九品中正学園に入学したヒロインちゃんが、曹沖様や夏侯覇ら5人の攻略対象たちとイチャラブしようってストーリー。けっこう歴女にも人気があったのよ。

……あれっ?秦朗君はあんまり驚かないのね。曹沖様に話した時はびっくりしてたのに」


いや、驚いているとも。同じく転生者のオレですら乙女ゲームの舞台なんてトンデモ説には懐疑的なのに、まさか(こう)(あん)が曹沖にも打ち明けていて、異世界人である彼がその話をあっさりと受け容れたことに。


「それで、そのヒロインちゃんとやらが(こう)(あん)ちゃんなわけ?」


「ううん。私は悪役令嬢の取巻きのモブ。あっ!悪役令嬢ってね、ヒロインちゃんの恋路を邪魔する定番のライバル役なの。ゲームの中では曹麗様だったんだけど」


確かに曹麗様は怖いけど、悪役っていうほどひどい人間じゃないような。


「それは私が曹沖様と協力して、麗様が悪役令嬢にならないように矯正したからよ!」


と自信満々に答える(こう)(あん)。はあ、さようで。


「じゃあ、ヒロインちゃんっていったい誰?」


「董桃さん。本来は、曹沖様・夏侯楙(かこうぼう)・夏侯覇・荀粲(じゅんさん)・何晏の5人の攻略対象をそれぞれ落とせばゲームクリアなんだけど、まとめて5人全員をとりこにしちゃう逆ハーレムエンドっていうのもあり得るの」


うげっ。アイツかよ?!ぜんぜんヒロインらしくないやん!


「董桃さんは“ざまぁ”小説にありがちな駄目ヒロインの典型なんだけどね。それにこの世界の人たちだって、全然シナリオどおりに動いてくれないんだもん。

 いつの間にか(しん)(らく)副会長が悪役令嬢ポジションになってるし、ヒロインちゃんは逆ハーレムエンド狙いの曹丕殿下隠しルートを発掘しちゃうし。あ、私の推測では、董桃さんもきっと私と同じ転生者だと思うのよねー。

 それに人気ナンバーワンの攻略対象の曹沖様はヒロインちゃんをガン無視して、結局(しん)(らく)副会長との初恋を実らせちゃって(うらや)まし……あ、ごめんなさい。秦朗君の傷をえぐるようなことを」


「あ、いや。オレはなんとも……」


べ、べつにオレ、(しん)(らく)副会長に(途中で遮られたせいで)プロポーズしたわけじゃないし、曹沖があっさり攫って行っただけだから、(しん)(らく)にフラれたわけじゃないもん!あっ、何故か目から汗が……。


「こ、(こう)(あん)ちゃんは、君を裏切って(しん)(らく)副会長にプロポーズしようとしたオレの不誠実を許せるの?」


「あらっ?よく考えたらそうよね。今まで私、退学処分を喰らった秦朗君に申し訳ない気持ちでいっぱいだったんだけど、秦朗君も私に結構ひどいことしちゃってたんだ!」


と言ってクスクス笑う。


「でも、性悪のヒロインちゃんに篭絡された悪役に、敢然と立ち向かうヒーローみたいでとってもカッコ良かったよ。

 それに、私の方から頼んだんだもん。(しん)(らく)副会長を助けてあげてって。成り行き上、秦朗君は婚約者の私の願いを叶えてくれただけ。私の誇りです」


くぅ~~。(こう)(あん)ちゃん、いい子だ!


「あっ、そうだ。じゃあ、オレの役は?」


「そう!問題はそこなのよ!秦朗君は乙女ゲームの本編にはまったく登場しないキャラなの。もしかしたら私の知らない隠しキャラなのかしら?そんなはずないと思うんだけど……。

 まあ、モブにすぎない私の彼氏だから、運営会社もそんな所にまで手が掛けられないのはいいとして、そんな隠しキャラが隠れてないで悪役令嬢のピンチに颯爽と現れるなんて、物語の展開上ズルくない?!」


だろうな。美味しい所は全部人気ナンバーワン王子様の曹沖に持って行かれるようなオレが、全ルート攻略特典の隠しキャラとかだったら大笑いだ。モブ顔だし。


「でも、私は秦朗君の顔って割と好きよ。私ね、前世は女子高校生で弓道部のマネージャーやってたんだけど、その時の先輩に気になる人がいたんだ。

 普段はへらっとしてて全然パッとしないんだけど、試合となると袴姿でキリリッと的を狙う真剣な表情がとてもカッコ良いの。秦朗君って、その先輩にすごく似てるのよ!」


………………え?

オレの前世の高校時代とかぶるんだけど。いや、でもまさか。


「一度ね、バレンタインデーにチョコを渡したの。そしたらその先輩、「えっ、俺に?くれるの?わーい!俺、生まれて初めてチョコ貰ったー」って大喜びしてくれたんだ」


まんまオレじゃん!ウソだろ?!じゃあ、(こう)(あん)ちゃんってオレの後輩の……。どうしよう?オレがその先輩ですって(こう)(あん)ちゃんに告白した方がいいのかな?


「そ、それでその先輩とは?」


「それっきり。ホワイトデーの前に先輩は卒業しちゃって、LINEとかメアドの交換もしてなかったから、とうとう会えずじまい。それから間もなく、私は不幸な出来事があって死んじゃったし」


うわぁ、俺のバカバカ!浮かれてホワイトデーのお返しなんてすっかり忘れてたよ!彼女が亡くなったことすら知らなかった。


「ううっ、なんかごめん」


「??? なんで秦朗君が謝るの?

 だからね、私この世界に転生した時に誓ったんだ!今度こそ、絶対幸せになろうって。

 悪役令嬢の取巻きに転生して、このままでは将来断罪されちゃうことに気づいた時は戸惑ったけど、前世で流行していた乙女ゲームが舞台のライトノベルの場合、ヒロインちゃんの方が逆に性悪で、実は悪役令嬢こそが真の主人公で王子様とハッピーエンドを迎えるってストーリーの方が圧倒的に人気なの!

 なので私は希望を捨てなかった。悪役令嬢の曹麗様の性格を秘かに矯正し、ヒロインちゃんと関わり合いにならなければきっとシナリオは改変できる。

 でも、そのせいで悪役令嬢ポジションがいつの間にか(しん)(らく)副会長に移り、人気ナンバーワンの攻略対象の曹沖様と結ばれるハッピーエンドを迎えるなんて、思いもしなかった」


「じゃあ、オレと(こう)(あん)ちゃんの仲はどう……?」


「えっ?秦朗君も私と婚約破棄して、曹丕殿下みたいに“ざまぁ”されたいの?」


「いえ、このまま継続するのであれば光栄です」


やっぱり告白はやめておこう。このまま(こう)(あん)ちゃんの幸せな夢を壊さない方がよさそうだ。


そんなわけで、オレは乙女ゲームとやらの舞台となる学園からは退場させられたけれど、無事ハッピーエンドを迎えることができた……ってことでいいんだよな?!


というわけで、乙女ゲーム仕様の第五部・学園離騒編はおしまい。自分好みのなかなか良い出来じゃないかなー(←はしたないけど自画自賛 笑)。書いててとっても楽しかった。第五部だけでも適当にアレンジして、誰か漫画にしてくれないかなぁ。

第六部からは通常の三国志に戻ります。荀彧や曹沖に魔の手が伸びる悲しい章。

次回投稿まで、少々お時間をいただきます。


『三国志の関興に転生してしまった』がお気に召しましたら、★★★★★をお願いします。続きを書く励みになります。

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