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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第一部・関興転生編
14/271

14.劉和、天子様に密勅を授けられる

そんなある日、劉和様の父君である太尉兼幽州刺史の(りゅう)()様が使者を派遣して、長安に坐す天子様に忠誠を誓った。

董卓に反感を持つ豪族が多いなかの忠誠に董卓は大いに喜び、(りゅう)()様を大司馬に任命しようと、幽州に詔勅をもたらす役目を劉和様に命じた。

董卓に一礼して去り際、劉和様は天子様に呼び止められた。そうして一言二言、言葉を交わして退出するのを見た董卓は、劉和様に尋ねた。


「劉和殿、主上とは何をお話でしたかな?」


「ああ、先ほどの話ですか?

新たに遷都した長安では、今なお民衆が腹を空かせておる。幽州に下ったならば、父に米を送ってくれるように頼んでくれないか、と主上は仰せになりました」


「なるほど。ありがたい思し召しですな」


劉和様が退出すると、董卓の謀臣・李儒が彼の主人に告げた。


「劉和殿は主上に密勅を授けられたかもしれません」


「かもしれぬでは手が出せん。劉和はあの(りゅう)()の息子だぞ。

それに眼つきの鋭い関羽とかいう用心棒が控えておる。へたに手を出せば、返り討ちに遭うやもしれん。奴に対抗できそうなのは呂布だけだが、呂布はいま虎牢関で関東の豪族どもと対峙しておる」


「困りましたな。では、このような策はいかがでしょうか。

長安から幽州に向かうには三つのルートがあります。

このうち、北に向かう街道は夷狄いてき匈奴きょうどの地へと通じており、仮に劉和が主上に密勅を授けられたならば、このような危険な道を選ぶはずがないでしょう。

だとすれば、劉和が通るであろうルート上には、真っ直ぐ東の方に向かえば潼関と函谷関、迂回して南の方に向かえば武関の関所が立ちはだかります。いずれへ向かおうとも、関所で劉和を足止めし、出国審査の名目で検閲させましょう。

劉和が主上に密勅を授けられていたならば、その場で奪えばよろしい。場合によっては……」


李儒は首を刎ねるジェスチャーをした。董卓はニヤリと笑って、


「なるほど。名案だ」


と答え、さっそく潼関・函谷関と武関を守る役人に手を回した。


◇◆◇◆◇


「フン。李儒の悪だくみなんぞ、とっくにお見通しだ。だが困ったな」


劉和様が、李儒の仕掛けた罠をどうやって切り抜けようか悩んでおられる。


「それなら俺にお任せを!」


長安から潼関と武関、それに函谷関を回避して関東に出る抜け道なんぞ、元・塩賊の俺にとっては容易なことだ。


長安から北へ渭水北岸の荒野を突っ切れば、やがて俺の故郷の河東郡に出る。そのまま北へ向かえば匈奴の地だが、敢えて南に遠回りして黄河を渡れば、1000m級の難所を越えなければならないが、甘山の麓を経由して南陽郡に到着する。

ここまで来れば、董卓の勢力圏から脱出できたも同然だ。

東に進めば許昌、官渡を経て再び黄河を渡れば鄴に出る。幽州はもうすぐだ。


「よし、案内してくれ」


劉和様は喜び、俺に先導されるまま馬を駆った。


「関羽よ。不思議に思っておろうな」


「……俺は劉和様の行動にただ従うのみです」


俺も薄々感づいていた。劉和様がわざわざ大きな街道を避け、関所での検閲をくぐり抜けたがるのは、きっと董卓に知られたくない密勅を届けるために違いない。

おそらく「逆賊の董卓を討て!」とかの文言が記されているのだろう。


うんうんとうなずいた劉和様は、


「おまえには告げておいた方がいいだろう。

だが、その前におまえの覚悟を聞いておかなければならない。おまえは私の命と主上のお言葉、どちらが大切か?」


「俺の主人は劉和様お一人です。会ったこともない雲の上の御方が何と言われましても、俺には関係ございません。それに俺は元・塩賊、民衆を苦しめる塩の専売を課した天子様に義理立てする筋合いはありません」


正直にそう答えると、劉和様は悲しそうに、


「聞いてくれ。おまえの主人は私、それはそれでよい。

だがその主人である私は、私自身の命よりも主上のお言葉の方が大事なのだ」


そう言って、劉和様は懐からふみを取り出した。


「ここに主上のお言葉をお預かりしている。主上は私を信頼して、私にお言葉を託された。おまえは強い。たとえ私が道半ばで倒れたとしても、おまえは尚生き残ることができるだろう」


何だ、この遺言のような劉和様のセリフは?


「先ほどおまえは申したな。私の行動に従ってくれる、と。

そこで私はおまえに命じる。最初で最後の命令だ。私はおまえを信頼して、おまえに主上のお言葉を託す。私に何があろうとも、ここに書かれた主上のお言葉を、必ず幽州にいる父上に届けてくれ!」


「そんなに大事なことが書かれているんですか?」


「ああ。主上が漏らした内密のお言葉だ。

――朕は()()から逃げ出したい。

と。暴君の董卓の元から主上を救い出し、洛陽にお連れするには、まとまった兵が必要だ。私はそれを父上に用意してもらおうと思っている」


なるほど、そのような大それた計画が!

俺はいったん納得しかけたが、


「しかし、董卓を討つために虎牢関に集まった関東の諸豪族に密勅を披露し、天子様を救い出してもらう方が早いような気が……」


「それは絶対にならぬ!」


劉和様が強い口調で否定する。


「密勅は決して父上以外の者に渡してはならぬ!それだけは約束してくれ」


「……畏まりました。身命を賭して幽州刺史の(りゅう)()様にお届け致します。ですが、劉和様も俺と一緒に幽州に参られるのですよね?」


そう念を押すと劉和様は、


「もちろん私はそのつもりだ。だが道中は長い。不測の事態が生じるやもしれぬ」


覚悟を決めたような劉和様の言葉に、俺は嫌な胸騒ぎをおぼえた。


「すまぬな、関羽よ。せっかく自由の身になれたものを、私に仕えたばっかりにおまえを面倒ごとに巻き込んでしまった」


「とんでもありません!俺は劉和様にお仕えすることができて、心より感謝しております」


そうして劉和様から秘かに密勅を預かった俺は、劉和様とともに運命の南陽郡に到着した。



次回。「朕はここから逃げ出したい」という天子様の密勅。たったそれだけのメッセージなのに、なぜ密勅となるのか?

一方、南陽の袁術は、後漢の天子様に代わり自ら皇帝になる邪悪な野望を持っていた。劉和が密勅を手にしていると察した袁術は……。お楽しみに!


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