126.プロポーズ
本日2話目の投稿です。
●建安十四年(209)十二月 学園にて ◇曹沖
僕は甄洛の手を握りしめたまま、走って学園の林の中にある泉にやって来た。
「ふう。ここまで来れば大丈夫でしょう」
「あ、あの……曹沖殿下。あの場から私を助け出していただき、ありがとうございます。でも迷惑だったのではありませんか?皆の前で、私のような婚約者に棄てられた者と駆け落ちみたいな真似をして……」
「駆け落ち?あはは、僕も思い切ったことを仕出かしてしまいました」
と笑い、
「迷惑だなんてとんでもない!あなたが望むなら、むしろ喜んで。
それに、兄上が董桃のことが好きなら、彼女を側妃にしたり、婚約者だった甄洛副会長との関係を穏便に解消することもできたはず。悪いのはすべて兄上であって、あなたが気に病む必要はありません」
「そんな……曹沖殿下、改めてお礼を言わせて下さい。追い詰められた私と興ちゃんの窮地を救っていただき、ありがとうございました。あのままでは私はともかく、前途ある興ちゃんの将来に取り返しのつかない深い傷を負わせたかもしれません。それも、私のことを「愛しい」だなんて嘘までついて」
僕は(僕の気持ちが全然伝わっていなかったのか……)と頭を抱えたが、今は気を取り直して、
「そこまで秦朗の心配をするなんて、副会長はもしかして秦朗のことが?」
ゴクリと僕は唾を飲み込む。もしそうなら、僕は潔く身を引くつもりだ。怖い。だが返って来た答えは、
「えっ?!興ちゃんは私の親友の義弟で、私にとってもやんちゃでかわいい弟のような存在でして」
良かった、彼女は秦朗に恋愛感情を抱いていないのか。
「でも、どうして曹沖殿下がそんなことを?」
と首を傾げる甄洛。
「待って下さい、副会長!秦朗に対しては“興ちゃん”と親しげに呼びかけるのに、僕に対しては改まって“曹沖殿下”と言う。どうして僕のことを“沖”と呼んでくれないのですか?」
「そんな恐れ多い……で、でも殿下の方こそ私を名前で呼ばず副会長と……」
「あ……」
お互い顔を真っ赤にしてうつむく僕たち二人。
「こ、これから僕はあなたのことを洛さんと呼んでもいいですか?」
「あの、でしたら私も殿下のことを沖様と……」
「様付きかぁ。でも、うん。沖殿下と呼ばれるよりずっと親しくなれたような気がする」
ふふっと笑みがこぼれる僕。
「それより僕は、洛さんの本当の気持ちが知りたい。
あなたは覚えていないかもしれませんが、五年前にあなたに初めて会った瞬間、僕は恋に落ちました。その時抱いた初恋を諦めきれず、僕はずっと胸に秘めたまま今日まで生きて来た。今あなたを苦しめる兄上の呪縛が解けたことを知り、図々しくも名乗りを上げたのです。どうか僕にチャンスをいただきたい。
洛さん、僕はあなたのことを愛しています。これから先、あなたが僕のそばに一緒にいてくれるなら、きっと僕は強くなれる。生涯かけてあなたのことを幸せにしてみせます。どうか、僕と結婚してください」
と告白した。
「本気でおっしゃっているのですか?」
彼女が嫌う同情や憐れみから僕がこんな行動を起こしたのではないかと真意を訝り、返答をためらう甄洛。
「もちろん。恥ずかしながら、僕は女性に愛の告白をするのは初めてでして。今も洛さんに受け容れてもらえるのかドキドキしすぎて、心臓が口から飛び出しそうです」
甄洛はクスッと笑う。
「でも、私でいいのですか?曹丕殿下と夜を共にし、すでに処女を失った穢れた身ですが……」
「あなたがいいのです。洛さん、僕の愛に応えてはいただけませんか?」
ようやく僕の本気を信じてもらえたのか、感極まった甄洛は、
「は…はい!謹んでお受け致します、曹沖様!」
と歓喜の涙を流し、僕に抱きついた。空も花も木々の緑も鳥のさえずりまでもキラキラと輝いて、僕らを祝福してくれているようだった。僕は甄洛と誓いのキスを交わした。
短かった。
もう1話、今日中にいけるかな??




