124.軽挙妄動
本日2話目の投稿です。
●建安十四年(209)十二月 学園にて ◇関興=秦朗
オレはしなだれる董桃を抱き寄せた曹丕に向かって、
「いい加減になさいませ、義兄上!」
と諫止する。ギロリとこちらを睨んだ曹丕は驚いて、
「お、おまえは…秦朗!妾の子のくせして、俺を義兄と呼ぶなと何度言えば分かるのだ?!いや、今はそんなことはどうでもよい。平民にすぎぬおまえが何故ここにいる?」
「オレは六月に帝立九品中正学園に中途入学したんですよ。生徒会長のくせにご存じなかったのですか?それに学園では皆平等を掲げる生徒会長の義兄上が、オレを“妾の子”・“平民”と侮蔑するとは、とうとう馬脚を現しましたね」
(興ちゃん…!)
救いの手を差し伸べたオレに甄洛が安堵の表情を見せる。
「くっ…だ、黙れっ!無関係のおまえは引っ込んでろ!」
「いいえ、黙っていられません。
甄洛副会長のご実家は、もと袁紹の配下であった華北きっての名門貴族。曹丞相は、新たに曹魏に降った袁家ゆかりの者たちを慰撫するために、甄家との姻戚関係を結ぶよう義兄上に指示したのです。
そんな甄洛副会長との婚約を義兄上が勝手に解消するとなれば、これ以降曹魏は袁家に仕えた者たちを切り捨てるという誤ったメッセージを与えかねません。そのような重大な結果を招く恐れを認識した上でのご発言ですか?」
「そ、それは……」
「また、甄洛副会長の父君である甄逸殿は雁門関を守備し、騎馬民族である匈奴の侵攻を阻止する重要なお役目を担っている御方。咎もないのに一方的に婚約を破棄された甄洛副会長の処遇に不満を募らせ、万が一甄逸殿が曹魏に叛いて雁門関を開いて匈奴の侵入を許したら、華北の領地はどうなるとお思いですか?
義兄上がなさろうとしている軽挙妄動が、太平の世を乱す災厄に繋がりかねないことを真摯に反省なさいませ!」
とオレは曹丕の非を咎める。
「ぐぬぬ……だが、甄洛との婚約を破棄することはすでに決定事項なのだ!」
その時ピンク頭の董桃が横から口出しして、
「ちょっとぉー。何なの、あんた?モブのくせに、ヒロイン役のあたしの晴れ舞台を邪魔する気ィ?そんなに悪役令嬢役の甄洛が大切なら、あんたが結婚でも愛妾にでもしてやればいいじゃない!」
「!?」
何を言い出すのだ、こいつは?そういう問題ではないだろう!
「フフン。“ざまぁ”された悪役令嬢の甄洛にはお似合いの結末よね。こんなパッとしないモブの、金も地位も名誉もなーんにもない男に嫁がされるなんて。
結局あんたは、お義兄さまに当たる曹丕殿下が羨ましいだけでしょ?だから正義感ぶって殿下を悪者に貶めようなんて卑劣な真似をするのね」
董桃の援護射撃(?)に、我が意を得たりとばかりに曹丕は、
「おお、董桃の言うとおりだ!
それほどまでに曹魏の将来を思っての諫言であれば、秦朗、おまえが甄洛と結婚してやればいい。妾の子だろうと、一応は曹操孟徳の「息子」には違いあるまい。されば、甄逸が不満に思うはずもなかろう。わはは!」
「……」
これ以上、曹丕に何を言っても無駄なようだ。ピンク頭の董桃に誑かされて、常軌を逸しているとしか思えない。曹丕は勝ち誇ったようにニヤリと笑い、
「どうした?おまえは口では偉そうなことを言うくせに、自分では行動できぬのか?」
甄洛が目に涙を浮かべながら(興ちゃん、挑発に乗っちゃ駄目!)とばかりに懸命に首を振る。
挑発?そんなことは分かっている。だが売られた喧嘩は買うのがオレの信条だ。軽挙妄動だと誹られてもいい。オレは思わぬ事態に心配そうにたたずむ鴻杏に、
「鴻杏ちゃん、ごめん」
と謝り、続いて哀しげな顔をする甄洛の方に向き直ると、
「甄洛副会長。あなたのような美しい才女にとって、年の離れたオレでは頼りなく見えるかもしれませんが、あなたさえ良ければオレの嫁に来……」
と告げようとしたその時、
「ちょっと待ったぁー!!」
と叫ぶ声がした。
誰だ?!せっかくいい所なのに。
って、バレバレか。
明日をお楽しみに!




