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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第五部・学園離騒編
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118.帰省

●建安十四年(209)八月 荊州への道中 ◇関興


夏休みに入った。

オレは劉舞と妹の蘭玉を連れて荊州に帰省することにした。(こう)(あん)を誘ってみたが、徐州の広陵に赴任している父親の様子を見に行くそうだ。残念。


鄧艾が御者の馬車にはオレ・劉舞と侍女の甘華のほかに、妹の蘭玉が乗っている。都会の風に洗練されて、かわいさに一段と磨きがかかったようだ。さすがオレの妹。「蘭玉好き好き大好き~」って頬ずりしたい。そこ、キモいって言うな!それにしても、つくづくモブ顔のオレじゃなくて関平君に似て良かったと思う。まあオレは彼らと本当に血が繋がっているか、怪しいもんだけどな。


去年、劉舞とともに杜妃の元に疎開させていたが、この機会に荊州に連れて帰るんだけど……


「どうした、蘭玉?さっきから元気ないみたいだが。車酔いしたのか?」


ううんと首を振る蘭玉。劉舞が、


「あ、分かった。許都を離れるのが名残惜しいんでしょう?」


と尋ねると顔を真っ赤にして大きく首を振る。


「いやん、かわいい♡もしかして蘭玉ちゃん、許都に好きな人でもできた?」


なにぃ?!オレのかわいい妹に好きな奴ができただとォ?!


「ち、違うもん!」


「否定するところが怪・し・い。誰にも言わないから、こっそりお義姉さんに教えてちょーだい!」


「……やだ。教えない」


ちくしょー!教えないと言うからには、好きな奴はいるけど教えたくないということで、つまり蘭玉には好きな奴がいるんだな?!


「だ、誰だっ?!お兄ちゃんは許さんぞ」


蘭玉はぶわっと涙目になって、


「……兄兄(ニイニイ)のバカ」


「なんだって?」


「鈍い兄兄(ニイニイ)なんて嫌いッ!」


ツンとあっちを向く蘭玉。

ガーン。蘭玉に嫌われてしまった!

幼い頃の蘭玉は「大きくなったら兄兄(ニイニイ)と結婚する」と言ってくれてたのに。絶望のあまり、わなわなと震えるオレ。


「もう。興ちゃんウザい!しばらくあっちに行ってて!」


「あ…」


蘭玉が何か言いたそうにしていたが、オレは半ば強引に劉舞に馬車から追い出されて、鄧艾の隣の御者席に座らされた。鄧艾は「若、ドンマイ」という顔で傷心のオレを慰めてくれる。


「じゃあ、お義姉さんが当てててみるわ。それならいいでしょ?」


うー聞きたい聞きたい。蘭玉が好きになった羨まけしからん男が知りたい。秘儀・ウサギ耳の発動だ。売れない某マジシャン芸人がやる、「でっかくなっちゃいましたぁー」的な劉備のクソ野郎のモノマネじゃないぞ。

オレが雇う斥候から教えてもらった技。カラカラと回る車輪の音とゴトゴトと馬車が揺れるノイズを除去すれば、あら不思議。馬車の中で女子が花を咲かせる恋話がクリアに聞こえちゃう優れ技なのだ。


「えっと。蘭玉ちゃんが好きなのは、正統派なところでイケメン王子の曹沖様?」


ううん、と蘭玉が首を振る。あれっ、違うのか?てっきりこの流れは曹沖が本命だと思ったのに。


「はずれかぁ。私の学年は猪武者が多くて、イケメンって言えそうな人いないもんなぁ。だったら、ちょっぴり不良っぽいけど優しくてワイルドな夏侯覇とか?」


駄目だ駄目だ!負けず嫌いな努力家のところは嫌いじゃないが、あいつ脳筋でしつこいんだぞ。知り合って一か月の間に8回も勝負を挑んで来る大バカ野郎なんだ。

だがこれも違うらしい。


「じゃあ、知的でクールな二枚目の荀粲(じゅんさん)はどうかしら?」


あー優等生の眼鏡か。父親の荀彧に似て賢いけど、輪をかけて嫌味ったらしいんだよなぁ。オレや地方から来た二千石(州刺史・郡太守)クラスの中級貴族の令息が話す言葉の訛りを見下して、田舎者呼ばわりするんだぜ。絶対性格が悪いに決まってる。

よかった、彼も違ったようだ。


「チャラ男の夏侯楙(かこうぼう)とかナルシストの何晏(かあん)は確かにイケメンかもしれないけど、お義姉さんは反対よ。あんなのと結婚したら、蘭玉ちゃんが苦労しそうだもの」


同感だ。そもそもオレのかわいい蘭玉の視界にあんな俗物が映ることすら許しがたい。


「誰、それ?蘭玉そんな人たち知らない」


ホッ。考えてみれば、蘭玉は学園に通ったことがないから、いくら学園では有名なイケメン達でも、接触機会がなければ好きになるはずがないもんな。


「えー誰だろう?他にイケメンっていたかなぁ?」


「お嬢様。もしかしたら、学園に通う令息ではないかもしれませんよ」


侍女の華もそこに気づいたようだ。


「じゃあ、荊州の人?華のお父様の甘寧将軍とか、興ちゃんの従者の鄧艾とか?」


「お嬢様、やめて下さい!蘭玉様があんな変態どもを好きなど、口にするのも畏れ多い」


「へ、変態……」


オレの隣で御者をやってる鄧艾の耳にも華の辛辣な評価が聞こえたようだ。動揺したせいか、馬車が大きく蛇行する。中から華が怒りの声で、


「きゃっ。ちょっと鄧艾、ちゃんと前見て運転しなさいよっ!お嬢様方が怪我したらどうするのよ!」


「あ、悪りぃ。俺が変態…はぁ。また華との結婚が遠のいたか」


ショックを受ける鄧艾。あの時の女子風呂覗き事件のせいだよな。せっかく誘拐された舞ちゃんと華のピンチを救ったヒーローなのに、しばらく華に口を聞いてもらえなかったそうだから。ドンマイ鄧艾。


「蘭玉は二人ともカッコいいと思う。兄兄(ニイニイ)の片腕として働いてくれてるし。でも好きなの?って聞かれるとちょっと違うかも。年が離れすぎてるもん」


意外と高評価。そっか、蘭玉の好みはああいうタイプなのか。まあ強くて頼り甲斐があるし、悪い奴らじゃないんだけど、お兄ちゃんは変態と付き合うのは反対だぞ!

その時、劉舞が喜々として、


「蘭玉ちゃんがうっかり大ヒント!カッコよくて年が近い人だってよ。…って、いたかなぁ?そんな男」


「あっ、お嬢様!()妃様の所にいらっしゃった曹林様とか」


「えー。でも曹林様って、モブ顔でへらっとした、頼りないお坊ちゃまよね?()妃様にさんざんお世話になったのにこう言っちゃなんだけど、カッコいいとはほど遠くない?全体的に男としての魅力に欠けると思うんだけど」


……舞ちゃん。実際そうかもしれないけど、あいつ正真正銘オレの双子の兄なんだ。もうちょっとオブラートに包んでくれると嬉しいな。それに、“モブ顔でへらっとした”・“カッコいいとはほど遠い”なんて評価は、曹林と瓜二つのオレにも流れ矢が飛んで来てグサッと刺さるんだけど。


沈黙して考え込んでいた蘭玉が突然ハッと思い付いたように、


「あ、そっか!蘭玉、曹林様と結婚しちゃえばいいんだ!」


「「「「えええーっ?!なんだってー!?」」」」


予想もしない意中の人の告白に、慌てふためく劉舞・華それに外野のオレと鄧艾。

よりによって、マザコンでぐうたらで何の取り柄もないモブ顔の曹林が好きなのかよ?!あわわ。ついうっかりそんな悪口を言ったら、オレにもブーメランが返って来るな。


駄目だ駄目だ!美少女ランク天下一の蘭玉の相手が曹林なんて、もったいなさすぎる。仮にあれと結婚したら、もれなく()妃が義母について来るんだぞ。鬱陶しいだろーが。


「もーうるさいから外野の興ちゃんは黙ってて!実際のところ、蘭玉ちゃんは曹林様が好きなの?」


「……ううん。嫌いではないけど」


「じゃあ、どうして曹林様と結婚するなんて言うの?お義姉さんに理由を聞かせてくれないかな」


蘭玉はモジモジと言い淀んでいたが、やがて決心して、


「……今、蘭玉たちはみんなで一緒に荊州に帰ってるのよね。でも、舞義姉さまと兄兄(ニイニイ)は夏休みが終わったら、また許都の学園に戻るんでしょ?そしたら蘭玉は荊州に置いてけぼりにされて、兄兄(ニイニイ)とまた離れ離れになっちゃう。そんなのイヤ」


「蘭玉……」


はううっ、かわいい♡我が妹よ!


「それに蘭玉、いくら好きでも兄兄(ニイニイ)とは兄妹だから結婚できないってことくらい知ってる。だったら、兄兄(ニイニイ)とそっくりの曹林様と結婚したら、いつでも兄兄(ニイニイ)の側にいる気になれる」


ああ尊いっ!蘭玉のお兄ちゃんに転生させてくれてありがとう!

オレは初めて心から女神様に感謝した。


「うーむ。重度のブラコンね。だけど、よりによってモブ顔の興ちゃんを選ぶとは。平さまの方が素敵じゃない?」


「普通、かな。平兄さまも大好きだけど」


ガクッとうな垂れる劉舞。ふぉっふぉっふぉっ。オレの耳には、平兄ちゃんのお嫁さんである劉舞の(とげ)のある質問が、単なる負け惜しみにしか聞こえない。


それにしても、自分そっくりな顔をした超絶美少年(もう少年とは言えないけど)の関平君をさらっと「普通」と言ってのける美少女・蘭玉の顔面偏差値がやゔぁい。

なーんて冗談は抜きにして。


史実では、孫劉同盟を強固なものとするために呉主・孫権の息子と関羽の娘の縁談話が持ち上がった際、関羽が「(むじな)小倅(こせがれ)め、高望みが過ぎるわ!」と拒絶(狢とは江東の田舎者と侮蔑した表現)。面目を潰された孫権は大いに怒り関羽への恨みを募らせたことが、後の麦城の悲劇へとつながるのである。


この世界では、関羽のおっさんと平兄ちゃんが孫権に騙し討ちされる運命を覆そうと決意したオレとしては、蘭玉の嫁ぎ先は慎重に決めてやらなければならない。


ちなみに彼女を基にした小説『三国外伝』では、関銀屏(ぎんへい)の名で活躍する人気キャラクターだ。劉備に仕えた李恢の息子のような、モブ中のモブなんかに嫁がせるわけにはいかん。


「ありがとう、蘭玉。お兄ちゃんとっても嬉しいぞ。

 だけど蘭玉はまだ八歳だもんな。そのうちお兄ちゃんを超える素敵な王子様が現れると思うよ。それまで婚約相手の件は、もう少しゆっくり考えような」


「そうねえ。世の中には、興ちゃんなんかお呼びじゃない素敵な貴族や将軍がいっぱいいるもの。お義姉さんが美少女の蘭玉ちゃんに釣り合う相手を探してあげるわ!…って寝てるッ?!」


「zzz」


長旅で疲れたのか、本人の中では会心の解決策が見つかり安心したのか、蘭玉は馬車の中で眠ってしまったようだ。華がそっとタオルケットを着せてやる。

さあ、いよいよ故郷の荊州到着までもう少しだ。


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