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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第一部・関興転生編
13/271

13.関羽、塩賊だった過去を回想する

劉備に失望し、曹操軍を単騎迎え撃つことを決心した関羽が、劉備と出会うまでの自分の過去を回想しています。

俺は塩賊だった。

古来、塩の取引は国家が独占していた。人が生きていくためには、高くても塩を買わざるを得ない。俺の故郷の河東郡解県には塩湖の解池があった。夜闇に紛れて解池に塩水を汲みに行き、蒸発させて塩を精製する。そして国家が高値で売る専売塩よりも、少し安い値段で密売するのだ。


買い手はいくらでも存在するため、塩の密売で一攫千金を狙う者は数多くいた。

俺は若年ながら武勇に優れ、大胆不敵な奴として仲間内でも名が知られるようになった。

だが塩の密売は、国家にとって金をくすねる大泥棒にも等しい行為。だから密売人を厳重に取り締まった。捕まれば極刑に処せられる。

そういう裏稼業は国家から「塩賊」とののしられる一方、民衆からは「義賊」とたたえられていた。


義賊と持てはやされ、羽振りが良くなった俺は、いい気になっていたのだろう。些細なトラブルがもとで成功を妬んだ塩賊仲間から密告され、俺はついにお尋ね者になった。官憲に追われ自らの姓名を捨てて逃げ回ったあげく、いつしか俺は都・洛陽の一角に潜伏し、嵐が過ぎ去るのをひたすら待った。


その間、世の中の動きは不穏だった。何年も前から、朝廷は外戚派閥と宦官派閥に分かれていがみ合っていた。そんな最中、黄巾の乱が起こり天下は大いに乱れた。

事態を収拾できないまま霊帝が死に、次の帝が即位したそうだが、その帝を擁立した外戚の大将軍・何進が宦官の十常侍に殺されてしまった。


外戚派閥の逆襲が始まった。

袁紹・袁術らの豪族は、十常侍をはじめとする宦官を皆殺しにした。

ひげを生やしていない色白で柔和な顔をした男性が、何人も巻き添えで殺されたらしい。


食糧を確保するために、たまたま変装して外に出歩いた俺は、その凄惨な殺戮劇に出くわした。「だから私は宦官ではない!」と弁解する一人の男を、今にも襲撃しようと大勢の兵士が取り囲む。目の前で無実の人が惨殺されるのは気持ちのいいものではない。

俺は兵士らを相手に、こてんぱんに叩きのめしてやった。


「逃げるぞ。こっちに来い!」


俺も官憲に追われる身だ。兵士に顔を覚えられるのはまずい。俺はその男を連れて自分の隠れ家に帰った。


「いやあ、助かりました。私の名前は劉和。朝廷に仕えるしがない貴族です。命の恩人である貴公に何かお礼がしたいのですが……」


「礼など不要。訳あって、俺は名を名乗るわけには参らぬ。すまぬ」


「ははあ、お尋ね者ってわけですか」


クックッと笑って、男が答える。


「貴公の出身は河東郡の解県と言われましたな……なるほど、塩賊ですね。

貴公が塩賊に身をやつしたのは、薄汚れた欲に目がくらんだゆえではありますまい。困窮する民衆を救わんと願う義侠の心から悪事を為したにすぎぬ。違いますか?」


俺はコクリとうなずいた。


「ならば改心の余地は十分にありましょう。

そうだ、私の用心棒になりませんか?こう見えても官憲に顔が利くんですよ、私。貴公のやらかした罪を揉消もみけすくらい、わけありません。これから大手を振ってお天道様の下を歩けるようになるでしょう。

命の恩人である貴公に報いるにはこんなことしかできませんが……もちろん賃金ははずみます。貴公の勇気と腕っぷしを買いたいのです。いかがですか?」


俺は一も二もなく劉和様の提案に同意した。

こうして俺は、貴族の劉和様の用心棒兼従者として雇われることになった。


◇◆◇◆◇


劉和様は自らを「しがない貴族」と謙遜していたが、とんでもなかった。

彼は三公の一つ・太尉である幽州刺史の(りゅう)()様のご子息で、朝廷では皇帝に近侍する侍中に任命される、超エリート貴族だったのだ。しかも劉姓であることから想像できるように、皇帝の縁戚にあたるやんごとない身分の御方らしい。


まさか塩賊としてお尋ね者だった俺が、朝廷に仕える身に出世するとはな。

思いもよらぬ転身に苦笑する俺に、劉和様は常々こう言っていた。


「私は、今の世の泥にまみれ火に焼かれるような苦しみから民衆を救い出し、中州を慰撫したいと願っている。関羽よ、私に力を貸してくれないか?」


「もちろんです。俺はどこまでも劉和様について行きます」


「うむ、よくぞ申した!頼りにしておるぞ。

だが関羽よ。おまえ一人強くとも、戦には勝てない。戦に勝てぬなら、この乱世を終わらせることはできない。乱世が終わらなければ、民衆の苦しみは永遠に続いてしまうのだ。

考えよ!どうすれば乱世を終わらせることができるかを。自分に何ができるかを」


「……俺は頭が悪く、碌に学問を学んでいないので、どうすれば乱世を終わらせられるかなんて難しいことは分かりません」


うな垂れる俺の姿に劉和様は苦笑し、


「おまえ自身が答えを見つけなければ意味がないんだけどな。

逆を追って考えてみよ。乱世を終わらせるには戦に勝たねばならぬ。戦に勝つにはどうすればよいか?おまえ一人の武勇だけでは足りぬ」


「志を同じくする者と協力し、敵を討ちます」


「いいぞ、その調子だ。ではどうやって同志を探す?力か、利か、法か?

力で押さえつければ反発する。利で誘えば別の利に転ぶ。法で縛れば法の網を免れることに汲汲とする。最初はうまく行くだろうが、結局はどれも失敗する。

人にはみな心がある。心に訴えなければ人は信服しない。人の心に響くのは情であり道理なのだ。おまえは義侠心に富む。あとは道理を知ることだ」


「道理……」


「そうだ。おまえほど武勇に秀でておれば、遠からず将軍となる日も訪れよう。

将軍に必要なものは、兵士を信服させる統率力だ。大丈夫たる者、皆の模範となるよう精進せねばならぬ。

愚者は経験をなぞり、賢者は歴史に学ぶと云う。おまえはもっと学問に力を入れ、歴史を学びなさい。そうすれば道理を身に着けることができる」


そこで俺は春秋左氏伝を学び、史記や漢書・後漢紀を読んだ。劉和様は、そんな俺の姿を喜んでくれた。


◇◆◇◆◇


都で新たに権力を握ったのは董卓という暴君だった。彼は自分の権力を見せつけるために少帝を廃し、わずか九歳の幼帝を擁立した。これが今の天子様・献帝だ。


暴虐な董卓に反抗する袁紹・袁術らの豪族は、関東に逃れて同盟を結び、兵を率いて都・洛陽に攻め寄せて来た。

董卓は、自分の勢力圏である長安に遷都を強行した。その際、洛陽に火を放ち略奪したあげく、住民を強制移住させた。


地獄のような行軍であった。幼い天子様のお側近くに仕える侍中の劉和様には、朝廷から食事が支給された。俺は道すがら鳥獣を狩って食事の足しとした。だがそんなすべを持たない民衆は飢えて、途中で倒れる者も多かった。


長安に到着すると董卓の増長はいよいよ甚だしく、劉和様は天子様のために董卓に諫言することもあった。


「昔、太公望が尚父とたたえられたのは、周の王室を輔佐し暴虐な紂王を討伐したため、天下の人々がこぞって彼を尊敬したからです。今、董卓閣下の功績は誠に偉大ですが、あまねく尊敬を受けるとまでは申せません。

自ら尚父を称するのは、関東の諸豪族を追討し、主上が洛陽にご帰還あそばされた後に議論されてはいかがでしょう」


徳が高く衆望の厚い(りゅう)()様を敵に回すことは、さすがの暴君・董卓も気が引けるのだろう、態度を改めることはなかったが、彼の息子の劉和様をとがめて処刑を命じることもなかった。


それに俺が用心棒として、劉和様のそばに控えていることが少しでも役に立ったとすれば光栄だ。


次回。後漢の天子様は劉和に密勅を託します。それに気づいた董卓は、密勅を取り上げようと関所に罠を仕掛けます。関羽と劉和は董卓の魔の手から逃れることができるのか?!お楽しみに!

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