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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第五部・学園離騒編
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104.誘拐

●建安十四年(209)六月七日 宿舎にて ◇秦朗=関興


宿舎に戻ると、顔に赤い手形をつけた鄧艾が待っていた。


「おい。どうしたんだ、その顔?」


「いやぁ、たまたま街で華に会って口説いたら、あいつ照れやがって」


と気持ち悪~いゆるんだ顔でニタニタ笑っている。そうか、こいつらの仲はうまく進展してるのか。羨ましいことだ。

ん?だけど、なんか言葉と状況がチグハグな気がする。


「おまえ、華さんをどう口説いたんだ?」


「えっ、聞きたいですか?どうしようかなぁ。うん、若の将来の参考のために話しましょう!男らしくガツンと「華、一発やらせろ!そして荊州に戻ったら結婚しよう!」って。そしたら華のやつ、顔を真っ赤にしてツカツカ近づいて来て、物も言わずにバシンと俺にビンタを一発……」


あ、これ駄目なやつや。

というか、こいつ寡黙で有能なイケメンなのに、なんで女にモテないんだろうと不思議に思っていたが、理由が分かった気がする。口下手を通り越して舌禍なのだ。


「あのさ、鄧艾。舞ちゃんがもう一年学園に残ることになったんだ。当然、侍女の華さんもここに残る。おまえはどうする?」


「うー。荊州に帰らないと華と結婚できないけど、俺だけ一人で荊州に戻っても仕方ないしなあ。でもそしたら俺は童貞のままじゃん。それは嫌だなあ」


「おまえが華さんの近くにいたいって言うなら、オレも許都に残って学園に通うことにするよ。そしたら華さんを口説くチャンスも増えるだろうし」


うまく行くかどうかは知らないけど。


「あ、なるほど!若って頭いいですね!じゃあ、俺も許都に残ります。若はたまーに部下思いのイイ人ですよね」


やれやれ。こいつがオレ以上の恋愛オンチで良かったよ。


◇◆◇◆◇


●建安十四年(209)六月七日 女子寮にて ◇劉舞


その夜。

卒業まで学園に残れることになった事情を知らない舞ちゃんは。


「ねぇ舞、本気?寮を出てこっそり身を隠すって……」


「うん。こうでもしないと私、荊州に連れ戻されちゃうもの」


と最小限の身の回りの品をバッグに詰めながら、(劉舞)は実力行使に出た経緯を親友の(しん)(らく)に説明する。


「けど……」


「心配しないで、洛。隠れる場所は確保したし、あなたに迷惑は掛けないわ」


「えーどこに隠れるつもりなの?」


「内緒にしててよ。()妃様のお屋敷。あそこなら男子禁制だから、たとえ興ちゃんが気づいたとしても入って来られないし」


「ああ、なるほど。でも学園はどうするのよ?」


「大丈夫。興ちゃんも二、三日私の行方を探して見つからなかったら、諦めて荊州に帰ると思うの。そしたらまた堂々と学園に通えることになるわ」


(しん)(らく)に告げた。副生徒会長だし、二、三日の欠席ならうまく誤魔化してくれるでしょ。


「じゃあ私、もう出発するから。あとはお願いね。さあ行くわよ、華」


(しん)(らく)が不安そうに見送る中、私は侍女の華と寮を出て早足で馬車の待ち合わせ場所に向かう。


この時、私は知らなかった。

夜闇にまぎれて私たちの姿が見えなくなると、(しん)(らく)はニヤリと笑みをこぼし、「甘いわね」とつぶやきながら誰かに宛てて(ふみ)をしたためたことを。


 -◇-


()妃様が用意してくれたお迎えの馬車に揺られながら、私は侍女の華に謝った。


「華、我儘ばかり言ってごめんね」


「かまいませんよ。私はずっとお嬢様について行きます」


「でも、あなたの結婚が遅れちゃうかも……」


「いいんです。かわいいお嬢様のためですもの。私、男でも女でも見境なく手を出しちゃうあんな碌でもない父親(甘寧)の娘に生まれたせいで、結婚願望なんてありませんから」


「えーだって華は、興ちゃんの従者の渋いイケメン君のことが好きなんでしょ?」


ハアと溜め息をついた華は、


「どうなんでしょう?あいつ、たまたま今日街で出会ったらいきなり「華、好きだ!一発やらせろ!」とか言うんですよ。私、恥ずかしくって」


「うわぁサイテー。なんか幻滅」


「たぶん、うちのバカ親父の「女は押し倒したらこっちのモンだ」とかいうセリフを真に受けて、カッコよく口説いてるつもりなんでしょうけど」


「男ってやぁね。誰もがオラオラ系に恋するわけじゃないのに」


「その点、関平様とか素敵ですよね。優しくて、爽やかで、清潔感があって」


「うん。会いたいなぁ、関平様に」


私はにっこり微笑む関平様の姿を思い浮かべた。頃合いを見計らって華がアドバイスをくれる。


「お嬢様。私、考えたんですけど、関興様に従って一度荊州に戻り、関平様と関羽将軍の許可をもらって再び学園に通うことにすればいいんじゃないでしょうか?」


「そうねえ、華の言うとおりかもしれない。いったん寮に引き返しましょう。


あのー御者さん。申し訳ないんですが、元の場所に戻っていただけませんか?」


「……」


御者は私の言葉が聞こえないのか、たんたんと馬車を走らせる。


「やだ、我儘言って怒らせちゃったかしら」


「お嬢様、なんかこの御者おかしいですよ」


侍女の華が少し強気に、


「ねぇ、ちょっと!お嬢様を無視する気?あなたの無礼を()妃様に言いつけてやるわよ!」


と言うと御者の態度が豹変し、


「ガタガタうるせぇ!おまえらは(さら)われたんだ!騒いだらブッ殺すぞ!」


ひっ。恐怖のあまり、私は声が出ない。

華が私の背中を優しくさすりながら懐から短剣を取り出し、(大丈夫です、お嬢様。私がこの剣でなんとか停めてみせます)とささやいた。その言葉どおり、華は後ろから御者の喉に剣を突き付け、


「あんた、今すぐ馬車を停めないと、喉を切り裂かれて死ぬよ!」


と脅した。だが御者はまったく屈せず、


「できるものならやってみな。御者の俺を殺したら、馬は制御不能になって暴走したままそこのお嬢様もろとも壁にぶつかり、みんなお陀仏だ。それでもいいのか?」


「くっ……」


「ま、俺はあんたみたいな勇ましい女は嫌いじゃないけどよ」


「な、何をするのっ!離しなさいっ!」


華が一瞬ひるんだ隙を見逃さず、誘拐犯の御者は華の手首を捻って短剣を取り上げ、逆に華に突き付けた。


「お嬢様。こいつの命が惜しければ、黙っておとなしく俺の言うことを聞いてもらおうか」


そうして私と華は猿轡(さるぐつわ)を噛まされ、逃げられないように後ろ手に縛られた。



やだ、漢の都なのに誘拐なんて物騒ね。

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