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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第一部・関興転生編
11/271

11.劉表、藪を突いて蛇を出す

荊州の都城・襄陽では、奇妙な噂が広まっていた。


「劉備将軍がおもむく所を狙って、何故か曹操が襲って来るんだよなぁ」


「そりゃそうだろ。劉備将軍は曹操の天敵だ」


「劉備将軍は曹操を殺せという密勅を、天子様から授かったんだもんな」


「いやいや。実はな、劉備将軍が密勅を受けたのは本当だが、なんとそれを曹操にチクッたらしい」


「はぁ?そんな馬鹿な……」


「ここだけの話、劉備将軍は自分だけ助かるために、自分の他に密勅を受けた董承将軍らを曹操に売ったんだよ」


「えーっ!まさか」


「そのまさか、なのさ。董承将軍らは捕まって三族皆殺しになったが、劉備将軍は悠々と生き残り、今は曹操の手先となって荊州の新野にいる」


「そう言われれば変だよな」


「考えすぎだろ!むしろ新野に駐屯して、曹操に睨みをきかせてるんだよ」


「だがよォ、劉備将軍が陶謙・呂布・曹操・袁紹……と裏切りを重ねて来たのは事実だろ。そして今度はうちのお殿様。くわばらくわばら」


「見かけは聖人君子っぽい人が、実は一番腹黒いんだよなァ。例えば、劉備将軍みたいな」


「そうそう。悪いことはできませんとか忠義(づら)して、陰でこっそり裏切りやら乗っ取りをたくらんでそうだ」


「あれじゃないか?埋伏の毒――内通者として潜り込み、いざ敵が攻めて来た時に寝返る役目だったりして」


「えっ、誰の?」


「決まってるだろ。劉備将軍は曹操のスパイなんだよ」


「あーやっぱりね。実は俺もそうじゃないかと思ってたんだ」


「ってことは、次に曹操に狙われるのはこの荊州?」


「怖ぇ~。いよいよ荊州もおしまいか……」



◇◆◇◆◇


「ご、誤解です。劉表殿!曹操めにとって、この劉備は仇敵にも等しい間柄。私が曹操と裏でつながっているなど、天地神明に誓ってありません!」


噂の真偽を確かめるために劉表から召喚された劉備は、必死に弁明する。


「わしも信じたいのはやまやまじゃがのう……劉備殿が陶謙・呂布・曹操・袁紹と群雄の間を渡り歩いて来たのは周知の事実。それに対して、節操がないという評価もうなずける」


「私は、拾っていただいた劉表殿のお役に立ちたいと心から願い、漢水の北で劉表殿の盾となって誠心誠意、曹操の侵攻を防いでいると自負しております!」


「もちろんわしは感謝しておるぞ、劉備殿。だがこのような噂が立った以上、劉備殿を100%信頼するのは危険ではないかと重臣どもが申してな」


「……私と劉表殿の間に疑心暗鬼を生じさせようという、曹操の謀略ではありませぬか?」


「なるほど、あり得るな。して、それを証明する手立てはござらぬか?」


「そ、それは……」


その時、劉表の元に伝令が慌てふためいた様子で飛び込んで来た。


「も、申し上げます。州境に配備している物見の兵から知らせが入りました!許昌を発した曹操軍の騎兵五千が、我が荊州に向かって侵攻中。なお、後詰として曹操自ら歩兵三万を率いて西平の地に集結!」


思いも寄らぬ曹操軍の侵攻に、平和ボケした荊州牧の劉表はうろたえる。


「なに?!曹操は華北の袁尚らと交戦中だろう!ま、まさか荊州にまで戦線を広げるはずは……

劉備将軍!今こそそなたの身の潔白を証明して見せよ!新野と唐に駐屯する兵を先鋒として、曹操軍の侵攻から我が荊州を防衛せよ!頼んだぞ」


「お、お待ち下され!新野と唐の兵を合わせても一万には届きませぬ。援軍もなしに数倍の敵を迎え撃てとは、劉表殿は私に死ねとおっしゃるか?」


曹操に謀反人として命を狙われている劉備も、劉表の無茶ブリに動揺する。


「安心せい。わしも襄陽の兵二万を率いて出陣……いや、出立する」


「本当ですね?そういうことであれば、私はさっそく新野に戻って戦の準備を始めます」


劉備は渋々曹操軍と対峙することに同意した。が、三万五千の曹操軍相手に、自ら矢面に立って出陣し、荊州を防衛する気などまるでなかった。


◇◆◇◆◇


関羽のおっさんが雇った盗賊上がりの斥候・ねずみから、「曹操軍の騎兵五千が荊州に向かって侵攻中、現在位置は唐県の東百里(=約50km)まで接近」との報らせが入ると、軍屯所はにわかに慌ただしくなった。


「そうか……やはり曹操閣下は、俺と田豫の口約束ごときは取るに足らぬと判断されたわけだな。黄佰長は急ぎ新野の劉備将軍に連絡、応援を要請しろ!」


「はっ、了解しました」


「兵どもは、ただちに出陣の用意!」


「えっ、マジかよ?嫌だなぁ、超怖えんですけど」


「つべこべ言わず、覚悟を決めろ!ねずみ、曹操軍を率いる武将は誰か分かるか?」


「えーと。軍旗に“張”の字が見えたので、張遼将軍だと思われます」


「張遼殿か……」


関羽のおっさんが兵たちに(いくさ)支度(じたく)を指示している間、転生者の俺は首をかしげていた。


――おかしい。

つい先日までオレは、この世界は三国志の史実どおりに進行していると思っていた。


曹操が荊州の劉表を狙い討ちにした今回の軍事作戦は、後世“西平の戦い”と呼ばれるものだろう。戦いとあるが、その実態は曹操が豫州の西平県に進駐し、荊州に攻め込む構えを見せただけで、実際の戦闘はなかったとされている。


では、曹操は何故そのような無駄な軍事行動を起こしたか?


謎を解く鍵は華北の戦役にある。

袁紹軍閥の後継争いでそれまで反目し合っていた袁譚と袁尚の兄弟が、曹操という巨大な共通の敵に対しては手を結ぶことで和解した。曹操にとっては厄介なことになった。その時、参謀の郭嘉が進言した。共通の敵がいなくなれば、袁譚と袁尚は骨肉の争いを再開するのではありませんか、と。

郭嘉の計略に従った曹操は、いったん華北の拠点の鄴から撤退し、荊州を討つと称して西平に軍を進めた。

当面の危機は去ったと誤認した袁譚と袁尚は、果たして再び後継争いに没頭。

そこで曹操は、西平からただちに軍を北方に帰して鄴を占領、続けて袁譚と袁尚を各個撃破し華北を平定する――


そのような史実を知っているオレにとって、曹操軍の騎兵五千が本当に西平から荊州に向かって侵攻しているという知らせは、「寝耳に水」の事態なのだ。


西平から荊州に至る街道は、田豫が治める朗陵県を通って荊州の唐県、新野県そして襄陽へと繋がっている。つまり、曹操軍の騎兵は最初に我が唐県に攻め寄せることになる。何が何でもここで食い止めたいところだ。


しかし我が唐県の軍勢は三千。このうち二千は、先日新たに組み入れた新規徴兵と荊州兵の弱兵で、はっきり言って戦力外だ。


どうする?関羽のおっさんは迎え撃つつもりのようだが。



次回。曹操の侵攻から唐県の領土と住民の命を守るため、一人立ち向かおうとする関羽。関羽を死なせるわけにはいかない!関興は助太刀を志願します。お楽しみに!

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