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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第一部・関興転生編
10/271

10.劉備と劉表、お互いに化かし合う

今回の督郵査察の件、せっかく雇った斥候はまったく役に立たなかった。


いや、斥候の腕が悪かったわけじゃない。

人が好く根が素直な関羽のおっさんは、味方を疑うことを知らず、曹操の支配する領地に斥候全員を配してしまったのだ。


だが本当の敵は味方の内にいる、という不条理な真実に気づくいい教訓になっただろう。史実では将来、関羽は同盟を結んだ孫権に裏切られたあげく、殺される目に遭うんだからな。

この世界の関羽のおっさんは早速、荊州牧・劉表の都城である襄陽と、劉備将軍のいる新野にも斥候を送り込んだ。そう、念には念を入れることが大切だ。



しかし、オレに言わせれば、それだけでは足りない。

我が唐県の県令(すなわち関羽のおっさんな)が不正を行なっていると告発しやがった奴に、きっちり報復してやる必要がある。目には目を、歯には歯を、だ。


まあ、朗陵の田豫への兵糧密売で大儲けした我々への嫌がらせが目的だ。告発した奴の素性は薄々分かっている。朗陵への運搬を請け負う商人の急成長ぶりに危機を抱いたライバル商人が、昵懇じっこんの政治家にチクったのだろう。


だいたい、この時代の商人は、法に触れる敵国への密貿易の一つや二つ、誰でも手を染めているものだ。

我が唐県の場合、荊州を攻めないと相互不可侵を約定した上で兵糧を融通しているのであって、売国行為には一切当たらないと自負している。


だがこのライバル商人は、荊州東部の江夏郡城をめぐって激しく対立している孫呉の武将に、大量の武器を密売していると噂される極悪人だ。オレは、斥候に次の取引の日時と場所を探らせた。大物政治家をバックに油断しているせいか、あっさりと割れた。


そうして書の達人に、ライバル商人の筆跡を真似て書かせた取引日時と場所を記したふみを、わざとらしく江夏郡城の目立つ場所に落とした。拾われたふみは、すぐに江夏太守の黄祖の元に届けられる。


あとは、黄祖が必死になってしかるべき処置を施すはずだ。

なにしろ、自分が守る江夏郡城に攻めて来る敵の武将宛てに、武器を密売する売国奴が書いた証拠のふみだからな。ふみに書かれた日時と取引場所のとおりに現場が押さえられれば、いくら自分が書いた物ではないと言い張ったって、売国奴のライバル商人も言い逃れはできまい。


こうして、襄陽の老舗(しにせ)大店(おおだな)の商家が潰れた。バックの大物政治家とやらに切り捨てられたらしい(笑)。哀れなものだ。


◇◆◇◆◇


その間、この世界は史実どおりに進行していた。


密輸で武器が手に入らなかったせいかどうかは知らないが、建安八年(203)に荊州の江夏城を攻めた孫権は、黄祖配下の甘寧の活躍で撃退された。だが黄祖は甘寧の軍功を認めようとはせずに冷遇した。

甘寧の鬱憤うっぷんが溜まる。そのうち我慢できなくなって、呉に出奔しようと企むだろう。史実では、それが黄祖の命取りになるんだよな。

ま、オレには関係ないことだが。




官渡の戦いで曹操に大敗した袁紹は、失意のうちにこの世を去った。


あとはお定まりの後継争い。長男の袁譚を推す派閥と、袁紹の寵姫が生んだ末子の袁尚を推す派閥が互いに兵を繰り出して争い、かつて華北の雄・袁紹が率いた軍閥は、日に日に弱体化していった。


袁尚に押された袁譚は、あろうことか仇敵の曹操に救援を依頼する始末。曹操はまんまと内紛につけ込み、袁軍閥の根拠地・鄴を包囲する。

さすがに兄弟争いの愚を悟った両者は和解し、共に大敵である曹操に当たることを約した。だが、そこは百戦錬磨の曹操、いったん袁軍閥への追撃の手を緩めて鄴から撤退し、軍を許昌に帰した。


もちろん、曹操は華北の平定を諦めたわけではない。

袁譚・袁尚の両者は、曹操という共通の敵に対しては互いの利のために共同戦線を張った。しかし、その共通の敵がいなくなればどうなるか?

両者は次期軍閥の頭の座を狙って、再び骨肉の争いを始めるであろう。



そんな最中、袁尚から荊州の劉表の元に手紙が届いた。


「袁尚殿から我が荊州と同盟を結び、曹操軍を挟撃しようとのふみが届いた。劉備殿は曹軍閥にも袁軍閥にもくみした実績があるので、両者の内部事情に詳しかろう。どうすれば良いと思う?」


劉表が劉備に尋ねた。


「私は曹操軍を挟撃するという作戦に賛成です」


「ほう。劉備殿は、我が荊州軍に両雄の争いに参戦せよと申されるか?」


劉表の目に警戒の色が宿った。それに気づいていないのか、劉備は居ずまいを正して得意げに返答する。


「はい。ただし今はその時期ではありません。曹操軍が袁尚の討伐に向かった隙に、私に兵三万をお貸しください。長駆、許昌を陥れ、曹操に捕らわれている天子様をお救い致しましょう。

さすれば、天下の豪傑たちもこぞって反撃の烽火のろしを上げ、四方から攻め込み、曹操をとりこにすることも叶いましょう」


「成功の見込みは?」


「はて、五分五分と言ったところでしょうか」


劉表はしばしの間思案し、


「ふーむ、作戦としては面白いのう。だが、あまたの()()を経験した劉備殿なら、果たして五分程度の成功見込みで敢えて危ない橋を渡りますかな?

今、我が軍が大っぴらに戦の準備をすれば、許昌に駐屯する曹操軍の主力が荊州を狙って侵攻するやもしれぬ。藪をつついて蛇を出す羽目にはなりたくないものよ。やはりここは、挑発せずに慎重に事に当たらねばなるまい。劉備殿、貴重なご意見を下さり礼を申す」


劉表は穏やかに微笑み、劉備との会談を打ち切った。


◇◆◇◆◇


「あの老いぼれの腰抜けめ!俺の必勝の作戦を鼻で笑いやがって!」


新野城に戻った劉備は、その場にいない劉表に向かって悪態をつく。腰巾着の張飛も同調して、


「まったくですな。一騎当千の関羽の兄貴とオイラが兵三万を率いれば、曹操軍など恐れるに足らず!」


「アホか、おまえは!」


劉備が張飛を叱る。


「誰がまともに許昌など攻めるか!俺もおまえも曹操には一度も勝ったことがないんだぞ。あのな、兵三万もあれば、老いぼれの居る襄陽城など簡単に陥落させることができるだろうが!」


「ほえ?どうして味方の劉表殿を攻めるのです?」


張飛が首を傾げる。劉備は呆れたように、


「……もうよいわ。おまえでは天下国家を語る相手にはならぬ。やはり軍師が欲しいな」


とひとりごちた。


◇◆◇◆◇


「わしに兵三万を貸せと抜かしよった。馬鹿め。奴の魂胆などお見通しだわ」


襄陽城の劉表は、重臣の蔡瑁に吐き捨てた。


「乗っ取り……ですか。三万の兵の矛先は、この襄陽城ということですな」


蔡瑁の指摘に劉表がうなずく。


「そのとおりじゃ。陶謙・呂布・曹操・袁紹……奴がこれまで幾多の裏切りを重ねて来たか、知らぬと思うてか!?やはり大耳の兎野郎は信用できぬの」


「しかし武将としての劉備殿は一流ですぞ。捨てるには惜しい人材ですが」


「一流なのは、兎野郎本人というより配下の武将じゃ。見よ、先年の曹操軍との戦いで荒れ果てていた新野県を、三年のうちに見事に立て直しよった」


劉表は、新野県での善政が認められ、唐県の県令に任命された関羽の行政手腕に感心する。


「まずは管仲の『衣食足りて礼節を知る』の故事を引いて、県の住民に食糧の充足を説いた。そうして配下の兵を率いて自ら水路を築き、荒地を開墾して兵に屯田させた。一年目は五千石だった収穫高が、翌年には開墾地を広げて二万石に増えたのじゃ。県の住民を十分に食わせて猶余りある量じゃな。

評判を聞きつけた元住民や近隣の流浪民がこぞって新野に集まり、食い詰めて身を落とした山賊の輩も関羽に帰服したそうじゃ。今年は豊作もあって四万石らしい」


「見事な手腕、と褒めたいところですが、実際脅威ですな。奴が荊州の味方であるうちはいいが、反旗を翻せば……文武に秀でる者は危険極まりない」


「そのことよ。関羽に不正の疑いありとの告発を受け、これ幸いと、督郵に奴の治める唐県を査察させたのじゃが、結果はシロ。つまらんの」


「しかし、考えようによっては、あからさまに荊州乗っ取りの野望を抱く劉備将軍を牽制する役割は果たせるのではありませぬか?

県尉だった関羽を唐県に移すや、今年度の新野県の成績は駄々下がり。奴の面目は丸つぶれで、関羽に恨みを抱いている様子」


「確かにな。劉備の兎野郎を焚き付けて、関羽と反目させれば、いずれは……」


「共倒れ、ですな?フフフッ」


劉表と蔡瑁は、顔を見合わせてほくそ笑んだ。


次回。劉備の悪だくみを見抜いた劉表は、劉備に流言を仕掛けます。

焦る劉備(オレは自業自得と思うけど)。ところがその流言が本当に起こってしまって……。お楽しみに!


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