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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第一部・関興転生編
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01.秦朗、関興に転生する

関羽の息子・関興がヒーローとなる三国志です。

関興が生まれた建安五年(200)、官渡の戦いが始まる頃から物語が始まります。


オレはどうやら三国志の関興に転生したらしい。


なんでそれが分かるかというと、オレの目の前で「いないいないばあっ!」とか変顔やってるひげを生やしたマッチョな強面こわもてのおっさんが、某歴史シミュレーションゲームに登場する関羽の顔グラフィックにそっくりなのである。


「おかしいな?赤ん坊のくせに笑わんぞ」


とかつぶやきながらひげのおっさんが首をかしげているが、そんなの当たり前だ!

今でこそ赤ん坊の姿をしているが、ちょっと前までオレは三国志フリークのれっきとした24歳の日本男児だったのだ!



そう。

あの日の朝、ブラックで有名な某企業に勤務する社畜リーマンの俺、(はた)(あきら)は、昨夜も睡眠時間が3時間だったせいで、意識が朦朧としたまま、交差点の信号が青に変わるのを待っていた。

その時、目の前に転々と青いボールがころがり、それを追って幼児が横断歩道に駆け出す。右側から猛スピードで迫って来るトラックが見えた。


危ない!俺は咄嗟とっさに幼児を助けようと飛び出した。鳴り響くクラクションと急ブレーキの音。そして……


「んー興ちゃんはかわいいでちゅねー!パパは興ちゃんが好き好き大好き~」


ひげのおっさんが、前世の死に際を思い出して感傷的になっていたオレに頬ずりしやがった。

ぎゃあああーっ、やーめーろー!!

オレはおっさんにチュッチュッされながら抱きつかれて喜ぶ趣味なんかないのだ!

自由に逃れるすべのない赤ん坊のオレが、籠の中でジタバタもがいていると、


「父上!ひげがチクチクするので、興が嫌がっているではありませんか!」


ひげのおっさんを叱りながら、少年がドアを開けて部屋に入って来る。ひゅう。助かった。


「興、僕がお兄ちゃんの平だよ。これから兄弟仲良く暮らそうね」


と言ってオレを抱き上げた八歳の少年・関平君は、まだあどけなさの残る紅顔の美少年であった。


か、かわいいっ!

オレは思わず関平君にピタッと寄り添い、天使のような微笑みを見せる。

関平君もかわいいが、赤ちゃん姿のオレの微笑みもこの上なくかわいいのだ。

断わっておくが、オレにはBL趣味・ショタ趣味なんかが備わっていないのは言うまでもない。


「あはは、興が笑った。僕がお兄ちゃんって分かったんだ!おまえは賢いなあ」


嬉しそうに関平君も微笑み、ツンツンとオレの頬を突っつく。オレも喜んでキャッキャッとはしゃぐ。対して仏頂面のひげのおっさん。


「ちぇっ。平ばっかりずるいぞ!だったら俺も……」


と言ってバタバタと部屋を出て行くひげのおっさん。

やれやれ。やっとおっさんから解放されたか。安心していると、関平君がオレに向かってさとし始めた。


「興、僕たちは今から曹操様の元を離れる。父上の主君だった劉備将軍が荊州に落ち延びたそうだ。僕たちも劉備将軍の後を追う。しばらく逃亡生活で、つらい思いをするかもしれないけど、我慢するんだよ」


「バブー(分かったよ)」


なるほど。やはりひげのおっさんは関羽で間違いあるまい。

この世界がオレの知ってる三国志の世界だとすると、関平君の話から類推するに、今は建安五年(西暦でいうと200年)。華北の覇権を賭けた天下分け目と言われる官渡の戦いの頃だ。


黄河以北を勢力下におき兵二十万を率いる大軍閥の袁紹が、許昌の地で漢の皇帝を擁する曹操に向かって攻め寄せて来た。

一度は曹操に降りながら再び反旗を翻した劉備と張飛は袁紹の陣営に、関羽は曹操の陣営と、我ら主従は敵味方に分かれて対峙していた。

関羽は曹操のために、敵である袁紹の大将・顔良と文醜を斬る手柄を立て、義理を果たしたとばかりに曹操の元を立ち去る決意をする。


一方の劉備も、猜疑心が強く外様武将は出世の見込みがない袁紹軍に見切りをつけたのか、一計を案じ曹操軍の背後を攪乱すると言って袁紹の元を離れ、荊州に亡命するのであった。


「大丈夫。ああ見えて父上はとても強いんだ。興は心配しなくてもいいよ」


知ってる。関羽は赤兎馬に乗った軍神だからな。呂布亡き現在、天下最強の武将は関羽だといっても過言ではない。

そして曹操も、史実では義理人情に厚い武将だ。

下賜された褒賞にすべて封をして辞した関羽に対し、敵に回ると厄介だから追撃して殺そうと述べる謀臣・程昱の意見を曹操は退け、


「関羽はわしにも劉備にも忠義を尽くした立派な男だ。追ってはならぬ」


と厳命したそうだ。

だからオレは、今から曹操の元を逃げるとしても、命の危険はないと楽観しているのだが……


突然バアンとドアが開いて、バタバタと足音が近づいて来る。敵襲か?

身構えた関平君とオレの元に現れたのは、自慢のひげをきれいさっぱり剃り落とした関羽のおっさんだった。


「どうだ?これなら興ちゃんもひげがチクチクするまい!パパは興ちゃんが好き好き大好き~」


「父上……」


関平君は、唖然としながら関羽のおっさんに頬ずりされるオレを、可哀想な目で見つめていた。

いや、このおっさん大丈夫か?!


◇◆◇◆◇


オレたちが荊州に逃げる間、曹操軍の追っ手に捕まることはなかった。


正確に言えば、追っ手はやって来た。

だが、関羽のおっさんが自慢のひげを剃り落としたおかげで、手配書に描かれる強面こわもての関羽の姿と、今現在のおっさんの顔があまりにも違うため、オレたちは難なく追撃をかわすことができたのだ。


関羽のおっさんは、実はそこまで見通していた凄い奴なのでは……とちょっと見直したが、どうもそうではないらしい。

ひげのない関羽のおっさんは意外とイケメンなのだ。兵たちの噂によると、最近酒場のねーちゃん達にかなりモテるのが自慢で、「俺にモテ期がやって来た!」とか抜かしているそうだ。


おいおい、子供が二人もいるんだぞ。浮気は駄目だろ。

……と言いたいところだが、オレの母上はいったいどうしたんだろ?会ったことないんだけど。まさか産後の肥立ちが悪く、オレを産んだせいで母上は死んでしまったのか?


「いや、生きてるぞ」


なんだ、そうなのか。安心したぜ。


「おまえの母さんはいい女だった。顔は美人で巨乳。それに喘ぎ声がかわいくてな、感じているのに声を立てまいと必死で堪える姿が燃えるのだ」


バ、バカヤロー!そんな夜のノロケ話、赤ん坊の前でするなよ!


オレがバブーと抗議の声を上げると、関羽のおっさんは寂しそうに、


「だがな、おまえの母さんは曹操閣下に見初められた。俺は母さんが閣下の側室に入れられるのを黙って見ているしかなかったんだ」


「バブー?(何故だ?)」


「曹操閣下に仕えていた劉備将軍が反旗を翻して徐州の城を奪ったのだ。

閣下はすぐに討伐にやって来た。恐れをなした劉備将軍は逃亡し、俺は城に置き去りにされた。そうして俺は曹操閣下の捕虜となった。

俺は命乞いのために、母さんを閣下に差し出したんだ」


うわー、関羽のおっさんって最低な奴だな。


だが待てよ。才能ある人物を愛する曹操のことだ、袁紹軍の猛将・顔良と文醜を斬殺するほどの勇将である関羽のおっさんを、曹操がむざむざ殺すはずがない。

史実でも曹操は降った関羽を優遇し、漢寿亭侯の爵位を授けたではないか。


たぶん事実は逆で、関羽のおっさんは母上の命を救うために、敢えて曹操軍の捕虜となったのだ。「閣下に仕えるから、どうか妻の命は救って欲しい」と。だが、女好きの曹操はそれだけでは許してくれなかった。本来なら死罪に当たるが、美しい母上の姿を一目見て、側室に入れば罪は問わないと告げたのだろう。


では、関羽が曹操に命乞いをした母上の罪とはいったい何だろうか?

これはオレの勝手な推測にすぎないが、その直前、「曹操を殺せ」という密勅を劉備が後漢の献帝から授かった事件があった。オレの母上も曹操暗殺団の一味だったのではないか?


「さあな」


関羽のおっさんは自嘲気味に笑う。

しかし曹操に召し上げられた母上のお腹の中には、オレの命が宿っていることが分かった。曹操はオレが生まれるまで気長に待ってくれた。生まれた子は籠に入れられ「おまえが育てよ」と関羽に下げ渡された。そうして曹操はようやく美しい罪人である母上を抱いた……。そんな経緯じゃないか?


関羽のおっさんはオレを慈しむ目で見つめながら、そっと頭を撫で、


「おまえには母さんがいないが、俺は決して淋しい思いはさせないと誓おう。俺と平がいるから、興ちゃんも平気だろ?」


「バブー(まあな)」


なんだよ。関羽のおっさん、いい奴じゃないか!

しかたあるまい、オレに「興ちゃん好き好き大好き~」と頬ずりする権利を認めてやろう。……なんて冗談はさておき、とりあえず戦のない荊州に無事たどり着くことができたことを今は喜ぼう。


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