カルテ1.
私は闇医者。
新大久保のとある古びたビルの一角で診療所を経営している。
今日も正規ルートでは治療を受けられない疾しい人間たちがビルの裏口からひっそりと来所する。
今度の患者は見た目年齢五十代ほどの熟年御婦人だ。
「主人が注射嫌いで新型コロナワクチンを受けてくれないのです……コロナは風邪などと言い張って、マスクすらしない場合があります……代々ワンマン経営で、彼に何かあっては、ウチの従業員に食べさせていけなくなるのです……先生、どうにかなりませんか?」
「クックック……闇医者であるこの私の治療をご希望とは、よほど心配と見える……よかろう。ところでご主人に持病は?現在服薬している薬は?ない?次の連休は?…よろしい、で、あれば書類の下にこのカーボン付の署名欄を挟み込み、至急、同意書を作成したまえ。またyoutube動画閲覧中にワクチンの説明が流れるよう細工を施し、確認事項にチェックが押されなければ続きが観れないように編集しておこう……エビデンスはこちらで回収しておく。三週間後の昼食にこの睡眠導入剤を盛りなさい、秘密裏に部下を派遣しよう。そうだ、ついでに社内でワクチン接種の希望者を募りたまえよ。3日間は全員お休みだァ……産業医も斡旋して差し上げよう。福利厚生として会社経費で負担したまえ……税金対策にもなる」
接種後、副反応で痛みと熱が出たようだが、本人は過労と判断し、産業医の適切な治療を受けて以後も元気に動き回っているようだ。
私は闇医者。
新大久保のとある古びたビルの一角で診療所を経営している。
今日も正規ルートでは治療を受けられない疾しい人間たちがビルの裏口からひっそりと来所する。
今度の患者はとある大病院の研修医だ。
「夜勤時の手当てが3ヶ月経っても振り込まれていなくて……夜間は急病も多くて人手が足りなくて忙しいのに、これだけ頑張ってきたのに、もう心が折れそうです……」
「クックック……闇医者であるこの私に相談するとは、貴方こそ闇落ちしかけているな……よかろう、給与明細とタイムシートを出したまえ。適正な金額を算出し、医労連に報告を上げると同時に、病院の収益を確認し、不適切な利用がないかどうかもチェックしておいてやる……ついでに経営者の不祥事があればそれも優先的に流しておくこととしよう……安心して今日は眠りたまえ。連日の昼夜逆転生活は心身ともに壊れる原因と為り得る。帰りは晴れているだろう、歩きで日光を三十分以上浴びて帰るのがいい」
特注のフランスベッドに横たわらせ、適切な室温、光源、匂いを設定すれば、スコンと落ちるように眠った。
その後、目から隈の消えた若き医者は闘争心あふれるまま上層部と戦い、適切な金額を手に地方で開業したという。
私は闇医者。
新大久保のとある古びたビルの一角で診療所を経営している。
今日も正規ルートでは治療を受けられない疾しい人間たちがビルの裏口からひっそりと来所する。
今回は中小企業の経営者だ。新型コロナの影響でテレワークに移行したらしい。
「最近、在宅勤務の社員たちの肥満や運動不足が気になってきて……何かいいアイディアがありませんか?」
健康診断後、体重の急激増量で保険料が上がる者まで出てきたそうだ。
「クックック……闇医者であるこの私に相談するとは、大層お悩みのようだ……よかろう、社用PC端末にはすべてカメラとマイクが付いているな?接続パスコードを全て『使用者本人がラジオ体操第一を完遂しなければ解除されない』仕様に変更しておいてやろう……車椅子の者も専用体操があるからな……上級者には第二も追加だ」
スリープモードになる度、強制的に十分の体操を強いられるようになったため、結構な運動量の確保につながったようだが……出先の営業部には不評とのこと。早急な改善案が求められている。
私は闇医者。
新大久保のとある古びたビルの一角で診療所を経営している。
今日は某知事からの依頼で東京駅の改札口付近でマスクをしていないサラリーマンを麻酔付吹き矢で倒し、強制的に不織布マスクを装着する仕事を請け負っている。
鼻マスク、ウレタンマスク、ファッションマスクも対象者だ、慈悲はない。
この三十分で既に十一人仕留めている。
大変やりがいのある仕事だ。
近日行われるというノーマスクデモでは民間の敵対組織と手を組み、催眠ガスを散布し強制的にワクチンを打ち込んだ後放逐する予定だ。
1か月後の二回目の接種でまた捕獲しなおすのが手間だが、医者として患者を見放すわけにはいかないだろう。
ムシャクシャして書きました,特別深い意味はありません.