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週刊三題 二冊目  作者: 長岡壱月
Train-112.March 2022
56/249

(1) リセッタ

【お題】物語、台風、空

『ようこそ旅人さん。ここは●●●の町です』

 一体私達が、何をしたというのですか? 私達はただ、普通に暮らしていただけです。生

きてきただけです。只々貴方の命じるままに、振る舞ってきたというのに……。


『嗚呼、何ということだ……』

『神よ……』

 取り立てて大きな産業があるでもないこの町に、魔物の群れが押し寄せて来たのはつい先

日の事。まるで嵐のように、脈絡すら無い突然の暴力に、私達住民は為す術もありませんで

した。

 長らく暮らし、慣れ親しんできた町の風景が、一夜にして破壊され尽くしました。見知っ

た人々も多くが怪我をし、或いは帰らぬ人となって……。瓦礫の傍らで、あちこちから皆が

嘆いている声が聞こえます。涙しつつも、それでも懸命に祈る姿が映ります。


“……どうして?”


 確かにずっと以前から、この世界は危険と隣り合わせではありました。

 町を囲う防壁から一歩外に出れば、地域ごとに差はあれど、魔物がうろついているような

世の中です。腕に覚えのある戦士や王国の兵士、戦える者達が定期的に駆除に勤しんでくれ

てはいるものの、根本的な解決にはなっていないことぐらいは解ります。他の生き物とは異

なった性質。そもそもの元凶だと云う、魔王の討伐──未だもって、その偉業を成し遂げら

れた「勇者」は聞いたことがありませんが。

『ずっと南にある、▼▼▼の街が攻め落とされたらしいぞ』

『西のお城も、魔王配下の軍勢に滅ぼされてしまったそうな……。恐ろしい世の中になった

もんじゃのう……』


 ずっとずっと、私達は魔物も天災も、始めから“そう在るもの”だとして深く考えてはき

ませんでした。少なくともどれだけ憂いた所で、義憤いかった所で、いち市民の力では何も変わ

りはしません。役に立つ訳ではないのですから。

 でも──何だかおかしい。そんな恐ろしい、今までとはどうにも異質な違和感が、何時し

か私を襲うようになってから暫く経ちます。

 最初はそれこそ、気に病み過ぎて幻聴でも聞こえているんじゃないか? と、そう思って

いました。町の中とその近隣ぐらいしか、私達の住むセカイは無いから。そうした日常がい

よいよ壊され、無くなってしまうのではないかと、不安で堪らなかったのも事実です。


『お? 奇遇だな。俺も最近、どうも気持ちがモヤモヤしててよお……』

『時世かねえ。とうとう安心して暮らせない、そんな諦めが湧いてきているのかもしれん』


 でも……町の仲間達や年寄衆、更には通り掛かった商人までもが実は、そんな感触を抱い

ていたと知った時、私は別の意味で恐ろしくなったのです。本当に偶然なのか? ただ自然

に発生した災いやら魔物の侵攻が、この世界を壊そうとしているのか? 天災ならばともか

く、魔物達は一体どういうつもりなんだ? 魔王とやらの一言で、そんな後先も考えずに突

き進めるものなのか……?


 嵐だったり、火事だったり、地震だったり。

 災害というものは、ずっと自然に起こるものだと考えられていた。或いはヒトの理解の及

ばない何かが、意図するかしないかに拘らず起こしているものだと云う。神父様や、町の爺

さん・婆さんは、特にそういったものを信じている傾向がある。

 神だったり、悪魔だったり。

 そういうものを、全部ひっくるめて悪い魔物の仕業と絡めたり。

 “要らない”思考かもしれない。だけども私は、疑い始めるとそこからどうしても止める

ことは出来なかった。一度皆が信じ切っていた大前提が──この世界が“きちんと創られて

いる筈だ”という頭が、気付けばぐらぐらと揺らいでいた。最早信じ切ること、呑み込んで

忘れ去ろうとすることすら出来なくなっていた。

(……神様。貴方はもう、この世界が飽きてしまわれたというのですか?)


 何故今の今まで、誰も気付かなかったのだろう? その可能性を真剣に考えようとすらし

なかったのだろう? 真偽を確かめようとした所で、無意味だからか? 私達の“日常”に

は、何らプラスにはならないからか?

 “演者キャスト”の役割を、果たせなくなるからか?


 思い返す。私自身も、幼い頃はよく色々な空想をして遊んだものだ。或いは土いじりや積

み木、ままごと。そこには本来“無い”ものを“在る”という体でイメージを広げ、せめて

心だけでも滞在した。或いは一歩自分は引いて、そこで動き出す誰か達の生き様を観ていた

ように思う。楽しんだり、学ぼうとしていた。

 ……だったら、もしかしたら。私達の生きるこの世界も、他の誰かが創った空想の産物で

はないと、どうして言い切れるだろうか? 物凄く大雑把にそうした存在を言葉にするなら

ば、それこそ「神」だろうに……。いつも私達の傍で、私達の心の中を見守り、試してきて

くださった方ではないのか?

『も、もう駄目だあ……。おしまいだあ……』

『こっ、こんな事が続いたら、皆死んじまうよお! 暮らしも何もねえよお!』

『落ち……着け。無駄に叫んで、体力を消耗するだけだ、ぞ……』

 異常気象。

 思えば作物の不作から始まり、洪水、頻発する嵐、魔物達の暴走──これらが本当に全て

偶然の出来事だったのか。そもそも私達の知らない、もっと別次元の誰かが、何かしらの意

図を以って起こしている──そう考えた方が、よっぽど納得がいってしまうからだった。

 まるで災いそのものに意思があるかのように、追い詰める。私達を一人、また一人と困窮

させ、死なせてゆく。


 まるで、無■かったこと に%したいかの ##ような ■■


「一体私達が、何をしたというのですか? 私達はただ、普通に暮らしていただけです。生

きてきただけです。只々貴方の命じるままに、振る舞ってきたというのに……」

 顔など知らないし、分からない。

 だけれど私は、確信を得た瞬間とき空を仰いでいた。おそらく私のことも見ているであろう

“神”の存在を、睨み付けようとしていた。

 人は誰しも、自分に与えられた役割なるものが在ると云う。誰が言ったでも、明確な証拠

が残っている訳でもないが、私達は大抵の者が何となく、まあそういう側面もあるのだろう

と思い直して生きる。“そんなもの”だと、遅かれ早かれ折り合いを付けて生きる。

 だが……貴方のやっていることは、そんな私達の誠意すらをも裏切る行為だ。理由など知

らない。知ったこっちゃない。もしかしたら貴方も貴方で、私達のように似たような悩みに

直面して苦しみ、もがいている最中なのかもしれないが……“消して”しまうことはないだ

ろう?

 何が気に入らない? 何が思い通りにならなかった? それは私達、この世界で生きる者

がどうにか出来る問題なのか? もし違うというなら──酷いとばっちりだ。何も与り知ら

ない場所で、上位の貴方ではない誰かに、私達の命運はあまりにも簡単に壊される。安心し

て暮らせるだなんて、夢のまた夢じゃないか。

 苦しいのは辛い。辛くなるのは嫌だ。

 共感できるわかる。私だって、解るのだけど……。

『──』

 この眼差しは、届いているのだろうか? 私の向ける感情や思考は、貴方にとって理解で

きるものであるのだろうか?

 何も無い色褪せた空を、はたしてどれだけ睨み付けていただろう? ザリザリッと、時折

砂嵐のような違和感が襲う。それでも既に散々破壊され、遠く不毛の地に変えられたという

報せ・知識も合わさって、今やそんな話すら私の胸中には生温い。おそらく、今貴方の目的

とする所は──もっと極端で取り返しの付かないことだから。

「どうしてだ? どうして……?」

「全部壊して、始めから無かったことにするぐらいなら、何故創った!? 何故私達の身体

を、心を……魂を弄んだッ!?」

                                      (了)

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