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週刊三題 二冊目  作者: 長岡壱月
Train-124.March 2023
120/284

(5) 守り人のハル

【お題】赤、竜、主人公

 ドラゴンの血は、大昔から塗って良し飲んで良しの万能薬と言われているそうだ。滅多にお目に

掛かれない幻の品として、物凄い高値で取引されているとか何とか。

 ……まあ僕ような貧乏人には、一生働いても手が出ないぐらいの高級品なのだけど。そも

そも実物なんて目にしたこともなかったし、正直血が薬になるという話も始めはピンと来な

かった。

 自分には一生縁の無いもの、殆どおとぎ話ような物だとばかり思っていたのに──。


「おいこら、そこ、トロトロしてんじゃねえ! まだ半分も積み終わってねえだろうが!」

 切欠は貧民区スラムの仲間達から、稼ぎの良い仕事があるぞと聞いたことだった。何でもその荷

物を街まで卸す、運び終えるだけで銀貨一枚──普段のゴミ拾いやどぶ浚いじゃあ、日に銅

貨一枚入るかどうかの相場から考えると間違いなく破格だった。僕も、その話を聞いていた

他の仲間達も、殆ど釣られるように手を挙げたものだ。

「す、すみません……」

「でっ、でも。数が多過ぎて──」

「ああん!?」

 仕事自体は極々単純。元締めの大人達が拠点にしている、街外れの洞窟から、商品を詰め

込んだ樽を荷馬車に移す肉体労働。今まで散々やらされてきた使い走りの類だと思えば何て

ことはない。

 でも、こいつらの人使いの荒さは酷いものだった。多分大人でも二・三人で抱えなければ

キツいだろう大樽を何十個、休み無しの急ピッチで運ばされる。駆り出されていたのは僕も

含めて、皆身なりの悪い──貧民区スラム出の子供達だったと思う。時々身体が悲鳴を上げる誰か

を、監視役の男達が激しく罵っていた。乱暴に蹴っていた。最初、仕事の内容を説明しに出

て来たこいつらの人相を見て何となく理解はしていたけど……やっぱり堅気の人間じゃあな

い。

「ひっ!」

 目を付けられた子供が一人、そう睨みを利かされて震え上がっていた。もうボロボロなの

に、疲れているのは明らかなのに、それでも無理して働かされている。僕達も僕達で、その

矛先が自分に向かうのを恐れて、彼を助けようとはしなかった。黙々と指示に従って樽を運

ぶしかなかった。……逆らうほどの力なんて無かったし、わざわざそうする理由だってあり

はしない。金払いと現場の荒っぽさを比べて、どれぐらい“得”かどうかを考えてみるぐら

いなもので。

(……そう美味い話は無いってことかなあ。簡単に手を挙げるんじゃなかった……)

 多分、街で僕達に紹介してきた奴は、自分が辞めた後の“代わり”を差し出さなくちゃい

けなかったんだろう。少なくともこっちに来てから、そいつの姿を僕は一度も見ていない。


ドラゴンの、血?」

「ああ。あいつらが話してるのを偶然聞いたんだけどな。どうも酒じゃないみたいだぜ。珍

しい薬なんだってよ」

 もう一つ。この仕事の手間賃が高い理由も、暫くして判った。何日か先にこっちに来てい

た他の仕事仲間が、出荷後の合間にそう話してくれた。僕も彼も汗だくで、加えて洞窟内の

じめっとした空気が肌に纏わりついている。気持ち悪い。それでもようやく一仕事終えた達

成感の方が、身体を駆け回っているのだから、我ながら馬鹿だなと思う。

ドラゴン……)

 ずっとずっと大昔、この世界を支配していたという種族の一つ。大きな翼と硬い鱗を持っ

たトカゲ? みたいな姿をしているとか何とか。今は他の種族と同様、すっかり人間達の前

から姿を消しているらしいが、偶に冒険者だったり何だったりが彼らを見つけて来ることが

あるんだそうだ。多分今回も、そういったケースなんだろうとこの仲間は言う。僕自身はぼ

んやりと、記憶の片隅にある知識を必死に引き出しながらの話半分だったのだけど。

「中身を見るのは禁止されていたしね。液体は液体でも、血だとは思わなかった」

「大方、正体を知ってくすねる奴が出るのを警戒してるんだろう。金持ち達が大金を叩いて

でも欲しがるって言ってたし」

「ふうん……」

 汗だくになった額や首筋を拭いながら、暫く洞窟の片隅で深呼吸。

 そんな貴重な代物が、大樽にゴロゴロあった。街に卸されていった。確かに連中からすれ

ば大儲けなんだろう。それにしては──詳しい相場はよく知らないけれど、こっちの手間賃

が抑えられているような?

「どうせピンハネしてるんだろ。馬鹿正直にああいう奴らが払うかよ」

「まあ、そうだね……」

 ふいっと疑問に思って口にしてみたが、思った通りこの仲間はそう肩を竦ませる。連中に

とっては、取り分がそれだけ減る訳だから当然か。それでも街でちまちま稼ぐよりはよっぽ

ど高いのだけど。

「……」

 安くこき使われていることぐらいは、子供でも何となく理解は出来ていた。力仕事なら明

らかに上な筈のもっと上の年代を雇わないのは、僕達みたいな貧民区スラム出の孤児なら、いざと

いう時に切り捨て易いからだろう。足も付き難いし、街以上に稼げると唆せば、比較的人数

の補充も利く。

 ……僕も多分、そう長くは続かない。今この瞬間の休憩だって、終わればまた次の積み込

み作業へと追われるだろうから。

 それに──。

「ねえ」

「うん?」

 だから僕はもう少し、この仲間せんぱいから訊いてみることにした。これは半分以上自分自身の純

粋な疑問だったのだけど。

「そんな貴重な血を、あいつらは一体何処から手に入れてるんだろう? それも樽に何十個

も詰めては出荷できるぐらい、大量に」



『そりゃあ……ドラゴンの血っていうぐらいだから、何処かに本体がいるんじゃねえか? デカさ

も俺達人間なんかとは桁外れだろうし、樽にたんまり詰めたってお釣りが来るんだろう。多

分……』


 せんぱいの答えはそう、しどろもどろで自信なく。

 まぁ僕だって、確かなことは判らない。それこそ実物のドラゴンとかち合うだなんて、一握りの

冒険者パーティーとか大国の軍隊ぐらいな筈だ。だからこそ、妙だなとこの仕事をし始めて

から思っていたのだ。僕達をこき使っているあいつらが、実力でそんな伝説級の生き物を仕

留められるとは考え難い。

(あり得るパターンは、この洞窟にドラゴンの死体があるのを見つけた、とかなんだろうけど……)

 だから僕はこっそり、その出元を探ってみることにした。わざわざ街から遠く離れたこん

な洞窟に拠点を構えているってことは、此処に重要な何かがあると考えて間違いないから。

ドラゴン本体にしろ、薬にする施設みたいなものにしろ、街のど真ん中でやれること

ではないように思う。高額で取引されるっていうんなら、他にも狙う奴らは多そうだし。

(……居た)

 何度かの出荷作業で身体がくたくたになってゆくのを鞭打ちながら、僕は合間を見つけて

洞窟の中を探し回った。幸い中はそれほど複雑ではなかったし、目的の場所は奴らが厳重に

守っている所とイコールである筈……。

 予想した通り、それは洞窟の一番奥まった場所、苔むす下り坂の先にあった。

「変わりないか?」

「ああ。大人しくしてる。つーか、してくれなきゃ困る」

 口元を黒布で隠した奴らのメンバーが、交代で坂になる箇所を見張っているようだった。

ちょうど交替の時間だったのか、そんなやり取りが聞こえてくる。どうやら目当ての何かは

あの先で間違いないらしい。

(う~ん……。とは言っても、これ以上は無理だなあ。力尽くなんてもっての外だし……)

 ただ、僕の自力で辿り着けたのはここまで。二対一という以上に、そもそも子供が体格や

ら得物持ちの大人に敵う訳がない。無謀に飛び込んだ所で、ボコボコにされるか最悪消され

るのが関の山だろう。

(もしドラゴンの血が置いてあれば、くすねておさらばしようと思ってたのに……。いや、街に戻

って売り捌こうにも、奴らに嗅ぎ付けられちゃうかな……?)

 でも事態はここから、思わぬ方向に転がり始めた。僕がそう、密かに巡らせていた企みを

どうしたものかと考えていた最中、にわかに奴らが騒がしくなったのだ。向こうから別の仲

間達も駆けて来て、酷く慌てている。中には既に得物──ナイフを抜き、臨戦態勢に入って

いる奴もいるぐらいだ。

「──マジか?」

「ああ。いつぞやのガキがバラしたのかもしれねえ。或いは……」

「一気にヤクを流通させ過ぎたか。勘のいい奴なら、とうに出元を探り出しててもおかしくはな

いだろうしな」

 迎え撃つぞ!

 連中は、そう言って場から駆け出して行った。どうやら洞窟の外側で、ドラゴンの血を狙う別の

勢力が攻め込みでもして来たらしい。

 他の皆は……大丈夫かな? 思ったけれど、こういう時の貧民街スラム育ちは、割と薄情に思考

が働く。寧ろあいつらが居なくなった今がチャンスだと、もう一人の僕が脳内でゴーサイン

を出しまくっていた。

(今しか……無いか!)


 苔むした坂の先は、予想以上にだだっ広い空間が広がっていた。

 間違いなく、此処が奴らの本丸なんだろう。じめっとして只々暗いばかりの洞窟だとばか

り思っていたのに、不思議と此処だけは苔がぼんやりと光って灯りになっている。

「──何者だ? また我の、血を採りに来たのか? 見かけぬ顔だが……」

 ドラゴンが居たからだ。それも死体とかなんかじゃなく、威圧感たっぷりに生きたままの姿で。

僕は思わず呆然と立ち尽くし、暫くの間彼(?)を見上げるしかなかった。別に弱っている

様子もなく、元気そうではあったけれど、その首や両手足には何やら呪文みたいなものが浮

かぶ手錠が掛けられていたし……何より身体のあちこちに切り傷がある。

「……っ、はっ!? あ、えと。すみません。僕はあいつらに雇われて、荷物を運ばされて

ただけで……。その、喋れるんですね。人間の言葉」

「お主、我々竜族を何だと思っている? その程度、造作もない。寧ろ人語程度理解出来な

いようでは、ただの魔獣だろうに」

「そ、そういうものですか……」

 興味本位で洞窟を探していたとはいえ、内心後悔がじわじわ強くなり始めていた。そりゃ

あ伝説の種族、訳が違うとは頭では解っていたけれど、いざ実物を目の前にされると圧倒さ

れっ放しだ。こんなに“囚われの身です”状態全開だというのに。なのにまるで蚊ほども苦

しくないみたいな、そんな佇まい。

「……お主も早く此処から逃げた方が良い。我らを捕えた一味が、別の人間達と交戦してい

るようだ。じきに巻き込まれるぞ」

「ああ、やっぱりさっきのはそういう……。でも、貴方は良いんですか? そんな首輪やら

手錠でぐるぐる巻きにされてますし……」

「問題ない。この程度の戒め、すぐに破れる。だが──」

 そう。囚われの身であるようなのに、本人は何ともなさそう。でも実際は大人しく奴らに

捕まっていい様にされていた──血を抜いては売り捌かれ、文字通りの金づるとして利用さ

れていた。それが僕には、どうしても不可思議に思えたのだ。

 彼、このドラゴンは言う。一介の人間、それも未成年の自分に打ち明けるのはプライドが邪魔を

したのだろう。二度三度、言葉を呑み直そうとしながらも話してくれる。

「我が娘が、同じく囚われているのだ。あれはまだ幼体。変身技術も未熟で、この封印の枷

を付けられたままでは本来の力も発揮出来ぬ。その故……我は奴らに脅されていたのだ」

「……」

 ぽつぽつとこのドラゴンが語ってくれたことで、僕はようやく一連の経緯を理解することが出来

た。つまり彼は人質を取られていたのだ。自分の娘を。もし下手に抵抗しようものなら、彼

女の命は無いと。

「……その娘さんは?」

「この洞窟の中の何処かだろう。そう遠くにはおらぬ筈だ。囚われてからずっと、あれの気

配は感じ取れているからな。ほれ、お主の背後だ。他に通じる経路があるのだろう」

 僕は静かに義憤いかっていたのだと思う。じっと見上げて訊ねると、彼もずずっと首を動かし

て答えてくれた。確かにさっき見張りの奴らを観察していた時、奥にも別ルートの穴があっ

たと思う……。

「おい。お主まさか、行く気か? 我らに構うな。この程度の戒め、問題ないと言っただろ

う? 奴らが揉めておる今の内に破り、娘と共に逃げ果せる。お主も此処を出ろ。我らを捕

えた一味と交戦しているとて、所詮新手も、我らの血が目的の別な人間達に過ぎん」

「でしょうね。そう都合良く、助けてくれるとは思えませんし……」

 随分と優しいドラゴンさんだ。だからきっと、娘さんを人質にされた時、その本来の力を振るう

事すらせず捕まったんだろうな。自分は良くても、娘さんの方にだけは血を流させたくない。

奴らの、金儲けの道具にさせたくはない。

「本当、どっちが化け物なんだか……」

 ぽつり。僕は気付いたら呟いていた。ドラゴンさんが言うように、洞窟に攻めて来た側が、僕ら

を全員助けに来たと早とちりするには危な過ぎる。良くて五分五分、確率ならまとめて始末

・再捕獲される方が高いのだろうなというぐらい、僕にだって想像はつく。

 だから動くことにした。時間がない、分不相応だというのは解っている。それでも……せ

めて自分自身は、カネの正体を知った上で彼らを見捨てることなんて出来なかった。

ドラゴンさん。その娘さんさえこっちに連れて来れば、安心して脱出出来るんですよね? なら

ちょっと待ってて下さい。僕がその子を連れて来ます。怪我してるかもしれないし……。今

なら、見張りの奴らも居なくなってる筈です」

「お主……」

 難しい表情かおをしていたドラゴンさんも、結局僕からの申し出に折れてくれたようだった。何とい

うか、お互い奴らにぎゃふんと言わせてやりたいという動機が一致したのかもしれない。ギ

チッと自分に絡まった鎖を何度か引っ張りながら、彼は暫く僕の方を見ていた。改めて、ち

らっと娘さんのいるらしい方向を気配で確認している。

「レオナルドだ」

「えっ?」

「我が名は金竜レオナルド。娘の名はレミィという。礼を言うぞ、勇気ある人間よ」

「そういうのは、脱出した後に言って下さい。あと僕の名前はハルディオです。ハルって呼

んで下さい」


 レオナルドさんが示してくれた通り、目的の娘──レミィちゃんは案の定奥の分かれ道の

先に囚われていた。父親と同じように封印の枷を手足と首に取り付けられ、僕と同じぐらい

の年恰好の女の子──人間の姿を取ったまま座り込んでいた。

「あ、貴方は……?」

「君がドラゴンのレミィちゃんだね? 話はお父さんから聞いた。一緒に此処を出よう」

 先ず父親レオナルドさんの名前を出して警戒を解き、だけどもさてどうしたものかと辺りを見渡す。問題

の枷を一体どうやって外したものか。鍵は多分連中の誰かが持っているとは思うのだけど、

今ドンパチやっている中を掠め取りに行くのは現実的じゃない。かといって普通に外せるよ

うな感じじゃないし、だとすれば、せめて鎖部分を壁から切り離して彼女自身を移動させる

しかない。

「ちょっと待ってて。この石で、鎖をっ……!」

 手近な、硬そうな石を拾い上げて握り締め、渾身の力で枷の鎖を叩く。

 彼女も最初はこちらの振り被る動作に驚いたようだが、すぐに意図する所は汲んでくれた

ようだ。多分封印で力とやらは弱まっているのだろうけど、これで歩ける。このまま二人で

もう一度、レオナルドさんの所に戻れば──。

「おい、てめえ! 何してやがる!?」

『ッ?!』

 だが……誤算があったとすれば、連中が予想以上に早くこちらへ戻って来てしまった事。

面子が僕の知っている黒布ではないし、攻めて来た側が奴らを破って来たのだろうけど、彼

女を逃がそうとする様子に激怒したということは……やはりレオナルドさんの予想が当たっ

たらしい。

「討ち漏らした連中のガキか?」

「どっちにしろ、逃がす訳にはいかねえ!」

 ぶんっと、手にぶら下げていた長剣が幾つも、こちらに目掛けて振り抜かれてきた。僕は

殆ど反射的に庇っていた。

 彼女を、まだ満足に歩き回れないであろう、ドラゴン族の女の子を。

「──」

「チッ。一丁前に邪魔しやがって」

「あんだよ。冒険者ですらねえ、ただの素人か」

「おい、錠って他にあるのか? 鎖取られてるぞ。暴れられる前に押さえ──」


 真っ直ぐ横一字に切り伏せられた僕の身体と、その血だまりにガツッと踏み込むこの新手

の面々。残された彼女が、次の瞬間“吠え”た。


「んぎッ……!?」

『ぎゃああああああーッ!!』

 斬り捨てられた当人である僕には、最初よく解らなかった。それ以上に自分の、やっぱり

手も足も出なかったかと思う意識が朦朧としてくるので精一杯で、転がった視界から見える

一連の光景をはっきり視れていなかったということもある。

「ハルディオ、君。しっかり。死んじゃ、駄目……」

 嗚呼、さっきのは彼女の咆哮か。大人しそうな子に見えたのに、やっぱりドラゴンなんだなあ。

いや、それよりも。早く君だけでも逃げて。お父さん、レオナルドさんの所へすぐに──。

「……このままじゃあ。っ、なら!」

 その後の事は、正直言って記憶が途切れ途切れになっている。詳しい話は、奴らを追い払

ってから、レオナルドさんと当のレミィちゃんから聞いた。彼女は目の前で重傷を負った僕

に、父親に協力して自分を助けようとしてくれた一人の人間に、意を決すると自分の牙で指

の腹を噛んで血を垂らしたのだ。竜の血。一度市場に出回れば、高額で取引されるという万

能薬を。

「!? あいつ……!」

「嘘だろ? 自分から、ドラゴンの血を?」

「いや、でも。ドラゴンの血は、原液じゃあ濃過ぎるんだ。だから普通、何百倍にも薄めて──」

 結論から言うと、僕の傷はみるみる内に塞がっていった。彼女の、レミィちゃんから分け

与えられたドラゴン族の血液は、深々と僕を切り裂かれた僕の身体を元通りにし、尚且つそれだけ

に留まらない変化を──力を僕に与えた。

「ォ……。オォォォォォォォォォォォッ!!」

 漲る。内側から激しく沸騰するように、行き場を求めて力が僕の全身を駆け巡る。

 僕は殆ど野生児みたいな雄叫びを上げながら、すっくと起き上がっていた。身体の中に入

った彼女の血が、僕の全身を変質させる。指先は鋭く刃のようにうねり、両腕や膝がまるで

竜の鱗のように硬い装甲で覆われ始めた。背後、異変を察知して洞窟の壁をぶち抜きながら

駆け付けたレオナルドさんも、娘の無事以上に僕の様子を──血を原液のまま与えられたと

すぐに気付いて彼女の方を見遣る。当の本人、レミィちゃんも、ようやく自分が及ぼした影

響の大きさを理解したようだ。理解した上で、半分泣きそうになりながら視線を向ける。

「……フゥ、フゥ、フゥ!!」

 ドラゴン族と、彼らを狩る者。その血で大儲けを企む者。

 両者の間に、僕は立っていた。この卑劣な密猟者やつらを叩き潰す──。血走った眼で、そんな

凄まじい衝動に全身を焼かれながら。

                                      (了)

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