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週刊三題 二冊目  作者: 長岡壱月
Train-103.June 2021
12/285

(2) 謳う亜倣

【お題】世界、凍てつく、歌手

 表現するって……何だろう?

 そこは本当に、目映まばゆいだけの場所なのかな……?


 ヒトは歌う、彼らは謳う。本来は音色を乗せ続けるのに向かない喉に鞭打ってまで、人々

は古今東西幾つもの曲を作ってきた。ずっとずっと昔、かつては一部の特権階級にのみ開か

れた娯楽であったそれは、今や僕達の日常に欠かせない程に溶け込んで久しい。大衆文化の

花形として、今も様々に枝分かれをし続けている。

 いや……厳密に言えば、鈍くなっているんじゃなかろうか? 勿論、好きな人は今も昔も

好きなのだけど、少なくとも姿形は一定じゃない。不変じゃない。何というか──受け身な

んだ。よっぽど興味がある訳じゃない限り、現代はもう、日常の一部のように何処からとも

なく流れてくる。止めどなく流れ続けて、選択の余地さえ与えてくれない。

(~♪ ~~♪)

 だから僕達が、耳元に自前のスピーカーを引っ掛けるようになったのは、必然の事だった

と思っている。

 お気に入りのナンバーを、気が向いた時にだけ。良くも悪くも、周りの大人達がどれだけ

渋い表情かおをしていたって関係ないから。人にもよるけれど、文字通り邪魔な他人に対して

“壁”作るのに役立つといった側面もある。

『●●●を歌ってみた by ○○○』

『オリジナル曲:▲▲▲ 作:△△△』

 なのに──それでも僕らは、彼らは、人間って奴は満足できないらしい。踏み止まって安

堵する余力すら惜しいと勘違いしているのだろうか?

 ハードもソフトも、色々な環境が整っていって、物心付いた頃から僕らはただ聴くだけの

側から脱することができた。曲という作品を、うたを受け取るばかりじゃなくて、他の誰かに

自分から届けること。敢えてお洒落な言い方をするなら、全員がクリエイターになれる時代

がすぐ目の前に広がっている。当たり前になって久しいと云われている。

 だけど……どうかな。

 少なくとも僕は、そんなセカイへデビューしようとは思わなかった。今まで通り、聴いて

いるだけで充分だというのもあるし、何より才能とか技術の持ち合わせが無いってことぐら

いは、解っていたから。どれだけ“ガワ”があったって、使いこなせなければ宝の持ち腐れ

になってしまうし。

『新曲キター!』

『ここ好き』

『本当待ってた』

『○○○さん、愛してる!』

 特に……あれだ。ああやってクリエイターを名乗り、投稿している人達の自己顕示欲の高

さというか何というか。僕自身が冷めている部分もあるのだろうけど、時々傍から見ていて

恥ずかしくなることがある。動画にコメントが流れ、或いは残され。大元のコンテンツを覆

い隠してしまうぐらい、埋もれているレベルになんてなろうものならもう……素の自分と演

出して表に出した自分のどちらが本物なのだろう? と、怖くすらないのかなって……。

『~~♪』

 余計なお世話だ。所詮は僻みだろ?

 まあ、多分全く間違ってはいない。僕や他の誰か達のように、特段表現する技術を持ち合

わせている訳ではないから、厭に眩しく見えてしまう部分はあるんだと思う。彼・彼女らと

比べれば、何て自分はつまらないんだと考え始める切欠にもなるから。

 ただ……どうなんだろうなあ。

 確かに皆、楽しんでいる。それぞれの“推し”と共にさくひんを共有して、或いは今日も何処か

で、自分も創ってみようと決意する人間が生まれているかもしれない。そこに関しては素晴

らしいことなんだろう。ほっこりする連鎖だと……思える。


『はん、何を偉そうに……。他人のふんどしで相撲を取ってるだけじゃねえか』

『どうせ中身は、ただのおっさんとかババアだろ? ほら、前も中の人間が女の子に手を出

して捕まったっていうニュースがあったじゃん』


 それでも実際問題、コンテンツとしての安定性は割と薄氷の上なんじゃないか? と、僕

はみている。思い出すだけでもちょくちょく、中の人が迂闊なことをやった所為で炎上し、

投稿された曲やら何やらが削除されたってパターンもあった。場合によっては、その名義自

体が凍結されて、以降使えなくなって忘れ去られるっていう末路もしばしば耳にする。

 ──殊更に誰某と指名して、悪く言う為じゃない。

 ただふっと、揺り戻しのように折につけて思い出すのは、結局僕らが拠って立っている場

所が借り物であるということ。碌に人となりも知らないお偉いさん達の意向次第で、簡単に

そこに居られなくなるという現実だったりするからだ。乱暴に纏めるならば……リスクの床

上で踊っているだけなんだ。好かれるだけなら未だ良くて、しばしば些細な、自分にはどう

しようも出来ない理由で嫌われる。攻撃され続けて、遂には心を折られる。在りもしない罪

すら着せられて、件の舞台からも引き摺り降ろされかねない。

 はたしてスンと我に、現実に返らされる瞬間が訪れた時、自分はそんな落差に耐えること

ができるんだろうか……?


 自己満足。自己顕示欲。

 承認欲求。他人を凌駕する自分、才能。

 なまじ発信する手段が溢れるようになって、ヒトは自身の“爪痕”を残すことに躍起にな

りがちなんだろうと思う。或いは誰かがそうしようとし、辛うじて刻むことが出来たそれを

目撃してみて、自分も残さなくてはと駆り立てられた所為で。

 ……僕にだって、無い訳じゃない。自分だけは違う、彼らとは別の角度から見つめている

んだと自惚れるのは、もっと格好悪く見える可能性に想像が及んでいるつもりだ。その上で

未だ、表現するのが怖い。形に残して人目に触れさせることに、度胸がついてゆかない。

『まーた××モノかよ』

『●●系(笑)』

『お前らなあ……。そうやって外野からこき下ろすから、どんどん先鋭化してくんだぞ?』

 勿論、哂う者もいれば理解を示す人間もいる。音楽だけ、表現だけじゃなく、物事は概し

てそんな単純に片付けられるものじゃない。だけども一方で、スッと五感に入り、深く咀嚼

しなくても楽しめるものが好まれるというのもまた現実ではある。

 取っ付き易さが大事だ。愉しめさえせずに、考えさせられるのは苦痛だろうが──。

 音のリズム、うたの語呂。難しいことは後回しで良いのかもしれない。考えたい人に考えさ

せて、こっそり背後に仕込むぐらいで。露骨に見せても……芸が足りない。

 知覚は一瞬だ。

 耳や目から入ってきた情報は、能動的に吟味する暇を基本的には許してくれなくて、やや

遅れてから「あれは何だったのだろう?」と追いついてくる。そもそも当人が、それまでに

聴き終えて読み終えて、興味自体失っていれば……そこで出会いは“終了”するのだから。

 なのにその一瞬、誰かと噛み合うかどうかの確証もない可能性を夢見て色々と仕込み、密

かにほくそ笑むなんて……やっぱり異常だおかしいとしか考えられない。どれだけ意図を含んでも、

伝えたいことがあっても、インパクトは全てを持ってゆく。特に絵かな? ビジュアルが良

ければ、そちらの技術が高ければ、中の人間なんて関係なかった。寧ろそういった表の“ガ

ワ”に引っ張られて、他人はそっちにしか目が行かない。


(──ああ、新曲の宣伝か)

 加えて今じゃあ、そんな外見と中身が一致しない作品達が、普段の日常にまで出張してく

ることも珍しくなくなって来ている。リアルが、当たり前っちゃあ当たり前だけど、ガワの

目映さに引っ張られて侵食されてきて久しい。

 今日も駅の構内に、とあるクリエイターもといアーティストの宣伝ポスターがずらり貼ら

れていた。曲の世界観に合わせてばっちり衣装を変えている人間もいれば、そもそも現実の

人間ですらない、造られたキャラクター達が笑って跳んでいる絵であったりもする。時折、

年配のおじさんやおばさん達が、怪訝な眼でこれらを一瞥しては足早に去ってゆくけれど、

もしかしたら僕も似たような側なのかもしれない。彼らほど嫌悪感──警戒心を持っている

訳ではないにせよ、そこに一抹の違和感を覚えているならば、きっと。

「……」

 僕は暫く立ち呆けていた。記憶の引き出しから、連想ゲームのように「そう言えば誰某も

こんなジャケットがあったなあ」とか「前あの子BANされてたけど、戻ったんだっけ?」

等と検める。もやもやと、目の前に出されてくる作品や世界観の愉しさよりも、その後ろで

繰り広げられてきたであろう苦労ばかりを想った。想って──やはり僕は、純粋に創る側に

は向いていないんだろうなあと、ため息をつく。

『~♪ ~~♪』

 再び耳元にヘッドフォンを。周囲の喧騒に“壁”を作って、目的の順路へ歩き出す。

 僕達の時間は長いようで短い。短くても長く感じられる。同じ踊るなら──歌ってもいい

ならば、歌わにゃ損々。だけど生憎、この時代は拠って立つ舞台すら違う。良くも悪くも自

分で選べてしまう。だからこそ起こった後悔を、他の誰の所為にもできないジレンマが横た

わっている。図太くて、すっぱり割り切れた奴だけが踊り続けられる。ひいては皆に認めて

貰える。

 ──女々しいのだな。

 屁理屈ばかりで、目映い方を直視しようともしない。

                                      (了)

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