「場末の女」
第五話
「場末の女」
彼女の肉体は、其の手の男にとって魅力的なシルエットとラインを持ち官能的。
それだけで充分この店に通う理由になる。
酔客との卑猥な会話にも一緒に盛り上げる経験豊富な中年の女。
私も、何気なく入ってから週に一、二度くるようになった。
この店は、ボトルさえ入っていれば、かなり安く呑める、といってもボトルもさほど高くはなく、こちらの方が心配するくらいだ。
老人の域に入り、既にポテンシャルを無くしたと自覚している男にとって丁度いい酒場と云える。
世間的に云ういいスタイルとか若さは、この店に通う男達には必要ない。
むしろ、ほどよく脂がのって少し緩んで愛嬌があればいい。
「カラーン」
「あら、Kさん早いわね。」
「いいですか?」
「えぇ、今みんな帰ったばかり、さっきまで忙しかったの!」
「そうですか。」
いつもこの時間だけど必ずこう云う。
ここでは、早くて三十分、長くても一時間くらいでスナックへ移動する。
当に会社での役目も終え、家庭でも孤立している人間にとって、ここでの会話は貴重だ。
だいたい私が入る頃、彼女はカウンターの端に座ってスマホをいじっている。
その横の姿から下っ腹がかなりたるんでいるのが分かる。
そのたるみ具合いから、年齢を想像すると四十半ば。
顔の皺やシミはケアしているようだが、脂については気にしていないようだ。
九時頃から客が増え始め、十時頃に最初のピークそれから近くの店が閉まる頃に場末のスナックのホステス達が来て二度目のピークそして二時頃に終わる。
私が、こんな時間までいるのは殆どない。
みんな大分酔って賑やかだ。
「Kさんは、私のことが好きだから。」
彼女のいつもの台詞。」
普段なら笑ってかわすけれど今日は。
「好きですよ。」
と云った。
彼女は、笑って何も云わなかった。
頭の中で「夜が来る」が聴こえてくる。
そろそろ帰ろう。