「運命の人」
第四話
「運命の人」
「今日も偶然!」
「勿論、Kさんの方こそ私を待っていたんでしょ。」
これで三度目、偶然も三度も重なると、普通に考えると運命の人のように思えるが、何となくはぐらかされ例によって食事へ、毎回違う店をその場で選ぶ。
「牡蠣は、大丈夫ですか?」
「大好きです!」
駅前のビルの中にある専門店に入った。
産地の違う生牡蠣を何種類か食べ、私は白ワイン、彼女はビール、いつものようにさり気なく誘ってみたけれど、間髪入れず。
「無理!」
と云われた。
食事を終え、いつものBarへ行き呑み直しもう一度誘うと。
「私と付き合ってどうするの。」
「散々弄んで、オモチャにして、飽きたら捨てる。」
「そんな最低な男と誰が付き合うのよ!」
「そうよバカじゃないの!」
カウンターの中からママが云った。
彼女は、よく勝手に会話に入ってくる。
「昔、同じことを云った女がいた。」
「それで?」
彼女は、
「私と一度でも付き合ったら離れられなくなるわよ!」
と云った。
「そんなの嘘よ!」
「でも、そういう返しの方がいい。」
「それで、どうなったの?」
「俺から金をせびって若いイケメンと、どこかへ行ってしまった。」
「そんなものよ!可哀想に。」
「いいきみよ!」
と又ママが、入ってきた。
「冗談だよ、今、浮かんだストーリー、なかなかいい。」
と云いながらブッシュミルズを呑み干した。
「ハッスル!」
「バートレイノルズとカトリーヌドヌーヴね。」
この古いアイリッシュウイスキーを味わいながら遠い昔の苦い思い出が蘇ってきた。
「夜が来る」のメロディと共に。