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【完結】宣誓のその先へ  作者: ねこかもめ
【一話】絶望と誓い。
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(9)芽を出した平等な不条理

 黒い霧事件。あの一件はそう名付けられた。

だが名前などこの際どうでもいいのだ。

発生から三か月余りが経過した今、人類の最優先課題は、

五百年ぶりに姿を現した魔物への対応であった。


 戦線に駆り出されたのはもちろん騎士団だ。

しかし、永きに渡って争いと無縁だった彼らにとって、

対応などと言っても無理難題であることは明白だ。


 いや騎士だけではない。

政治、物流、経済システムに至るまで、ありとあらゆるものが悲鳴を上げた。


 オレやアイシャ、サラ、そしてすべての人が日常を剥奪されたのだ。

ほんの少し前まで当たり前だった平和は、もう手の届かぬ夢の代物だ。


 その不条理は皮肉なことに、万人に対して平等に降り注いだ。

与えられた平和を、無論、そんなことは自覚せずに

謳歌していたのはオレたちだけではないからだ。


 この時点で少し、先生が授業で言っていたことを理解した。

あの日々は帰ってこない。子供のオレにとっては、これだけでも十二分に絶望だ。


 しかし、現実というのはあまりにも非常で。

相手がだれであっても慈悲などない。

一体どこまでヘイトを稼げば気が済むのか。

オレに更なる絶望、いや、絶望という表現なんぞでは

収まらないほどの出来事が襲い掛かった。


ある日、幼馴染の少女、サラが亡くなったのだ。

何も、言葉が出なかった。その知らせを聞いたオレは、その場でひざから崩れ落ちた。


 何日か経った日、顔の下に小さな水たまりを発見した。


なんだ、これは。


さっきから大声で叫ぶ声が聞こえる。


うるさいな、黙ってくれ。


だけどしばらくして気が付いた。


オレが泣いていた。


オレの涙とオレの泣き声だった。


 それを知った後も泣き続けた。来る日も来る日も、ずっと。

声も涙も枯れた。オレは、学校にすら行かなかった。死にたかった。

サラの居ない世界で生きて何になるんだと

自分を問いただしたが、答えが見つかることはなかった。


 当たり前にそこにあった日常は、当たり前などではなかった。

失ってはじめて、あの言葉を完全に理解した。

心を覆いつくす闇、自身の感情がどういうものなのかの整理もつかずにいた。


 だが、あることをきっかけに、オレは大事なことに気が付いた。

そして誓った。戦う、と。騎士になって魔物と戦い、必ず滅ぼしてやると。


この、何なのか分からない感情を魔物への怒りに置換して。


すべて奴らのせいだ、と。


アイシャも気持ちを同じくしてくれた。


絶対に成し遂げる。


その宣誓だけが混沌とした心の中で

世界の中で、唯一明るく強く、明瞭に煌めいていた。



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