(83)猛毒の花にご注意
「よーし決めたぞ。へへへっ。楽しみだぜ。アイシャの奴の歪んだ顔を——」
鈍い音とともに、ザックの言葉はそこで途切れた。
「ぐへぇ⁈」
「……⁈」
短剣を持ったザックは、向きはそのまま、前に吹っ飛んだ。
何が起きたかわからず、必死に周囲を見渡すと、立っていたのはアイシャだった。
「ア……アイシャ⁈ 無事か? 何ともないのか?」
——必死に言葉を紡ぐ。
「うーん、今のユウよりは大丈夫、かな」
……言ってくれる。
「ほら、行くよ」
立つのにアイシャの肩を借りてしまった。
「情けないな……本当。アイシャに救われてばっかりだな、俺」
「そんなことないよ。こうして、助けに来てくれたでしょ? 自分がこんなにボロボロにされて。あの大きい四人組だって倒してくれた。私があいつらに襲われたら、勝てなかっただろうし」
——っ‼
「それで思い出した! アイシャ!」
「な、なに?」
「大丈夫か? 襲われてないか? あっちの意味で! あいつらはそれを目的に——」
「ふふん。私はまだ、穢されてないよ。本当だよ? 試してみる?」
——正直、確認したい気持ちもあったが、それはそれでマズい気がして思いとどまった。
「よかった……」
「言ったでしょ? 私はユウの女だって」
「よかったよ、本当に、よかった」
帰ってきた「幼馴染」を、抱きしめた。
情けないことに、半泣きで。
「……もう」
「そうだ、これ」
ミラが拾ってくれたアイシャの髪飾りだ。
ポケットに入れていたが、どうやら無事だったようで一安心。
乱れたアイシャの髪。
それを手でとかし、いつもつけているところに戻した。
「……へたっぴ」
「悪かったよ」
その後、クリスとミラのところに戻った俺たちは
今日あった事をそっくりそのまま教官に報告した。
どうやらアイシャが監禁されるところを
目撃した人がいたらしく、教官たちも動いていたようだ。
だが彼女は自力で脱出し
「あんなので私を閉じ込めたつもり?」
と言っていた。
——末恐ろしい。
事件を起こしたザックと四人組、警備にあたっていた仲間は
いったん停学処分とし、上層と話し合って今後のことを決定するそうだ。
四人を攻撃した俺と、警備をボコボコにしたアイシャだが
状況からして、致し方無い「防衛」行為であったとして、処分は下されなかった。
あの脅迫状が、十分な証拠となったようだ。
その事件から時間がたっても、アイシャへのナンパが無くなったわけではない。
何度「怖くはないのか」と訊いても
帰ってくるのは「私がかわいいから仕方ない」というおちゃらけた答えだけ。
俺としては心配でたまらないのだが……。
かといってナンパ防止策があるわけでもない。
する、しない、はする側の意志だから俺にもアイシャにも、どうすることもできない。
故に、俺は結局、こうやって納得することにした。
——ああ、アイシャがかわいいから仕方ないな‼
——と。




