(7)五百年後のオレ
前回【零話】
過去の人物、ユーリの身に起こった不可思議な出来事、記憶と現実の差異。
脳内に流れる映像は。おばあさんは。父の存在は。
クラウズや母にそれは「夢」だと言われたユーリは、幼馴染リーズとの楽しい記憶で脳内を満たし
自分自身に、「夢」であると言い聞かせた。
今話【一話】
~登場人物~
ユウ:ストロングホールドに住む少年。
アイシャ:ユウの幼馴染の少女。おてんば娘。将来はユウと結婚するのだと勝手に決めている。
サラ:アイシャと同じく、ユウの幼馴染の少女。心優しい人物。毎度アイシャに巻き込まれる。
人魔大戦。
読んで字の如く人間と魔物と呼ばれるバケモノによる、何百年も続いたという大規模な戦争。
だけどそれはもう歴史上の出来事に過ぎない。さらに言えば教科書に載っている太字で書かれた単語だ。終戦から五百年も経過した時代を生きるオレからすればそんなものだ。でも、全く関係がないわけでもない。
生まれ育った街、ストロングホールドはその戦争時代に王都を護る最後の砦として造られたそうだ。その名残として大きな壁とか、壊れたレールとかが見られる。
……っと、歴史の勉強はここまでにしておこうか。
そろそろ行かないと殺されるかもしれない。
「誰に?」って。まあ、幼馴染ってやつさ。
「ユウ‼ もうアイシャもサラも来てるわよ!」
ユウ。それがオレの名前。
アイシャとサラは……友達だ。
「今行く!」
一階から母の声が聞こえ、反射的に返事をした。
用意しておいた小さい鞄を持って、急ぎ階段を駆け下りた。
靴を履いて外に出ると、二人が笑顔で立っていた。
片方はやさしさの笑顔、もう片方は狂気の笑顔である。
「遅いよ、ユウ」
「遅いってまだ三十分も前じゃ……」
「ははは、ごめんね、ユウ。アイシャってばすっごい早くに迎えに来てさ」
「良いんだ。サラは何も」
「はいそこいちゃつかないの」
襟をつかまれ、サラと話していたオレは引きはがされた。
おてんば娘め……。
「んで、今日は何のための招集?」
「それを決める招集よ」
……沈黙。
「……ははは」
「サラ、無理に笑うことはないぜ……」
要するに無計画というわけだな。
今までも無計画で色々やらかしている。
防壁に登ったり、兵舎に忍び込んだり。
もちろんこっぴどく叱られた。
オレは良いが、アイシャを止めるためについてくる形になってしまった結果、
サラまでもが一緒に叱られるのは解せない。
何とかしてアイシャを止めなければ。
「そうだアイシャ、教会を見に行こうか」
「教会?」
「うん、街のはずれにあるやつ」
「教会なんて見てどうするの?」
「ど、どうするって……」
しまった、と後悔した。
面倒なことになる前にそれなりの案を出そうと思ったが……
教会では彼女の気を引けなかったようだ。
だがここで、思わぬ援護が飛んできた。
「ほら、アイシャは将来ユウと結婚するって言ってたでしょ? 結婚式をする教会を見ておくのも悪くないと思うんだけど」
サラがオレの案に気付いてくれたらしい。
チラッと彼女の方に目を向けると、軽くウィンクをしてきた。
助かりました女神様。
「そ、そうね! じゃあ行こう‼」
教会行きの馬車乗り場がある方角に急旋回してさっさと歩み始めたアイシャ。
一瞬だけ見えたその顔は、少し赤らんでいるようだった。