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【完結】宣誓のその先へ  作者: ねこかもめ
【七話】怠惰と変動。
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(66)怠惰の罪

 魔物の目の前まで来ると、その大きさによる威圧感に潰されそうになる。

これがかつてはあの肉塊だった、などと誰が想像できよう。


——やって見せるっ‼


 剣を構えると、魔物も臨戦態勢をとる。

体と共に生成した大きな斧を振り上げる。

体の内部に重低音の威嚇が響く。


——速いっ!


その巨体からは想像がつかないスピードで繰り出された攻撃。

だが何度も言うように、俺は全力をもって戦う。

ヴァルム地方の魔物での経験を思い出す。


冷静に右に回避し——


——そこだ!


地面に刺さった斧を引き抜こうとしている。その肘に一撃食らわせた。


魔物は思わず、斧から手を離す。


俺が体勢を整えている間に、エリナさんが斧を破壊し、三人は連携して追撃を仕掛けている。

足に気を付けながら着地。下がってきたアイシャが、また俺の横に来た。


「アイシャよ。俺たちは——」

「わかってる。能力でも何でもなかった」

「ああ」

「私ね、ずっと自信があったの。成績は悪くなかったし、戦闘面もそれなりに満足してた。でもね、今日思ったんだ。調子に乗ってたのかもって」

「……」


やはり、怠惰は誰にでもあったんだ。


「だからね、もっと上を目指そうかなって」

「じゃあ一緒に、トレーニング量増や——」

「もっとかわいくなっちゃう」

「……」


黙ってしまったが、それも言わば怠惰殺しの一種ではあると気づく。

アイシャらしいといえばアイシャらしいし

特にツッコむことはせず、代わりにボソッとつぶやいた。


「——それ以上なられたら困っちまうよ」

「え、なんて?」


アイシャの疑問に返事をせず

俺はすぐに魔物の方へ駆け出した。


「ちょっ……もう一回! ねえ!」


……聞こえていたんじゃないのか?



 五人で押し、戦況はこちらが有利。

とはいえ、素早い巨体というのはなかなかに厄介だ。


氷山の奴は直線的な動きが多かった。

だから見切りやすかったのだが

今回は人型で、それに伴って動きが複雑だ。


——そこだっ!


相手の拳は回避。反動の大きい両拳ハンマーは反射して隙を作る。

怯んだ魔物は、さらに四人のメンバーによって追撃を受ける。


「もらい!」

「ナイスだ!」


アイシャに膝裏を狙われ、ついに地面に倒れ込む。

その巨体に見合うだけの衝撃が放たれる。

舞い上がった砂塵を払い、コアを狙う。肉塊の時は頭の方にあった。


「コア、発見しました」


倒れた魔物の首付近にいたエリナさんがコアを発見。


「了解。壊しちゃって。……気を付けて、ね」


さっきのことがあったばかりだ。

最大限の警戒として、リーフさんが近くへ。


「それでは」


剣が振り下ろされ、コアを一刀両断。

今度は触手も来ず、爆発もせず。

聞き慣れたガラスの割れるような音とともに魔物の肉体が霧散した。


「終わったね」

「ああ。もう、くたくた」

「後半はずっと全力だったし、しょうがないよ。お疲れ様」

「アイシャもお疲れさん」

「うん」


——陽が落ちてきた。


「帰ろっか」


砂で薄汚れた顔で無邪気に笑いながら言う。


それは、今も昔も変わらぬ笑顔。


さながら遊んだ帰り道のようだった。


「……変わらないでいいものも、あるんだな」


そう小声でつぶやくと、俺の手を引くアイシャにその声が聞こえたらしい。


「……なんて?」

「いや。ちょっと昔を思い出しただけ」

「ふーん、そっか。ねえ」

「ん?」

「約束、忘れないでよね?」

「え、なんの?」

「……さぁね」

「……なんだよ、まったく」


——分かってるさ。


そのためにここまで来たんだ。

オレにできなかったことを、俺自身で成し遂げるために。



 「人は変われる」という言葉をよく耳にする。果たして本当だろうか。

精神の根底から怠惰を消し去り、まるで別人のように変化することはできるのだろうか。

変わったとして、それは俺のように「そんな気でいただけ」だけではなかろうか。


その答えは分からない。


——分からなくてもいい。


俺はそう思う。


いくら強固な決意をしても。

どんなに優秀な騎士になっても。

その時の状況に併せて湧き出る怠惰。


それを永劫に滅することは、少なくとも俺にはできなかった。

ならば俺はその都度、己の怠慢を打ち破ろう。

そして己に「怠惰ではないか」と問い続ける。


それが結果的に怠惰殺しになると信じて。


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